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神子の恩返し  作者: 天天
『レナ』パート
7/63

story6「神力アイテム」

 商店街。小さい町だけど、休みだけあってそれなりの人がいる。友達同士、恋人同士、家族連れ、様々な人たちが往来するその商店街の端っこで。

「……なんで俺は黒猫と二人きりなんだ?」

「猫って言うな!」

 ベンチでぐったりとため息をつく。

 ちなみに女子三人組は目の前にある『兎のお姫様』という、女性服専門店の中。窓から時より見える姿は物凄く楽しそうだ。その一方で俺は寂しくお留守番。だからといって、女性服の店に入っても男子は気まずいだけだろう。

「お前、あんまり人に聞こえるように喋るなよ? あと翼は絶対に出すな」

「わかってるよ」

 カールは俺からぷいっと顔を逸らして、丸まって寝始めた。

 話す相手もいなくなったところで、俺は改めて願いごとについて考えた。

 お金持ちになりたい。超人的な力がほしい。有名人になりたい。

 まぁ一般的に考えられる願いってこんなところか。富、名声、力とはよく言ったものだ。

 でも物欲があんまねぇから金なんか別にいらないし。超人的な力って言っても、今の世の中に必要か? 中二病じゃねぇんだから。有名人……芸能人とかそんな感じ? それはなんかいろいろと面倒くさそうだ。俺には合わない。もっとのんびりと暮らしたい。

 後はまぁ……好きな人と恋人同士になりたいとか。

 今のところそんな関係になりたい人はいないけど。それに、願いごとで無理やり恋人同士になるってのもなんか違う気がする。人の心を操るって言うと、なんか聞こえ悪いし。

 しかも願いごとは心から望んでることじゃないと叶わない。俺が本気で叶えたいと思ってる願いじゃないと駄目なんだ。

 難しいな……俺が一番望んでること……。

 俺にとって、最高の願いごとってなんなんだろうな?

「……おいコラ起きろ」

「ぎゃわん!?」

「……わん?」

 なに? こいつ実は犬なの?

「なんだよ!」

「大声出すな。周りに聞こえるだろ」

 カールを摘み上げて、俺の顔の前に持ってくる。これなら小さい声で聞こえるだろう。

「いままでどんな願いごとがあったのかは個人情報だから教えられないって言ってたけど、おおまかにどんな感じの願いだったのかぐらいも教えてくれないのか?」

「……そんなの聞いてどうするのさ?」

「参考にだよ」

 カールは細めた目で俺をジロリと睨む。猫に睨まれても全然怖くない。残念だったな。

「……願い人の生活状況によって変わるよ。困ってることとか、欲しい物とか、心から願うことなんてそんなもんでしょ? 今、一番こうなってほしいこと、こうすれば生活が変わる。そんな感じの願いだよ」

「……いまいち参考になってねぇな」

 一番こうなってほしいこと。こうすれば生活が変わる。

 生活状況によって変わるって言っても、俺は今別に困ってることも欲しい物もない。

「変な人だね」

「は?」

「人間なんて欲をそのまま吐き出せば願いごとになるでしょ? なんでそんなに真剣に考えてるのさ?」

「……人間は欲の塊みたいな言い方だな」

 実際、そうかもしれないけど。

 もしかして俺……欲がなさすぎるのか?

「……」

 それにしても……。

 人間の願いを叶えてくれる存在。

 なんでゼウスとかいう神様は……神子を作ったんだろうな?

 わざわざ人間の願いを叶えるためにだぞ? なんの理由もなしにそんなことするなんて思えないけどな。

 まぁそればっかりは、本人に聞いてみないとわからないけど。

 それからもう一つ……。

 神子はそれでいいのか?

 人間の願いを叶える為に生まれた。それで。

 レナが昨日、神子になれたことに対して嬉しそうにしてたのはわかってるけど。

「……神子は人間の願いを叶える為に生まれるんだよな?」

「それがなに?」

「生まれた時から神子になる為だけに教育を受けてるんだよな?」

「だから?」

「……自由に、いや……なんでもねぇ」

「……」

 自分のやりたいように、自由に生きたいと思わないのか?

 そう言おうとしたけど、やめた。

 俺が口を出すことじゃない気がしたんだ。

「お?」

 やっと女組が店から出てきた。長いよ。

「さてと……次はどこ行こうか?」

「おいコラ。話しながら当たり前のように俺に荷物を手渡すな」

 せめて俺のほうを見ながら渡せ。なんかマジで台車に荷物置かれてるみたいだから。

「ていうか……次?」

「レナが町を見てみたいんだって。だから適当に町を周ることにしたの」

 俺に相談もなしにかい。

 別に異論はないけど。どうせ暇だし。

「じゃあせめてその前に荷物を家に……」

「レナ。どこ行きたい?」

 俺の言葉を少しは耳に入れて下さい。

「抹茶ココアが飲みたいです!」

 レナが町をキョロキョロと見渡しながら言った。

 抹茶ココア? 俺の大好物じゃないか。なんでまた?

「レナさん。抹茶ココアなんてよく知ってるね?」

「前に葉介と会ったとき、私にくれた飲み物なんですよ! あのときから私……あの味が忘れられないんです~」

 俺が進めたんかい。確かにガキの頃から好きだったけど。

 大体抹茶ココアなら家に何本もストックがある。言えばあげたのにな。

「よし。じゃあ家に戻って抹茶ココアを……」

「その辺のコンビニでも売ってるわよね? 行きましょ」

 ですよねー。わざわざ家に戻る選択肢なんかないですよねー。ちくしょう。

「……」

 近くのコンビニ目指して歩き出した、瞬間……瑠璃が立ち止まった。ある一方向をじっと見てる。

「瑠璃?」

 と思ったら、急に驚いた顔になって、走り出した。なんだ? 急に走りたくなったのか?未来に向かって? それともいい加減、雫から逃げたくなったとか。

 そんな俺のふざけた思考はすぐに停止する。

 瑠璃が走って目指すその先には……横断歩道の真ん中にいる小さな女の子。

 って――おいおい!?

「瑠璃!?」

 俺の目に飛び込んできたのは、猛スピードで突っ込んでくるトラック。信号は赤だぞ! 余所見してやがんな! くそ! 瑠璃は女の子を助けに行ったんだ!

 俺の叫び声で、レナと雫も状況に気が付いたらしい。横断歩道を見て目を見開く。俺の足はもう動いていた。手に持っていた荷物を放り投げ、全力で走る。

 瑠璃は女の子を抱えて横断歩道から出ようとしていた。そしてトラックの運転手は信号が赤、さらに横断歩道に人がいることに気が付き、急ブレーキを踏みながらハンドルを回す。瑠璃と女の子を避けようとしたその行動が、裏目に出た。急ブレーキでトラックはスリップし、横転しながら道路を滑る。瑠璃と女の子に一直線に――。

「――!?」

 間一髪、俺が瑠璃の所に行くのが早かった。瑠璃の体を力任せに引っ張り、横断歩道から放り出す。よっし! 瑠璃と女の子はこれで大丈夫だ!

 ……俺? 俺は……。

「お兄ちゃん!?」

 力任せに瑠璃を放り投げた結果。俺の体は横断歩道に残ったままだった。しかも、足がもつれて倒れちまった。もう立ち上がって逃げる時間はない。

 やべ。死んだかも。

「――って、どわぁ!?」

 俺が死を覚悟した瞬間、目の前にでかい鋼鉄? の壁が現れた。いや、正確には地面から生えてきた。直径三メートルぐらいの正方形。激突音と共に、トラックがその壁にぶつかって停止。フロント部分がおもいっきりへこんだ。

 俺は突然の出来事に呆然と固まる。つーかこの壁、なんか目があるんだけど? 黒くて大きなクリクリしたやけに可愛い系を強く出してる目が。なんか俺のこと見てるし。

『ここは食い止める。だから先に行け!』

 え? なんか喋ったよこの壁。なんか格好いい台詞言ってるよ。顔と全く合ってないけど。シュールだな。

「お兄ちゃん!」

 瑠璃の声に、俺は我に返る。首だけ振り返ってコクコクと頷く。声が出ないけど、大丈夫だってことをなんとか伝える。

「葉介! 大丈夫ですか!?」

 レナがスマートバンク片手に走ってきた。

 ああ、なるほど……この壁は神力アイテムか。レナが俺を助けてくれたんだ。鋼鉄の壁は目をつむるとまた地面に埋まって行った。

「ちょっと! 生きてるの!」

 雫が俺の肩をガクガクと揺らす。

 生きてるよ。そんなに強く揺すらないでください。痛いです。

 周りがざわざわと騒ぎだす。まぁトラックが大破したんだから当たり前か。ていうか運転手生きてるか? 俺よりそっちが心配だ。

 そのあと警察やら救急車やらが来て大騒ぎ。怪我がなかったから俺はちょっと事情を聞かれるぐらいで終わったけど、運転手はそこそこの怪我。でも救急隊の話では命に別状はないって言ってた。まぁ一安心だ。

「……瑠璃、離れてくれね?」

「……」

 瑠璃がさっきから俺の腕を掴んで離さない。なんか目が潤んでて泣きそうだし。そんな顔されると俺が罪悪感を感じるぞ。

「そうよ。葉介、瑠璃ちゃんから離れなさい」

 俺が言われるの? おかしくね?

「……だって……お兄ちゃんが死んじゃうかと思ったんだもん……」

 潤んでいた瑠璃の目から、涙がポロポロと零れ始めた。やばい! 泣いちまった!

「生きてるぞ! 俺はこの通りピンピンしてるぞ! なんならぎゅっと抱きついて確かめてもいいぞ!」

「……」

 無言で雫が俺を睨む。怖い。

「私が助けに行ったんだから……怪我するなら私がすればいいのに……お兄ちゃんが……ぐす……」

「……ああ、そりゃ無理だ」

 瑠璃の頭をポンポンしながら、少し真面目な顔を作る。

「俺は瑠璃が怪我するほうが百倍嫌だ」

「……」

 瑠璃が俺にぎゅっと抱きついてきた。

 嬉しいけど、雫の目が怖い。殺気が溢れ出てるから。

「葉介は優しいんですね~」

「レナ。葉介はね、自分の涙より他人の涙が気になっちゃう馬鹿なの。そのせいでいろんなことに首を突っ込んで自分がやられかけてるのよ」

 やられるとか言うな。そしてそのやられるが、殺られるじゃないことを祈る。

「馬鹿みたいに優しいんですね~」

 レナ。フォローになってないから。けっきょく馬鹿なのかよ。

「昨日も怖い人たちに連れて行かれそうになった私を……助けてくれました。七年前も……見ず知らずの私に親身になって助けてくれましたし、やっぱり葉介は変わってません。葉介は葉介ですね~」

 ……俺は俺?

 よくわからんけど、今の笑顔が可愛かったからいいや。

「ところでさっきの壁はなんなんだ?」

 神力アイテムなのはわかるけど、細かい説明は聞いてない。

「『ここは食い止める。だから先に行け!』ですよ」

 まんま。あの壁が言ってた台詞じゃねぇかよ。

「……神力アイテムってそんなネーミングばっかなのか?」

 ネタとしか思えないのばっかなんだけど。

「ネーミングはゼウス様の趣味だよ」

「大丈夫か? 神界」

「それは僕も心配だよ」

 初めてこいつに同意されたよ。

 ゼウス……一体どんな奴なんだ?

「神力アイテムって他にどんなのがあるの?」

 瑠璃が興味津々にレナのスマートバンクに目を向ける。

 俺もそこそこ気になるけど……昨日、拳銃で撃たれてるからな。なんか見るのが怖い。また俺が実験体にされても困る。

「葉介を実験体にしてなんかやってみましょうよ」

「おいコラ」

 また気持ちのいいぐらいはっきりと言いやがったよ。俺が恐れていたことを。

「じゃあこれなんてどうです?」

 レナもノリノリでスマートバンクからアイテムを転送するんじゃない。どう考えても嫌な予感しかしないから。

「じゃーん!」

 レナがスマートバンクで転送したのは……なんだこれ? 飴? そこらへんで売ってる袋に入った飴だ。表に『スキルアップル 二十四個入り』って書いてある。

「レナ。とりあえず説明を頼む」

「これはスキルアップルって言って~……りんご型の飴なんです! 舐める前に一つの能力を自分で選択することで、舐めている間はその能力が二倍になるんです!」

 またしても名前そのまんま。ていうかダジャレじゃねぇか。

 えっとつまり……力とか知能とか、そういう能力が舐めてる間二倍になるってこと? 名前は別として、効力は意外と使えそうだぞ。

「あ、ちょうどいいです! 葉介、どうぞ」

「は?」

「脚力、と言葉に出して選択してから舐めてください」

 レナが俺にスキルアップルを一つ手渡して、それからある方向を指差した。

 高い木の枝に引っかかってる風船。その下には泣いてる女の子とそれを宥める母親。

 もしかして……あれを俺に取れって言うの?

「レナ。無理」

 木の枝までは三~四メートルはある。バスケットゴールより余裕で高い。俺がいくら全力でジャンプしても届かない。駆けつけたところで恥をかくだけだ。

「そのためのスキルアップルですよ。舐めてる間は葉介の脚力が二倍になります!」

 ああ、そういうこと。だから脚力なのね。

 まぁこれなら痛い目を見ることはなさそうだ。とりあえずやってみよう。

「脚力」

 言葉で選択してから、スキルアップルを口に放り込む。味は普通のアップル味の飴だ。でも正直……体に変化とかは感じない。やっぱり不安だ。

「じゃあさくっと取ってきてください!」

「うーん……まぁやるだけはやる」

 木の下まで移動して、女の子と母親に一言声をかけてから、上を見上げる。

 普通に考えたら、俺じゃあ届かない。プロバスケット選手とかプロ体操選手とかそこらへんなら頑張れば行けるかもしれないけど……一般的な高校生の俺じゃあなぁ。

 軽く準備運動。足吊るから。それから……できるかぎり足をバネにする感じでジャンプ。すると、

「うおぉっ!?」

 飛んだ俺が一番驚いた。

 俺の手は余裕で風船の紐を掴み、そのまま着地。しかもあの高さから着地しても全然足にこない。ドラゴン○ールの主人公たちが、修行の後にジャンプしたらとんでもなくジャンプできたときの気持ちがわかったぞ。

 女の子と母親にお礼を言われながら、俺は自分の足を観察。別に筋肉はいつも通りに見える。どこがどう変わったんだ?

「お兄ちゃん、どんな感じなの?」

「……ちょっと走ってみる」

 現在位置の公園前。そこから近くのコンビニまで約百メートル。一般的高校生男子の平均タイムは……十二秒~十四秒ぐらいか。さてと、

「!?」

 俺は鳥になった。

 タイムはわからんけど、絶対に十秒切るどころか六~七秒ぐらいだ。オリンピックで優勝できるぞ。やべー、テンション上がる。

「……ニヤニヤしてないで、どんな感じなのよ?」

 追いかけてきた雫が、ニヤつく俺の顔の頬を引っ張ってきた。痛い。

「……スーパー○イヤ人になった気分だ」

「スーパー○イヤ人は元の五十倍だから計算が合わないじゃないのよ」

 冷静にツッコむな。つーか詳しいな。

 ……まてよ? これはもしかして……俺が最大に逆らえないこの最強女に逆らうチャンスなんじゃないか?

 俺は口にあったスキルアップルを急いで噛み砕き、レナに手を差し出した。

「レナ。もう一個くれ」

「え? どうぞ~」

 スキルアップルを受け取り、ちらりと雫を見る。

「なによ?」

「……雫。俺はもうお前の力には屈しないぜ。なぜならば……このスキルアップルがあるからな!」

 スキルアップルを掲げ、高々に宣言する。

「腕力!」

 そして口にパクリ。

 これで俺の腕力が強く、つまり、俺はケンカに強くなったはずだ! これなら雫にだって負けないぜ!

「というわけで雫、手合せ願う」

「……別にいいけど」

 ――一分後。

「……」

 これと無いぐらいボコボコにされた。


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