タマの冒険日誌 page 07
焚き火がぱちぱちと爆ぜる。空いっぱいに星がきらめく夜の中、池の周りだけ赤々としていた。少し離れたところでは、闇に紛れてキノコちゃんが寝ている姿があった。モンスターも睡眠を取るんだね。
大きな葉っぱの上で数匹のワカサギがぴくぴくと動いていた。それを深影さんは串刺しにしていく。あとは自分でやって、と串刺しにした生のワカサギを差し出される。
「季節感がニャいですね、ワカサギって確か冬?」
「ゲームの世界だからなんでもありなんじゃない。このエリアは一年中春だし、ここを抜けるといきなり秋になるしね」
五センチくらいのかわいいワカサギさん。問題なく食べられるのかと疑いつつ、焚き火の外側に串を突き刺す。火に当てた瞬間からなぜか焦げ臭さが発生したが、私は深影さんに微笑みかける。
「でもワカサギがいてよかったですね。フナとか鯉は、火を通したとしても口に入れるのは抵抗があります。ニャ」
「どうでもいいけど、タマの魚、焦げまくってるよ」
「え!?」
慌てて串を取り上げる。まだ十秒とあぶっていないのに、私のワカサギさんは木炭のように真っ黒になっていた。可怪しいでしょ。同じタイミングで焼いた深影さんのワカサギは、まだみずみずしい艶を放っているというのに。
「ただ焼くだけなのに食べられないほど焦がすって、ある意味才能だね」
人のことなどどうでもよさそうに言い、深影さんは自分のワカサギを裏返す。
「うう……」お腹が究極に減っているのに一匹無駄にしてしまった。私は泣きたい思いで、もう一匹を焼く。今度は絶対に眼を逸らさないんだから。
深影さんのワカサギから芳ばしい香りが漂い出した。焼け具合が頃合いになり、隣でむしゃむしゃ食べ始めている。ちらりと視線を寄越したの感じた。
可怪しい。私のワカサギだけが可怪しかった。火に当ててだいぶ経つのに、皮がいまだに青く艶やかである。どうみても生の中の生。
「ニャんで〜! 私のワカサギだけ焼けない!」
「世話のかかる」
焼けたワカサギを私にずいっと突き出す。そして、全然焼かれようとしないワカサギを取って、自分の前で火に当てた。
「推測だけど、おそらく料理スキルが影響してるんだと思う」
「料理スキル?」
私は涙眼でホクホクのワカサギにかぶりついた。ああ、白味が柔らかくてジューシーだ。
「キャラクターは腹は減らないけど、ゲームの中には色んな食い物がある。スープとか肉じゃがとかピザとか」
「食事をする必要がニャいのに、なんで食べ物があるんですか」
「それらは食べると、戦闘のときに命中率が上がったり攻撃力が上がったりする。店で買ったりもできるけど、長くやってるプレイヤーは、自給自足できるように料理スキルを上げてる者が多い」
やっぱりね、と言ってずっと焼けなかった私のワカサギをほらっと差し出す。食欲をそそる焦げ目がいい感じについていた。
「焼き魚は料理スキルの中でも初歩中の初歩。スキルがあまり高くない私のでも、これならまあまあ食えるでしょ」
「まあまあだニャんて……。とっても美味しいですよ」
私は元気なく笑いかけた。それで深影さんの首をかしげさせてしまったが。
ただ焼くだけのことすらできないなんて。深影さんがいなかったら、私は字のごとく野たれ死んでいたに違いない。おんぶに抱っこだ。ゲーム初心者でしかも新規だからしょうがないじゃない——自分に言い聞かせようとしても、情けなくてへこんでいくのを止められなかった。
ん? 野たれ死ぬ? 私は眼をぱちぱちした。煙がしみたのもあったけれど、あることを思いついたのだ。
ゲームオーバーになれば、もしかしてこのリアルな夢から覚めることができるのではないだろうか。と思ったけれど、いまだ分からないことだらけなので、この案はもうちょっと私の胸にしまっておこう。