story5「なによりも」
「……沖縄って飛行機で行くんだな」
「当たり前でしょ。ていうか今更?」
そりゃそうだ。だってもう沖縄の地を踏んでるんだから。感想が数時間遅いぞ俺。
なんか移動って最速でも新幹線イメージの俺からすれば、飛行機なんて全く未知の領域だった。小さくなっていく町が窓から見えたときは……なんていうか、現実じゃないみたいだったぞ。自分の経験してることとは思えないほど。
「ここがおきなわですか?」
「らしいな。俺も初めて来たからわからんけど」
わからんけどって、ここが沖縄じゃなければどこだって話だけど。
沖縄には何個か空港があるらしいけど、俺たちが着いたのは最も主要な空港らしく、めっちゃでかい。東京駅みたいだな。初めて東京駅に行ったときはマジで迷子になった。二の舞で迷子にならないようにしないとな。
「お兄ちゃん。お母さんからメール」
「ん?」
瑠璃が携帯の画面を見せてきた。母さんのメールの内容は……。
『空港に迎えのバスが来てるから乗ってね! 港から船で移動よ!』
見計らったタイミングでメールしてきたな。まぁ到着時間は知ってるから、別に不思議でもなんでもないけど。別に到着時間に合わせてメールしなくてもいいのに。前もって言っておけばいいじゃないか。
そして、このメールには肝心なことが書いてない。
「迎えのバス……どれだよ」
バス乗り場にはいくつもバスがある。どれが俺たちを迎えに来たバスなのかわからない。この中から見つけろってのか? 全部同じに見える。
「あ。またお母さんからメール。すぐにわかるって書いてあるよ」
「なんで二回に分けてメールしたんだよ。ていうか……なんかそれ、すっげぇ嫌な予感する」
母さんが余計なこと頼んでないだろうな。ああ……めっちゃ不安になってきた。あの人、ノリでなんでもやるからな。大概、俺はそのノリに付いていけない。
「葉介! あれじゃないですか?」
そして、俺の不安は的中した。レナですら、すぐに俺たちを迎えに来たバスだってわかるほど、それはわかりやすかった。バスの横に張り付けられている、それは……。
『可愛い可愛い天坂家の皆さま。お迎えに上がりました。青春を謳歌しに参りましょう』
ノリに付いていけないにもほどがある。
母さんだ……絶対に母さんだ……。
恥ずかしい。バスに近づけない。周りがざわざわとしてるし、みんなめっちゃバス見てる。この中であのバスに近づこうものなら……注目の的だ。初めての土地でそんな公開処刑なんて御免だ。
「早く行きましょう~」
なんて俺の思考がぐるぐるしてると、レナに背中を押された。
「わっ!? レナ! 押さないで!」
いやぁぁぁぁ! あんな公開処刑の場に行きたくないよぉ!
☆★☆★☆★
「いやぁ。悪かったね。彩乃さんが是非こうやって迎えてくれと言っていたからね」
「……いえ。あとできつく文句を言っておくので」
怒りスタンプ連打で送ってやる。
軽く発狂しながらバスに乗ると、迎えてくれたのは親父の友達。今回、リゾートチケットをプレゼントしてくれた、小宮信三さん。経営社長自ら、俺たちのことを迎えに来てくれたんだ。しかもこのバス……俺たちと小宮さんと運転手以外誰も乗ってない。貸し切りだ。
「なんか恐縮ですけど、社長さん自ら来てくれるなんて」
「いやいや。浩之さんの息子さんたちが遊びに来てくれたんだ。人任せで迎えるのは失礼だからね」
喋り方で、親父にどれだけ感謝してるかがわかる。感謝の気持ちが全面に出てるんだ。自分の親父にこれだけの好意を向けてくれてるのは、悪い気分じゃない。
「そっちの子が彩乃さんの娘さんだね?」
「え?」
「彩乃さんにそっくりだからね。すぐにわかったよ。将来、美人になるよ」
「あ、あう……」
人見知りの瑠璃は真っ赤になって下を向いた。そんなテンプレ的な褒め言葉で照れなくてもいいのに。まぁお世辞ではないんだろうけど。いつも顔を合わせてる俺から見ても可愛いのに、初対面ならそりゃあ可愛く見えるだろ。
「さすが社長さん! 見る目が違いますね!」
褒められたのは瑠璃なのに、なぜか雫が誇らしげな顔をしてる。そもそも社長とか関係ねぇじゃん。
「しゃちょうさん! これから『ふね』に乗るんですよね!」
さっき船って乗り物がなんなのかを説明だけしておいたんだけど、それだけでレナはワクワクが全開らしい。海ってだけでも初めてでワクワクなのに、その上を移動するってんだから、そりゃあやばいだろう。
「そうだよ。船で三十分ぐらいで着くから大丈夫だと思うけど、もし船酔いとかが心配なら酔い止めを飲んだほうがいいかもね」
「よいどめ?」
「あー……レナ。後で説明してあげるから」
まぁその心配はないけど。俺たち全員、レナからもらった『神子ビタンZ』を飲んでるから、体調不良になることはない。旅行中は毎日飲む予定だ。せっかくの旅行に、体調不良になったら最悪だからな。
沖縄か……初めてだけど、日本で海って言えば沖縄をイメージする。俺にとってはハワイとかと同ランク。遜色ない。そこのリゾート施設っていったら、そりゃあ半端ないだろう。今更ながら、この人すっげぇ人なんだよな。
「すごいですね。沖縄にリゾート施設を作っちゃうなんて」
「あはは。まぁ昔からの夢ではあったけどね。実際……昔は大変だったよ。浩之さんには本当に世話になったんだ。今の僕があるのは、あの人のおかげさ」
昔から願ってた夢が叶った。ってことか。
夢を追って生きる人間を馬鹿にする奴もいるけど。夢見てんじゃねぇよとか言って。でも、本当に実現させた人ってのは、格好良いもんだな。
「葉介も見習いなさいよ。あんた、将来はなんか三十歳超えてもニートやってそうだし」
「それは侮辱と受け取っていいな?」
俺はそんな社会の底辺になるつもりはない。ちゃんとやることやって就職するぞ。一番の働き盛りの三十代に家の警備とかやりたくない。
「ニートってなんですか?」
「え、えぇっと……」
教えなくていいぞ瑠璃。そんな知識、レナには必要ない。
「あはは。ニートか。僕も昔は数年ニートやってたことがあるよ。失業してね」
「え?」
それは笑っていいところなんでしょうか? いや、笑ったら駄目だろ。失業してニート生活してたとか。笑いながら言ってるけど、笑いごとじゃないと思いますけど。
「急にそんなこと言われてもコメントに困るよね。ははっ。ごめんね」
はい。文字通り、コメントに困ってました。全力で。
でもそれはもう過去の話だろうに。昔は昔。今は今。諦めないで努力してきた結果なんだから、もはや関係ないはず。だからこそ、小宮さんも笑いながら言ったんだろうけど。
「まぁそれでも、今は昔からの願いだった夢を叶えたんですから、立派ですよ」
「……そうだね」
俺としては純粋に、尊敬の意味を込めて言っただけだったんだけど。
小宮さんが少しだけ、さっきまでとは違う、小さな声で答えた。なんていうか……元気がなくなった感じ。いきなりどうしたんだろうな。俺、なんか変なこと言ったかな?
俺は自然と黙ってしまった。これ以上なにも言わない方がいいのかもしれないと思ったんだ。
「……葉介君は」
そんな俺に、小宮さんから声をかけてきた。
なんだろうな……どこか、なにかに悪びれてるような声。俺が気にしすぎかもしれないけど。
「はい?」
「……一つだけ願いが叶うとしたら、なにを願う?」
明らかに、俺はドキッとした。慌てて動揺を隠す。
だってそんなの、まるで神子に願うみたいな話じゃないか。
「あの……急にどうしたんですか?」
「……いや。ごめんね。変なことを聞いて。気にしないでいいよ」
いや。気になっちゃうんですけど。
でもわざわざ追及することでもないし。聞いてもこれ以上は答えてくれなそうだった。うぅん……気にしない方がいいのかな。
願いごとが一つだけ叶う。まぁ例えばの話だとすれば、別に珍しい話でもないけど。俺からすれば例えばで済まない話なんだよな。小宮さんがどういうつもりで聞いてきたのかわからないけど。
……。
「あ! 葉介! なにか青いのが見えますよ!」
少し考え込んでいた俺の意識が、レナの元気な声で呼び戻された。やけにテンション上がってるなレナ。青いの?
レナが指さした先には……俺たちには見慣れた、でも、レナとサンにとっては初めての。
「レナ。サン。あれが海だよ」
大きくて、すごく綺麗な青色。沖縄の海が広がっていた。
すごい……俺が今まで見てきた海なんて比較にならないほど綺麗だ。偽物だったんじゃないか? 今まで俺が見てきた海は。ってぐらい。
「あれが……うみ……」
「……」
レナとサンが沖縄の海に視線を奪われてる。
無理もない。海を知ってる俺たちだって目が離せないんだ。
……うん。
来てよかったな。
☆★☆★☆★
「……」
俺はしばし呆然とした。
港から船で移動すること三十分。沖縄本土から離れた小さな島。遠目からでもわかる立派な大きなホテルが見えた。あれ……有名人とかが泊まるホテルだろ。一泊何万円、何十万円とかするホテルだろ。周りにはレジャーランドみたいなのがいくつも見えてる。もう俺の視界には入りきらないほど。
まぁ一言で言えば、めっちゃ豪華ですごい島だった。
「すごいですね! 瑠璃!」
「……う、うん」
うきうきのレナに対して、瑠璃もあまりの豪華さに言葉を失っている。いや、瑠璃だけじゃない。
「……葉介。本当に大丈夫なんでしょうね?」
雫もさすがに驚きを隠せてない。
「な、なにがだよ?」
「あんな所に泊まって、なんかあったらちゃんと責任取れるの? 私、そんなお金ないからね」
怖いこと言うんじゃねぇよ。
いや、大丈夫に決まってるんだけどさ。招待されてんだから。こうやって経営社長自ら迎えに来てくれてるぐらいなんだからさ。それがわかってても、そんな考えが過るほど……目の前にあるリゾート施設のインパクトは大きかった。
「ははは。大丈夫だよ。余計な心配はしないで、君たちは純粋に楽しんでくれればね」
小宮さんが電話で通話しながら、船長に指示をした。船着き場にこれから入って行くらしい。俺たちの船の他にも、大きな船が何隻も停泊してる。なんか……俺たちの日常とは別世界の光景。俺たちなんかが居ていい場所じゃない感が半端ない。
「……先輩?」
船の端っこで物思いにふけっているサンに気が付き、レナが駆け寄る。そういえば、空港からサンは一言も喋ってないな。もしかして、無理やり連れてきたのが嫌だったかな? 俺も気になって、レナの後を追う。
「どうしたんですか?」
「ん……? ああ、いや」
声をかけられて初めて、サンはレナに気が付いた感じだった。
「悪かったな。無理やり連れてきて」
「いや……別にそれを気にしていたわけではない」
てっきり無理やり連れてきたのが駄目だったのかと思ったけど、違うらしい。
サンがこんな難しい表情をするのは……もしかして。
「神子のことでなんかあったのか?」
「……まぁな」
サンは雫と瑠璃がリゾート施設に釘付けになっているのを確認してから、俺とレナの顔を交互に見た。
「お前たちには話しておこう。昨日、ゼウス様から連絡があってな」
あんまり良い話ではないらしい。サンの表情でわかる。
「数か月前から、仕事中に行方がわからなくなった神子が居るらしい」
「行方がわからない?」
神子が仕事中にいなくなったってことか? それは結構な事件だろう。
「同時期に、神子食いがまた一匹、人間界に出たという報告もあった。そいつも行方を追っているが、なぜか居場所がわからないらしい」
「……」
それって……もしかして。
「神子食いに食べられたかもしれないってことか?」
「え……」
レナが悲しそうに表情を曇らせる。
俺がレナの願い人になったときも、神子食いがこっちの世界に出てきて……レナは襲われたんだ。その怖さは、よくわかってる。
「まだそう決まってはいない。その可能性もある。ということだ。もしくは……堕ちた神子に……」
「ん? 他にもなんかあるの?」
「……いや。なんでもない」
サンはなぜかはぐらかした。
神子食いか……俺もガチで殺されかけたからな。他人事に思えない。
「心配するなレナ。お前はもう人間だ。神子食いに襲われることはない」
「でも……先輩は……」
「私の強さは知っているだろう? 問題ない。それよりも、今は楽しめ。ゼウス様からも気にするなと言われている」
ああ。なるほど。
俺たちの旅行気分を壊さないように、サンは気を使って黙っててくれたんだ。
そうだな。とりあえず、雫と瑠璃には黙っておくか。無駄に不安になることを教えることはない。神子食いの怖さは雫たちも知ってるし。
……そういえば、神子食いについて、改めて聞いたことなかったな。
「神子食いってさ、なんなんだ?」
神力を餌にしてる化け物。そんな風に言ってたけど、厳密にはどんな存在なのかは聞いてない。
「神力の歪みから生まれる存在だ」
「神力の歪み?」
「神界には王神様を始め、いろいろな神が存在し、その誰もが神力を持っている。強い神力は存在しているだけで世界に影響を及ぼす。それが歪みだ」
「……なんとなくわかるけど」
つまり、王神とかその辺クラスの強い神力を持ってる神が居ると、神力の歪みが生まれるってこと? んでもって、その歪みから神子食いが生まれる……。
「神力の暴走みたいな感じ?」
「まぁそうだな。神子食いという名前は、神界で最も神力の弱い神子を狙うことから名付けられた」
強すぎる神力ってのも考えもんだな。自然の摂理と同じで、どうにもならないもんだろうし。
「あの、神子食いってどうやって人間界に来るんですか?」
「レナ……育成学校で教わったはずだぞ」
「……?」
きょとんとするレナ。覚えてないらしい。相変わらず、レナはそのあたりは弱い。
「神界と人間界の境界線には神力の扉がある。本来ならば、王神様の許可を得た者しか通ることはできないが、神子食いはその壁を食い破り、無理やり人間界に出てくるんだ」
神子食いは神力を餌にする。それはつまり、神力で構成されてる物は、神子食いには意味がないってことか。なかなか厄介なんだな。
「もうちょいなんか考えられないの? 境界線」
「神界と人間界の間を成すことができるのは、神力だけなんだ。これだけはどうしようもない。特殊な結界を置くことも考えたが、他の神族も通れなくなってしまうからな」
うまくいかないもんだな。
神子食いは基本的には人間に見向きしないらしいから、その辺は安心だけど(俺はめっちゃ殴られたけど)、やっぱり神子のことを考えると心配だな。
「葉介ぇ! レナとサンを独り占めしてんじゃないわよぉ!」
なんでそうなるんだか。雫が俺を睨みながら叫んできた。
この話は終わりにしよう。俺たちは顔を見合わせてお互いに同意した。
せっかくのリゾートだ。とにかく楽しもう。
☆★☆★☆★
「おぉ……」
なんか今日は驚いてばっかりだな。無理もないけど。
船着き場から車で十分。俺たちが泊まるコテージに到着。まぁ島の施設の豪華さから大体想像はできてたけど……。
想像以上だった。
でっか。なにこれ。ウチよりでかくね? コテージって木の落ち着いたイメージが強いからか、全体的に普通の家よりでかく見える。周りは林で涼し気で、しっかりと海も見える。俗に言うウッドデッキも大人数でバーベキューとかするのに充分な広さ。これ本当に五人用?
「瑠璃! すごいです! 木の家ですよ!」
「きゃっ! レナさん……引っ張らないで……」
はしゃぎながらレナが瑠璃の手を引いて、一足先にコテージに走って行った。俺と雫はまだ呆然としてる。いや、現実を見つめ直してるんだよ?
「葉介」
「言うな。わかってるよ」
ちらりと、俺は小宮さんを見ながら、念のため、もう一度確認した。
「本当に俺たちがここに泊まっていいんですか?」
「もちろんだよ。オープンしてからまだ誰も泊まってないからね。君たちが最初のお客様さ」
そんな余計に緊張するような情報を……。
庶民の俺たちからすると、これだけの贅沢は罰が当たるんじゃないかとか、なにか裏があるんじゃないかって思っちまうんだ。いや、あるわけないんだけどさ。ちゃんと招待されてんだから。今日こればっかりだな。自分に言い聞かせてるみたいじゃん。
「ごめんね。本当は中を案内したいんだけど、戻らなきゃいけないんだ。中にある物はなんでも使っていいよ。夕食は係りの者に用意させるから。他に困ったことがあったらここに連絡してね。すぐに人を寄越すから」
「ああいやいや! むしろ俺たちのために時間を割いてくれてありがとうございました」
謝る小宮さんに俺は首を全力で横に振った。ていうか振りすぎた。首いってぇ。
コテージの鍵と連絡先が書かれたパンフレットを俺に渡すと、小宮さんは電話でなにか難しい話をしながら車に戻って行った。やっぱり忙しんだよな。それなのに俺たちをここまで迎えてくれて、むしろ謝られる理由がない。本当、礼儀があって良い人だな。
「葉介! はやく開けてください!」
「はいはい」
レナに急かされながら、コテージの玄関の鍵を開けて中に入ると……ふわっと木の香りが広がった。なんていうか……木に包まれてる感じ。木の中に居る感じ。いや、実際木でできた家の中に居るわけなんだけど。それが一番わかりやすい表現だ。
「広いですね~」
入るとまずは大広間だった。何型かわからないほど大きなテレビと六人ぐらいは座れそうな大きなソファーがあるリビングスペース。五人で座るには明らかに大きすぎる大テーブルがあるキッチンスペース。キッチンも簡易的な物じゃなくて本格的だ。業務用みたいに見える。その全部がオープンに繋がってて解放感が半端ない。ここは本当に日本ですか?
「えぇっと……寝室は三部屋あるみたいだな。一人用一つ。二人用二つ」
寝室は二階みたいだ。丁度三部屋見えるし。おぉ……バルコニーもあるみたいだな。そういえば外から見たときに見えたな。海を見渡せそうで気持ちよさそうだ。
「じゃああんたが一人部屋ね」
「……いやまぁ、必然的にそうだろうけどさ」
わざわざ言わなくてもいいじゃん。ゆういつの男の俺が一人部屋なんてのはわかり切ってるんだ。
「……」
瑠璃がじっとキッチンを見てる。家のキッチンより豪華だから、料理好きの血が騒いでるみたいだな。
「瑠璃。夕飯は用意してくれるって言ってたぞ」
「う、うん」
ちょっと残念そうな瑠璃。作りたかったんだろうな。こんなキッチンを使う機会がこれから先あるかどうかわからないし。
「まぁでも明日からは頼む。なにせ泊まる期間長いからな」
「う、うん!」
ぱぁっと笑顔になる。どんだけ使いたかったんだよ。
「ふかふかです!」
「レナ。あまり足をパタパタさせるな。下着が見えるぞ」
ソファーに寝ころんではしゃいでるレナ。足をパタパタさせて……確かにパンツ見えそうだった。サンが制止しなかったらたぶん丸見え。おしい。完全にレナの保護者だな。サンは。
「とりあえず荷物を置きましょ。夕飯まで時間あるしね」
「そうだな。お前ら部屋割りどうすんの?」
俺は一人だから関係ないけど。レナたちは二人ずつに分かれなきゃいけない。
「正直、私はこの中なら誰とでも大歓迎よ」
「……あっそ」
お前の欲望はどうでもいいから。真顔で言うんじゃねぇよ。
「じゃあ私は先輩と同じ部屋がいいです!」
「……私は構わんが」
レナが元気よく手を挙げる。まぁ妥当かな。サンもレナと一緒のほうがいいだろうし。
「じゃあ瑠璃ちゃんは私の物よ!」
「きゃあ!?」
誰がお前の物だ。いちいち抱き付くな。
時間は夕方の四時を回ったところだ。今日は移動で時間が潰れたな。まぁ一週間もあるんだ。時間は充分。移動で疲れたし。今日ぐらいはゆっくりしよう。
その後はそれぞれが部屋に入って荷物をまとめる時間になった。とは言っても、男の俺は女性陣に比べると荷物は少ない。そんなに時間なんてかからない。瑠璃は「いつも使ってるシャンプーじゃないと……」とか言って持参してたけど、俺はそんなのなんでもいいし。着替えだって最低限しか持ってきてない。
……ていうか、寝室も豪華すぎだろ。なんだよこのベッド。めっちゃふっかふかしてるじゃん。雲ですか? これは。これから先こんなベッドで寝れる機会なんて一生ないかもしれない。一瞬で眠りにつけそうだぞ。
けっきょく俺がやったことは、鞄から少しの着替えを出して、ベッドの枕元に携帯充電器をセットしただけだった。五分で終わった。
「……ちょっとぶらっと中を見て回るか」
一階に下りて大広間を改めて確認。パンフレットと照らし合わせながら中を見て回る。
えぇっと……こっちが洗面所か。広っ。五人いっぺんに顔洗えるぞ。トイレは……え? 男用と女用で分かれてるのか。まぁ女子はそういうところ気にしそうだしな。レナも瑠璃も家では全く気にしてないけど。えぇっと……んでこっちが風呂場と。脱衣所広いなおい。もうなんでもかんでも広い。
「……うおっ!?」
風呂場を覗いて、思わず飛び退く俺。
……なにこれ? 露天風呂?
完全に外じゃないけど、天井が開いてる。夜空がよく見えそうだ。浴槽は……もしかして檜? 檜風呂ってやつ? でかいなおい。五人で一度に入っても(絶対に俺は入れないけど)ゆったり浸かれるぞ。しかもすでにお湯が準備されてる。事前に用意してくれてたんだな。
「……半端ねぇな」
改めて。俺たちには豪華すぎる。
一通り中を見て回ってから大広間に戻ると、レナたちも降りてきてた。やっと荷物整理終わったのか。
「葉介。どこ行ってたんですか?」
「中を探検。あ、風呂の準備してあったから女性陣で入ってくれば?」
夕飯前にさっぱりとするのがいいんじゃないかと思って、俺は提案した。
「お兄ちゃん。お風呂ってどんなお風呂だった?」
「でかい檜風呂で天井吹き抜け。とにかく豪華。正直俺が一緒に入っても余裕でゆったりできる」
「入ったらコテージから蹴りだすけどね」
わかってるよ。冗談だよ。睨むんじゃねぇよ。
「じゃあみんなで入りましょ!」
「え? みんな? 俺も?」
「……」
わかってるよ。冗談だよ。殺気を向けるんじゃねぇよ。
さてと……じゃあ俺はその間暇だな。一人でテレビをぼけっと見てても仕方ないし。
「俺、飲み物とか買い出しに行ってくるけど、なにかいるか?」
来る途中、車の窓から見えたけど、歩いて三分ぐらいの所にコンビニがあった。リゾート地でもちゃんとコンビニあるんだな。二十四時間営業は助かるからな。
「適当に飲み物とお菓子いっぱい買って来て。あ、私プリン食べたい」
「抹茶ココア!」
「チョ、チョコレート……」
「鯛焼き」
一度に言わないで。覚えられないから。ていうかサン、また鯛焼き? コンビニで売ってたかな……。
「背中流しっこしましょ!」
「大きなお風呂楽しみですね~」
「レナ。風呂上りに体を冷やすんじゃないぞ」
「あ、シャンプー持ってこなきゃ……」
楽しそうな女性陣の声を背中に、俺は財布片手にコンビニへと向かう。あれ? なんか俺だけすっげぇ悲壮感。俺はこの後、あのでかい檜風呂に一人で入るんだろ? 俺もきゃっきゃうふふしたいよぉ。
「……」
まぁでも……。
みんな楽しそうだ。来た甲斐があった。レナとサンは初めての海だし。
「……買い出し行くか」
俺もだけど。
なにより、レナたちが楽しんでくれればいい。そう思った。




