表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/11

タマの冒険日誌 page 05

 ハーフの猫さんは、血走った眼つきでいきなり私の両耳をぐわっと掴んだ。

「痛い! ちぎれるニャ!」

「やらかい感触がする。子供の肉声も耳のすぐそばで聞こえる。なぜっ」

 続いて整った顔もペタペタ触れる。きっと夢か現実か確認しているのだ。私の耳は雑に握ったくせして、自分の耳はおそるおそる触れているし。


「私が夢から覚ましてあげますよ〜」

 おどろおどろしく白い耳に両手を伸ばすと、蚊をはたき落とすようにバシッとされる。

「いらない」

 はたかれた丸い手はジンジンした。肉球にふうふうしながら思う。これだけ痛くても眼が覚めないなんて、しつこい夢だ。


「嘘だ。ゲームのキャラクターになってるなんて」

 ハーフの猫さんは羽織りをたなびかせて唐突に片膝を突いた。眉間に深い皺を刻んでいる。

「ニャにをしているんですか」

「フィールドでログアウトするときは、いつもこういうリアクションを取る」

 それでログアウトできないか試しているということね。私も短い脚を曲げてヨイショとしゃがむ。二人して何度かスクワットのように繰り返す。いっちに、いっちに。


 ハーフの猫さんは白い眼で見降ろした。

「君さ……。屈伸運動してんじゃないんだけど。ふざけてるよね」

「いえ、ふざけてニャんていませんよ……。脚が短いからそう見えちゃうだけです」

 実はハーフの猫さんのことが初対面から苦手だった。どんな子なのかな、私の中ではこんなイメージである——金髪ギャル。中の子とは絶対にお友達になれないと思った。でもゲーム内に残された同じ状況の子だから社交的に振る舞わなければ。


 ハーフの猫さんは腕を組んで考え込む。穏やかな風に長めの前髪がそよぐ。あれれ、なんかウズウズしてきちゃう。激しくじゃれつきたい衝動。

「オプションメニューが出せないんじゃ、特技も使えない」

 うーん、と眉を寄せていたハーフの猫さん。何か思いついたのか、急にはっと眼を大きくした。両腕を交差させて、腰許にぶら下がる刃を引き抜く。すると数秒だけ刃が赤いオーラを纏った。

「ニャんですか、いまの」

「一時的に命中率を上げる特技。どうやら念じると出せるようだ」

「へ〜」


 ハーフの猫さんは瞑想するように瞼をすっと閉じた。少しして、銀髪の頭上に星マークが浮き出た。このマークは数時間前も見たっけ。ずっと見つめていると、頭にぼんやりとした言葉が響いた。『パーティに入りますか?』私は心の中で『うん』と頷く。

 ハーフの猫さんの眼がゆっくりと開いた。

「君とパーティが組めたみたい。不本意だけど」


 不本意ってひどい。気持ちが表情に出るのをなんとか押さえる。

「パーティってどこ行くニャ」

「言っとくけど、ひらひらした服着てお城で踊るって意味じゃないから。パーティっていうのは仲間ってことだ」

 だからかな。ハーフの猫さんの名前がひらめいたように分かってしまったのは。ずいぶんかっこつけな女の子だけど、わりと夢見たネーム、とこっそりにやける。


 ハーフの猫さん、もとい深影みかげさんは暗くなってきた大草原を歩き出した。

「どこへ行くんですか。ニャ」

「君さ。うざいよ、それ」

 いきなり何がうざい。ムカっと来たのをなんとか笑い顔で隠し、私はこらえる。もっと好意的に接することができないのかしら、この子。

「えーと、ニャにか気に障ることでも言いましたか」


「だからそれだよ、ニャっての。そりゃ成りきる人もいる。私とか君みたいな猫系キャラを使ってる奴とかね。でもこの状況下では本当にやめて」

 吐き捨てられて私は初めて気づいたのだった。語尾にニャがついてしまうことを。

「わざとじゃニャくて——」

 ニャが出てしまい、私は口を押さえつけた。深影さんの睨みをきかせた視線が突き刺さる。

「不快ですよね。言わニャいように……うう。ニャンとかして……ひ〜ん」

 私は泣きたかった。意識してニャと言わないように気をつけても、バカみたいにニャがついてしまうらしいのだ。


「わざとじゃなくて、勝手についちゃうのか。御愁傷様としか言いようがないな」

 匙を投げられたようで深影さんの視線が逸れる。

「もういいよ。とりあえず街へ戻る。ほかに私らみたいのがいないか探そう」

「は〜い」

「絵描きのタマは能天気だね。現実世界に戻れなかったらどうするの」

「ファンタジーな夢ですよねっ。子供のころ憧れてました、こういうのっ。ニャっ」


 深影さんは、はぁ、と溜息をついた。私は深影さんの歩幅に合わせて、短足を振り上げるようにして歩く。股がつっぱるが。

「ところで絵描きのタマってニャンですか。何かの漫画?」

「自分でつけた名前も覚えてないって……。先が思いやられる」

 性別不詳の猫族タマ。職業、絵描きのレベル5。ドリームライクな世界でじきに奮闘する予定です!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ