愛の魔砲使い、もやしに物申す!
「はぁ……おまいさんは、本当に悪趣味だなぁ」
なんて、自分がそうしたんだけどなぁー、と呟きながらはにかみ笑いを浮かべる。
童顔のくせをして、言うことが大人びているから、年齢がどうも見抜けそうにない。一体こいつは何者なんだろうか。
「まあ、人様の趣味を悪くは言っちゃならねぇけどな。でもな、悪い趣味と書いて悪趣味だぜ、おまいさん」
「ちょっとさっきから悪趣味悪趣味って、人の事馬鹿にしすぎだよねぇ!一体何の恨みがあるって言うのさぁ!」
こーんな恨みがあるんだい。ゆっくり言い切るとレリーユーズは大きく深呼吸をして、壁に右手をかざした。
途端に、色褪せた映像が映し出される。
砂嵐の消えた映像には、今朝の朝食が並べられたテーブルが映し出されていた。……それも、澪お手製の、粉々にされた前菜とメインが(もはやどれがどの料理かは見分けが付かないが)。
「この映像に、心当たりは?」
「……ある、けども」
獣耳をぴくぴくと動かしながら「ならばよろしい」と呟く。
映像はより鮮明に映る。少しして、カメラワークが移動し、静かに席へと向かっている俺が映し出された。
「……あ!」
「思い出したかいな、ふっふっふ」
映像に映る俺は、キョロキョロと周りに誰もいない事を確認して、小さなビンを出した。そしてビンの中身を、澪の朝食に注ぎ入れる。
「はいココ‼ココな‼」
レリーユーズは声を荒げてバァンバァンと壁を叩く。一時停止されたいわゆる証拠映像が、小石を投げ入れた水溜まりの様に波紋状に揺れる。
「おまいさん、一体何をしたんかなー?」
「……それは、ちょっとねぇ……イタズラみたいなもんかな、あはははは、ってうぉおぉお‼!?」
物騒な巨大鎌がいきなり眼前に現れて、思わず驚きの声を漏らしてしまった。
「イタズラに俺氏のお気に入りのアロマを使うとは、素晴らしく肝がお座りしてねぇぜぃ、よぉ?」
にこりと首を傾けながら、巨大鎌をゆっさゆっさと揺らすその様子は、一足先に三途の川の底を覗いてしまったのかと思わせるほど怖いものであった。
「あれアンタのだったの!?てっきりクロのかと……」
「え、何?クロトのだったら使っていいと?つか人の飯にアロマ混ぜるお馬鹿があるかいな!」
メリィっという鈍い音と地響きを鳴らして、巨大鎌を壁にめり込ませた。
「いやいや、だって定期的にこの無味無臭地獄がやってくるんだよ!?だから澪に、この粉の不味さを伝えるためのちょっとした細工をだねぇ……」
「だからって……そりゃないぜえ」
そもそも女子に手をあげる事すら許される訳ないっつーの、おまいらをそんな奴に育てたつもりはなかった、なんなの、モノホンの馬鹿なのか、等と小言を呟きながら、巨大鎌を消し飛ばす。
……って、おい。小言が多いぞ。
「ていうかさぁ、君って一体誰な訳?何?異能者なんだろうけど、僕らに何の関わりがあるって言うのさ?」
「何って、魔砲使い兼、カミサマだよ!おまいらを創っ……じゃなかった、この世界のカミサマなんだって!」
カミサマ?クロが聞いたら、きっとがっかりするワードなんだろうなぁと思いながら、気は確かかとそいつに問う。
「本当だって!ガチで!本気と書いてガチで!さてはおまいさん、信じてないな!?」
信じるも何も……。
「じゃあ、なんかカミサマっぽい事してみろよ」
「お!ケンカ売る気やな!?良いぜ、なんかして欲しいこと言ってみろい!」
レリーユーズはとんがり帽子をくいとあげた。
「して欲しいこと……澪の料理の腕をあげること。」
「無理」
「なんなんだよ‼」
「そういう設定だからな、変えたいと思わなきゃ変えられねぇぜ」
えらそうに腕を組んで説明されたが、カミサマの威厳みたいなものは、全くちらつきもしなかった。
「あっそ。本当は、カミサマじゃないんでしょ?だから、無理なんだよねぇ?」
少しからかってやると、レリーユーズは特別顔を赤らめることもなく、ほんの少し口角を下げただけだった。
「魔砲使いが本職なんだよ、うるせえなぁ……ん?いや、本職は物書きでありカミサマなのか?あれっ!?どっちや!?」
「僕が知る訳無いでしょっ‼」
本当に何なんだ……こいつは……。
「で?実際そうなんでしょ?」
「おいっ、おまいさん!人をからかうのも大概にしろよ!いつか星になる日がくるぜい!」
レリーユーズが両手を大きく広げると、深い闇に覆われていた空に満天の星々がザァっと浮かび上がり、その星々が渦を巻いて彼女の指先に集まり始めた。
「えっ……ちょっ!?」
「忘れるんじゃねーぞ!女子に手をあげる時は、きちんと許可を得るか、それなりの関係になるか!それからにしろい!」
天に向かって指先を突き上げる。
星はひとつの光へとなり、そのまま、一匹の龍の様に空高く昇る。あっと声を漏らす頃には、夜空に亀裂が走っていた。
亀裂から、ぱらぱらと空の欠片が降る。
空の裂け目から、太陽の光が降り注いできた。
「な、な、な……!?」
「さぁっ!世界で一番ド派手な夜明けぜよっ!」
ドォォォンという轟音とともに、夜空が一気に崩れ散る。
もう何が何だかわからない状態だ。
あまりの眩しさに目をつぶる。次に目を開けた時は、すでに太陽が昇りきった朝になっていた。
勿論、例のごとくレリーユーズは消えて。
「……え?何これ、えっ?」
小鳥が静かに鳴いている。
「ちょ、え?何が……ええ!?!?どうしろって言うのさぁ‼」
嘆くだけ嘆いたものの、特に何もアクションが起こることもなく。
……これって……いわゆるオチが迷子って奴じゃ……
そんな事を悟っていると。
「うるさいぞ絶望野郎‼とっとと飯食えッス‼オラァ‼」
遠くから、変型したフライパンを握りしめている澪が叫んだ。
「……良かった……アクションあった……」
「変な事ぶつくさ言ってないで、さっさと来いッス‼」
例のごとくフライパンが、頭に刺さりにきた。
ド派手な演出を軽々とやってのけるレリーユーズを書きたかったのです。
ギリギリ没にするかしないか悩んだ結果、話をざっくざっく削って削って投稿するに至りました。
寝無も1度書いてみたかったので、この際レリーユーズにダメ出ししてもらおうと思ったら、二人の変なやり取りが出来ました。
アロマは飲んだら苦いよ。