水の大陸へ
短いです。
ここは水の大陸南西部。
水面には無限とも言える星々が散りばめられ、その光を爛々と湛えている。
そして、交易都市ランブルスクリーシアでは新月の夜に必ず行われる儀式があった。
儀式のために都市の人々が出払っている頃、都市の出入りを監視する役に就いていた門番の一人はちょっと外に出てくると詰所から離れ、海岸沿いを呑気に歩いていた。
その先に待っている面倒事をつゆほども知らずに。
移動して最初に知覚したのは何隻もの巨大な船とそれが繋がれた桟橋の圧倒的な風景。
それと、こちらへ歩いてくる鎧を着こんだ誰か。
仙人は、彼に色々と聞いてみようと思い近づいていった。
「どうもお疲れ様です。少し質問があるのですが、お時間頂けますか?」
出来る限り自然に声をかけたものの怪しまれたらしく、訝し気に聞き返された。
「ん?あんた誰だ?ここらへんの人間には見えんのだが?とりあえず詰所に来て貰おうか。」
不満な様子を見せたものの、仙人は素直に連行されていった。
「君はどこから来たんだい?そろそろ教えてくれないかな。」
「だから、ここがどこなのかすら知らないんですって!」
数分後、仙人は門番達数名に尋問されていた。
「まあまあ、そんなに盛らないで下さいよ、先輩。」
「盛ってなんかねぇ!こんなガキに誰が盛るってんだ。」
「ごめんね?うるさいでしょ?まずは君の名前を教えてくれるかい?」
「名前はない。」
なんとも騒がしい奴らだ。そう仙人には感じられていた。
「うっ…ごめんね?嫌なこと聞いちゃったでしょ?」
「気にしないで下さい。」
「そんな格好じゃ装具も持ってないよね?だったらこれに手を置いてくれるかな?」
仙人が言われるがままに手を置くと水晶体が光り輝いた。
「大丈夫みたいだね。通っていいよ。」
そう言われ、漸く解放された仙人の背中に先程の門番から声がかかった。
「困っているなら冒険者ギルドに行ってみるといい。町の中心部の大きな建物がギルドだから!」
冒険者ギルドという響きに胸を高鳴らせつつ、仙人は振り返ることなく一歩一歩噛み締めるように歩いて行った。