エルフの少女
「俺のツーハンドソードが......」
バンダナ男は地面に膝を着き、完全に戦意を失っていた。だからと言って許しはしないが、何か言い残したいことがあるなら聞いてあげよう。
「何か言い残したい事はありますか?」
「ねぇよ。さっさと殺せ」
バンダナ男はそのまま地面に胡座をかき、背を向けて無抵抗の意思表示をしてきた。だが、まだ殺さない。情報を聞き出してからじゃないとね。
「それじゃあ、死ぬ前にいくつか教えてください。さっきのメイドさんは仲間ですか?」
「あの女はただの奴隷だよ。俺らの身の回りの世話をさせてただけだ」
「他に少し前にエルフの女の子を攫ったでしょう。その子はどこにいますか?」
「エルフの女は奥の牢屋に閉じ込めてある。今夜楽しもうと思ってたんだがな、さっさとやっておけば良かったぜ」
とりあえず聞きたい事は全て聞けた。メイドはやはり奴隷として世話係をやらせていたみたいだし、エルフの女の子も無事みたいだ。バンダナ男は最後に協力的だったから、出来るだけ楽に死なせてあげた。後は残りの2人を助けておしまいだ。部屋の奥へと進むと、先程下がっていったメイドさんが佇んでいた。
「お頭様は亡くなられてしまったのですか?」
「はい、俺が倒しました。メイドさんの方こそ盗賊の奴隷にされて大丈夫でしたか?」
「そうですか、私は大丈夫です。それでは私は今日から貴方様の奴隷です。よろしくお願い致します」
え、今何て言った。今日から俺の奴隷?また何かの冗談だろうか。でも、確かに奴隷を所有物という認識ならば、盗賊を倒した俺に所有権が移ると考えると、それが普通なのかと思えてくる。だが、メイドさんも帰る場所とかがあるなら、そちらを優先させてあげたい。
「特に奴隷が欲しかったって言う訳ではないから、何も問題なければ奴隷は開放しようと思います。」
「残念ながら私にはこれから先行く宛もありません。助けて頂いたご恩もありますので、是非貴方様の下でお使いください」
との事で、断れずに俺の下で働いてもらうことになった。お互いに自己紹介をする。彼女の名前はシェリーと言うらしい。シェリーはダークブラウンの長い髪を首の後ろで一纏めにしていて、瞳の色は黒っぽいが光の具合によって青みがかっている。今まで出会った人は西洋風の顔立ちが多かったが、シェリーは和風の顔立ちをしていて親近感を覚えた。
「これからよろしく、シェリーさん」
「私のことは呼び捨てで構いません。ショウジ様の奴隷なのですから」
「わかったよ、シェリー。それじゃエルフの女の子の所まで案内してもらえるかな?」
シェリーの後に続いて奥へ進むと、洞窟の凹みに鉄格子をはめ込んだような形で牢屋が出来ていた。その中にエルフと思われる少女がフードを被り蹲っていた。こちらに気付くと顔を上げ、様子を伺ってくる。シェリーが用意した鍵で牢屋を開けてもらい、中に入って少女の前に跪く。
「俺は神楽坂翔二。君を助けに来ました」
俺は少女に向けて手を差し出す。少女は初め怯えていたが、次第に落ち着きを取り戻したのか震えは止まり、こちらの手を取り共に立ち上がる。
「君の名前を教えてもらえるかな」
「……ソフィア」
ソフィアは呟く様に名前を言う。そして被っていたフードを脱ぎ去り、隠れていた素顔が現れた。まずはエルフの特徴である耳だろう。思っていたよりは尖っていなく、人間の耳の先を少し尖らせたくらいだった。もしかしたらハーフエルフとかかもしれない。さらさらのプラチナブロンドの髪にエメラルドグリーンの瞳が良く映え、大体エルフは美形といわれていることが多いが、ソフィアも例外なく美形だ。
「ソフィア、盗賊は全員倒したから安心して。一緒にここを出よう」
コクリとソフィアが頷く。だが、少し前から《探知》に反応があり、その数が増え続けている。多分洞窟の入り口辺りだろう。もしかしたら出払っていた盗賊が帰ってきたのかもしれない。
「ちょっとここで待ってて、すぐ戻るから。シェリーさん、ソフィアをよろしく」
そう言い残して洞窟の入り口に向かう。警戒しつつ様子を探ると、そこに居たのは禿頭とその筋骨隆々の身体が際立つブラームスさんだった。その周りにいるのは冒険者達なのだろう。俺は警戒を解いて洞窟から出て行く。ブラームスさん達は洞窟から出てくる気配を察知してすぐに臨戦態勢になった。
「ちょっと待った!ブラームスさん俺です、神楽坂翔ニです!!」
「ん、昼間の坊主じゃないか。もしや、街道で商人のタランドーを助けたのは坊主か?」
「ええ、タランドーさんを助けた後、攫われた女の子を助けに来てました」
「もう討伐は終わったのか?」
俺は入り口に埋めて隠しておいた盗賊の死体をブラームスさんに見せる。他の冒険者は驚いていたが、ブラームスさんは呆れていた。
「坊主よく聞いておけ。あまり無茶な事はするな。戦いとは何が起こるかわからないからな、しっかり戦力を確保して、安全に安全を重ねて行かなければ、いつか死ぬぞ。今回は無事だったからもう何も言わないが、くれぐれも気を付けるんだぞ」
その後、洞窟の中で待たせているソフィアとシェリーの元へ行き、事情をブラームスさんに説明して、一緒にティーリアの街まで帰る事になった。盗賊の死体は全て埋葬した。てっきり火葬とかにしないとゾンビになるのかと思っていたらそんな事はないらしい。あくまで人間は人間、モンスターはモンスターとして生まれるそうだ。
無事に街まで帰ってくると冒険者ギルドに顔を出さなければならないらしく、被害者であるソフィアとシェリーも連れて行った。会議室みたいな所へ通され、そこで待っているとブラームスさんとタランドーさん、そしてもう一人男性が入ってきた。その男は長身で細身だが筋肉が程良く引き締まっていてスタイルもいい。いかにも金髪碧眼のイケメンというやつだ。
「君がショウジ・カグラザカ君か、噂は聞いているよ。試験でブラームスに一発当てたんだって?ああ、僕はギルドマスターのクルガン・ストラーダだ、よろしく」
イケメンはギルドマスターだったらしい。手を差し出してきたので、こちらも差し出して握手をする。
「まずは、ショウジ君は初級冒険者から下級冒険者に任命する。次に盗賊の奴隷だったシェリー君はショウジ君の奴隷という事で問題ない。ただソフィア君の方はタランドーが生き残った為、所有権はまだタランドーにある。だが、攫われたのをショウジ君が助けたため、所有権はショウジ君のものとする。でよかったか、タランドー?」
「はい。命を助けて頂いたご恩もありますのでそれで構いません」
ソフィアの所有権はタランドーさんから俺に移すらしい。貰えるのなら貰っちゃうけど、返してとか言っても返さないからね。
「タランドーさん、本当に頂いちゃって良いんですか?」
「ああ、エルフの娘もお前さんに懐いているみたいだしな」
後ろに立っているソフィアがいつの間にか俺の服を摘んでいた。何とまぁそれが可愛い過ぎる。
「ソフィアはそれで良いの?」
俺が尋ねるとコクリと首を縦に振り、そのまま俯いてしまった。まぁ、確かに奴隷としてこれから知らない人のところに行くのであれば、盗賊から助けた俺を選ぶのは当たり前なのかな。
タランドーさんから聞いた話だと、ソフィアは元々エルフの集落に居たらしい。その集落は魔物に襲われて壊滅、唯一の生き残りがソフィアとの事だ。ソフィアもシェリーと同様に帰る場所が無かったのだ。まぁ俺もこの世界で帰る場所が無い。
「後は盗賊討伐による報奨金だな。ブラームスからの報告によると盗賊は総勢13名居たと上がっているが間違いないか?」
「間違いないぞ」
「では、報奨金は後でショウジ君のギルドカードに送らせてもらうから確認しておいてくれたまえ」
盗賊討伐の報奨金、すっかり忘れてた。いくら貰えるか楽しみだ。後は細かい確認や奴隷契約があって、その場は解散になった。




