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タマの冒険日誌 page 06

 どっぷりと暗くなった大草原を歩き続けてどのくらいだろう。深影(みかげ)さんのコンパスが大きいから私は小股に走りざるをえなかった。やっぱり女の子のキャラクターでゲームを始めればよかったかな。そうすれば同性の深影さんはもっと友好的になってくれたかもしれない。


「深影さーん。街まであとどのくらいですかー。ニャ」

「出発前の街へはここからだと船を使わないと戻れない。いまはオウルの港町を目指してる。私たちがいたエリアから、一番近い町がそこだから」

「だからその港町まであとどのくらいニャんですかー」

「土地勘のないタマは黙ってついてくればいい」

「いえ、そうニャんですけど。疲れてきちゃって」


 深影さんはピタっと立ち止まった。頭をこてんと垂らし、大きな溜息をつく。私がニャーニャー言うからまた怒らせたのだろうか。

「レベルの体力は依存しないみたいだな。私も歩き疲れた。こんなエリア、走ればゲーム時間の半日もかからないのに。それになんだか——」

 深影さんと二人してお腹を触れる。私のふくよかなお腹がきゅるる〜と音を立てた。

「おニャかも減りました。ゲームのキャラクターも食事を必要とするんですか」


「いや。食べ物のアイテムはあるけど、使用する目的は空腹を満たすものじゃない」

「夢ニャなのにリアルですね」

 深影さんは深刻そうに一人ごちた。

「五感がある。これは厄介かもしれない」

 何が厄介なのだろう。私はきょとんと首をかしげる。深影さんは答えず、木が密集しているほうを顎で示した。

「あっちに池がある。そこで今夜は休もう」


 池の周りにはスズランのような花が咲き誇っていた。釣鐘のような花弁をツンツンすると、ぼよよんと重そうに揺れた。「ような」とつけ加えたのは、手のひらほどもあるスズランを見たことがなかったからだった。

「近くにいるキノコには、くれぐれもじゃれつかないように」

 深影さんは羽織を脱いで岩に投げる。

「ニャんで?」


「このエリアのモンスターは襲ってこないけど、強いから戦闘をふっかけたら死ぬ。タマだと二発、運が悪いと一発の頭突きで死ぬだろうね」

「深影さんも?」

「耐えられて数発かな。このパーティじゃ一瞬で全滅する」

 深影さんは淡々と言った。口で腰紐を咥え、麻の葉模様の和服の袖をたすき掛けする。

「深影さんで数発ですか。ニャンだ、私とそう変わらないですね」


「ここのモンスターは強いと言ったよね。タマと一緒にしないでほしい。私はとっくにカンストしてるよ」

「カンストって——」

「ニャんですか。——カンストっていうのは、もうそれ以上レベルを上げられないってこと。このゲームでは現時点でレベル99が最高なんだ」

 ニャを取られてしまったが、深影さんはかなりのベテランらしい。そんな頼もしい子と同士の私は運がよかったのね。


 深影さんは気怠そうに私を手で払う。

「ほら、ぼうっとしない。さっさと薪を拾いにいく」

「ニャんで薪?」

「腹が減ったんじゃないの。魚を取ってやるから、タマは焚き火を作る。働かざる者食うべからずだ」

 はいはい、分かりましたよ。取ってやるだって、恩着せがましい。深影さんだってお腹が減ってるくせに。口の中でぶつぶつ零し、私は池の周辺をうろうろして小枝や葉っぱを拾い集めたのだった。


 両腕いっぱいに抱えた小枝やらを、バラバラバラっと落とした。短毛のお腹に引っ掛かった枯れ葉を払い落としながら、池の中に腕を沈めて睨めっこをしている深影さんを観察した。ふいに猫目ではない切れ長な瞳をきゅっと細める。素早い動きで脇を締め、飛沫を散しながら組み合わせた両手を掲げた。手の中にぴちぴちと跳ねている魚がいる。


「お見事。夕飯のおかずが釣れましたね。ニャ」

「フナだけど」

「フニャはイヤです」

「贅沢を言う。猫は魚が好物でしょ」

「では聞きますけど、深影さんは食べられますか? フニャを」

「……」

 クソっと言い捨てフナをキャッチアンドリリースした。深影さんは再び池と睨めっこする。

 クソだって。最近のギャルって口が悪過ぎだと思う。そんなんじゃ男子にモテないよ。


「小枝を集めてきましたけど、火はどうしたらいいんでしょう。ニャ」

「私の羽織の内ポケットにマッチが入ってる。それを使って」

 ナイスです。木の棒で火を起こせと言われたら途方に暮れる場面でした。

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