グラセス
『…ゲガァ!!』
銀色の剣先がゴブリンの目を抉る。ギルド支給のハンターナイフが唸りをあげて降り下ろされる。
「っらぁぁ!」
サンッ。ゴブリンの首が宙を舞う。
『…ガァ?』
自らの死を理解できないゴブリンの間抜けな断末魔が短く響く。
「…ふぅ。次々と。」
5体のゴブリンに囲まれる。数で勝っているからかニタニタと舌を出している。
「ふっ!あぁぁ!」
ゴブリンとの間合いを一瞬で詰めて2体の喉を裂く。
『『…ギガァ』』
残りの3匹は硬直している。僕はそんなゴブリンに躊躇しない。
「だりゃぁぁぁ!!」
ゴブリンの心臓を人差しにする。
『『『…アァァ』』』
ミナさんとダンジョンに潜るようになって早くも1週間が経とうとしていた。ゴブリン何てもう片手であしらえるようになってしまった。
『ガァァッッ!!』
(しまった!糞ッ…)
急いで後ろを振り返る。犬のような体に鶏の頭を生やした中型モンスター『コカトリス』が牙を剥いている。
「…っらぁ!!」
的確に首を狙ったはずなのにナイフが空を切る。
僕より先にコカトリスの首を一閃の風が走ったのだ。
「ノイ君!油断禁物だよ。ゴブリンなんて誰でも倒せるんだから、調子に乗らない!」
白銀の細い切っ先が僕の喉仏を触る。レイピアを握った幼女エルフは風その物だった。同じ<スピードタイプ>なのにな。
「…ごめんって、ちょっときつく言い過ぎたね。」
「いいえ、僕が確かに思い上がっていました。気を付けます。」
ミナさんは優しく笑った。こう言う顔は大人っぽい。
「だいぶ降りてきたね。6階層くらいかな。」
「結構降りましたね。だいぶコインも貯まったし今日は帰りましょうか?」
顎を抱えるミナさん。いつものボロボロなローブではなく薄緑の羽衣を身に纏ったミナさんは間違いなく綺麗だった。
「そうだね今日はお開きにしようか。」
ミナさんが踵を返した刹那。地響き。
ダンジョンが大きく揺れる。
「な、地震!?」
口を開いた地面が僕たちを飲み込む。瞬間的にミナさんを抱く。
「ノイ君!!」
体が叩きつけられる。ぐはぁっ!呼吸が止まる。
「だ、大丈夫!?」
ミナさんが僕の胸で心配そうに叫ぶ。何とか口を開く。
「大丈夫でずっ…」
ミナさんの反応がない。あ、ぁぁぁぁっと声をあげている。
声の意味を僕はすぐに理解した。僕たちの視線の先にあれはいた。
ダンジョンでけして会ってはならないもの。
会ってしまったら死を覚悟しなければならないもの。
ダンジョンの死神が立っていた。
「な、何でおまえがぁぁぁぁ!!!」
黒紅竜が立っていた。