愛は誓わない
千絋のプライド の後の話を想像して書きました。
前略、我が天使へ送るーー……
先日はうちの檜がちょっかいを出してようで、すまなかった。
まあ、それもこれも君が天使なのがいけないのだが……
君はどこまで自覚しているのだい?
返事を待っているよ。
草々
追記 やましい気持ちは持っていないので、堪忍な。
「……なんじゃこりゃあ……」
唇をよじらせ、読み上げた紙1枚と封筒を交互に仰ぎ見る。
ずいぶんとデタラメな文面だな、と思いながらその手紙を粗雑に扱っていると、それに気づいた千絋が顔を青ざめさせて、近づいてきた。
「お前っ、なんでそれを持ってやがるっ……!?」
「え?これ?……いや、ここにあったもんだからさぁ?」
凄い勢いで寝無の手から手紙を奪い取る。
寝無はいつもの様にニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべながら、千絋を見た。
「そんなに大事な手紙だったの?クロに見せなくても良いものなの?」
「う、うるさいな、あっちへ行け!変態野郎!」
ひどい言い様だなぁ、と口を尖らせて呟く寝無。それを横目に素早く手紙をしまった。
「にしても……本当に、何なのそれ?誰からの手紙?まるでセンスがないよね」
人から送られてきたものにやけに厳しいのは、寝無が贈り物を毛嫌いしている証拠なのだろうか。……いや、こいつに限ってそんな事はないか……。
品定めをするような視線を送ると、苦笑いで返してきた。
「昨日、咲から送られてきたんだ。送り主は書いてないが、なんとなくわかる。」
「へーぇ、あいつが……!ちゃんと乱雑な話し言葉以外で書けるんだなぁ。」
失礼すぎるぞ……。
そう思いつつ、窓の外を見やる。
カンカン照りの空と土畑、辺りにはびこる枯れ果てた草の蔓が、視界にところ狭しと群がっている。
空調の効いている部屋から出たら、間違いなく蒸発してしまうだろう。そう思わせるような、熱気だらけの世界が窓越しに見えた。
姉貴たちは、何処にいるのだろうか。
まだ帰って来ていないみたいだが……。
「返信とか、すべきなんだろうか……」
何気なく独り言を口から絞り出すと、寝無は興味なさげに手をぱたぱたと動かした。
返信は、いいか。
一応、この間の試合の謝罪なんだろうし。……檜が悪いんだけど。
咲の見境なしに人を口説くクセはどうにかならないのだろうか。檜が可哀想だ。
まあ、ああいう人のことを博愛主義と言うのだろうし、俺は絶対にああはならないからな……。理解も出来る訳なかった。
「……やっぱりちゃんと、返信を書こう」
散々悩んだ末にペンを握ることにした。
返信と言っても、シンプルな方が良いだろう。この間の事について、釘でも刺しておこうか。いや、それはもう姉貴が散々いじり倒してくれたことだ、俺まで追い討ちはしないでおいてやろう……。
頬杖を付きながら、便箋をさらりと撫でた。
いっそ、歯が浮く様な台詞をつらつらと並べて、期待させてみようか。
咲や檜のことだから、きっと照れ笑いを浮かべてくれることだろう。
そんな事を想像していると、なんだかわくわくしてきた。夢中で書いているうちに寝無が途中で覗きこんできたが、気にせず言葉を並べた。
ここはシンプルに、かつ照れる様な文面を。
イタズラにも彼女達の表情を想像しながら、机の引き出しから出した判で手紙に封をした。
姉貴たちが帰って来たら、咲と檜も呼んで、夜ご飯でも食べよう。
日差しが痛いくらい眩しく降り注ぐ、窓辺から目を離した。
前略、こちらこそ世話になった。
親愛なる友よ、君に幸あれ。
草々
本家が好きすぎてツラいです。
博愛主義とは私の事だ!(要らない情報)
次回はトランを主人公にした話を書こうと思っています。