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神子の恩返し  作者: 天天
『雫』パート
54/63

story12「姉妹ゲンカ」

「レナ!」

 『ゴッドパワーマップ』を確認しながらたどり着いたのは、ガキの頃は何度も来てた公園。時間も時間だ。全く人気はない。その公園の中に、レナとミレイの姿を見つけた。俺はほっと胸を撫で下ろす。

「葉介ぇ!」

 駆け寄ってきたレナを優しく抱きとめる。よかった……なんともないみたいだな。無事でよかった。

「霜……」

 雫が唇を噛み締める。ミレイが相対しているのは……霜と始まりの神子。

 始まりの神子はフードを取ってる。初めて、顔をまともに見るけど……やっぱり、初代ゼウスが生んだ神子とは思えない。若すぎる。若作りとかそんなレベルじゃない。本当に、体が若いんだ。

「ミレイ。ご苦労だったな」

「あらぁ。サンに褒められちゃったわ」

「褒めていない。調子に乗るな」

 二人の仲の悪さは相変わらずだな……(いや、仲が良いのか?)。

 ミレイの横に並んで立つサン。始まりの神子を睨むように見つめる。

「始まりの神子……貴様、そう名乗ったな?」

「ワーノって言うらしいわよ。始まりの神子は全部で七人居て、私に改造神力アイテムを渡してきたのもその一人……そいつはゼロって言うみたいだけどねぇ」

「……なぜ、始まりの神子が生きてここに存在してるんだ?」

「それはぁ、これから聞き出すところ」

 俺たちが来るまでにずいぶんと話が進んでたみたいだ。

 ワーノ。それが始まりの神子を名乗る、あの男の名前。

 始まりの神子は七人居るだって? おいおい……生きてるはずがない奴らが七人も居るって言うのかよ。本当に、俺の思考なんてついていくのがやっとだ。

「そっちは513号だね。Aランク神子が二人もよってたかって、何の用かな?」

「始まりの神子。堕ちた神子。改造神力アイテム。貴様には……吐いてもらうことが山ほどある。身柄を拘束させてもらうぞ」

「おー怖い怖い」

 仕草がいちいちこっちを挑発するような動きをしてるワーノ。見てるだけで腹が立つ。天然なのか計算された挑発なのか。どっちにしても腹が立つ。

「あなた、ずいぶん私たちのことに詳しいわねぇ。レナはけっこう有名人だからわかるけど、なんで私たちの識別番号まで知ってるのかしら? 神子育成学校で同じクラスでもない限り、顔と識別番号が一致するなんてことはないと思うけど」

 レナは神子から人間に生まれ変わったことで、神界とか神子の間では有名らしい。だからこそ波紋を呼んでるわけなんだけど……ミレイもレナのことに詳しかったしな。でも、サンとミレイは別だ。ただの神子一個人でしかないのに、こいつはなんでサンたちの識別番号を知ってるんだ?

「情報通が居るのさ。始まりの神子の中にね。なんなら君たちの同期の中で、まだ神子として活動できてる識別番号を言ってあげようか? 消えたり、堕ちた神子になってなければだけどね」

「――!?」

「挑発よぉ。乗らないで」

「わかっている……」

 サンは意外と挑発に乗りやすいところがあるからな。ワーノとの相性は最悪だ。今は抑えてくれ。まだほとんど情報を聞き出してないんだ。

「ふぅん……始まりの神子、ねぇ。本当に何百年も生きてるのかしらぁ?」

 適当に会話してるように見えて、ミレイは確実に情報を聞き出そうとしてる。大人の人生経験を感じるな。適当そうに見えて冷静にその場の状況を判断して動いてる。

「神の世界で常識なんて信じない方がいいよ。僕たちは神子だけど、ただの、神子ではないからね」

「……あらそう」

 ただの神子ではない。

 じゃあ……なんだって言うんだ?

 始まりの神子だろうとなんだろうと、ゼウスが生んだ神子には変わりないはずなのに。

 ただの。

 なんだか俺はそこが引っかかった。

「……改造神力アイテム。あれはお前たちが作っているんだな?」

「そうだよ」

「ゼウス様が作った神力アイテムをどうやって改造した? 神子に、そんなことは不可能なはずだ」

「言ったでしょ? ただの神子じゃないって。つまりはそういうことさ。まぁ……王神ゼウスなら、これがどういう意味かわかるんじゃないかな」

「……なんだと?」

 さっきからはっきりとしない答えばっかり言いやがって……。

 さすがに俺も口を挟みたくなってきた。俺たちだって当事者だ。なにより、雫の心を弄んだことが許せない。俺は感情のままに叫んだ。

「おいコラ! 堕ちた神子たちをそそのかしてるのもお前たちなのか!」

「ん? 誰だっけ? 君」

 野郎。わざとらしくとぼけんじゃねぇよ。さっきも少し会話しただろうが!

「あー……622号の願い人かぁ。それはどういう意味だい?」

「堕ちた神子に改造神力アイテムを渡して、人の願いを間違った形で叶えさせてるのはお前たちなんだろって聞いてんだよ!」

 改造神力アイテムを作ってるのがこいつらなら、そういうことになる。

 ミレイの『神子食い』みたいに、神力を吸収するアイテムがあれば、神子は神力を消費してもすぐに回復して、願いを叶え続けられる。堕ちた神子たちにゼウスへの復讐なんてわかりやすい餌をちらつかせて、利用してやがるんだ。

「なんでそう思うんだい?」

「堕ちた神子たちがそんなことしたってゼウスへの復讐になんてならない。お前たちには、別に目的があるんだろ? 堕ちた神子たちを利用して、なにをしようとしてるんだよ!」

 まぁ、サンたちの考察の受け売りだけどさ。俺の考えみたいに言っちゃってちょっと悪いけど、一番の疑問はこれだ。堕ちた神子。その裏で動いてるのが始まりの神子なら、ゼウスへの復讐とは別に、なにか目的があるはず。

「目的……ねぇ。別にゼウスへの復讐ってのも間違いではないよ。僕たちだって、神子って存在を疎ましく思ってるんだから」

 神子の存在が疎ましい?

 その言い方はまるで……。

 神子の在り方じゃなくて、神子って存在を憎んでるように聞こえた。

 自分だって神子なのに。

「……人間になる」

「……は?」

「僕たち始まりの神子の目的は、人間になることだよ」

 ワーノはあまりにあっけなく答えた。簡単には答えないと思ってたから、逆にちょっと戸惑う。

 人間になること……。

 文化祭のとき、ちょっと考えたことだったけど、まさか本当にそうだなんて。本人の口から聞いたのに信じられない。

「別に不思議なことじゃないだろう? 人間になりたいって思ってる神子なんて珍しくもない」

 確かにそれはミレイも言っていた。それはわかってるんだ。

 でも、こいつは『なにか』違う。

 信じられないんだ。こいつの言葉は。

 言葉の裏に、底知れない『なにか』がある。

 俺が感じ取れたのは、ただそれだけだった。

「……やはりな。貴様らの目的は『神威』か」

「かむい?」

 なんだそりゃ。またサンが聞いたことない単語を言った……そろそろ俺の脳がオーバーヒートするぞ。

「へぇー……もうそこまで予測してたんだね。ならこっちも急いだほうがよさそうだ」

「そのために堕ちた神子を集めて組織化しているのか? だが、人間の願いを間違った形で叶えて何になる? 神威とは関係ないだろう」

「おっと、これ以上喋ると他の始まりの神子たちに怒られちゃうからね。ここまでにしておくよ」

 始まりの神子が、堕ちた神子たちを集めて組織化している理由。

 人間の願いを間違った形で叶えること。

 そして、それが……かむい? とか言うものに繋がるから?

 俺には全くわからない。こいつはなにをしようとしてるんだ? かむいってなんなんだよ。

「あらら。私たちの予想が最悪の方向で当たってたわねぇ」

「……こいつらはどうやら、私たちの知ってるやり方とは別のやり方で神威を行おうとしているらしい」

「どうするのぉ? 放っておいたらとっても厄介よ」

「当然だ。こいつは拘束して、神界へ連れて行く」

 サンはスマートバンクで転送した『神食い』をミレイに手渡した。

 いいのか? 改造神力アイテムを使わせて……。

「いいのぉ? 私に返しちゃって」

「今は戦闘用のアイテムがそれしかない。大目に見てやる」

 サンとミレイが戦闘態勢に入った。

 ワーノは、そんな二人の様子を見ても慌てる素振りさえ見せない。

 落ち着きすぎてるんだ。異常な程に。

「残念だけど、それは無理だね」

 その落ち着きの理由は、すぐにわかった。

 霜だ。霜がいるからだ。

 ワーノが指示すると、霜が二人の前に立ちはだかった。

 その目は……どこを見ているのか。全く心の内が見えない。心を閉ざしてるみたいだった。

「君たちに改造ゴーレムは倒せないよ」

 その自信が、ワーノの異常な落ち着きの理由だった。

「僕を拘束? あっはは! それどころか……逆に622号はもらっていくよ」

 この野郎……まだレナのことを諦めてないのか。こいつらの目的がなんだろうと、関係あるか。レナを渡すかよ!

「……葉介。レナを死ぬ気で守れ」

「当たり前だ!」

 言われるまでもない。俺はレナの手を握りしめて、傍を離れないようにして身構えた。

「葉介……」

「レナ。絶対に手を離すなよ」

 俺も離さない。離してたまるか!

「霜!」

「雫! 下がれ!」

 霜に駆け寄ろうとした雫を、サンが制止する。

 サンの大声に、反射的に立ち止まる雫だけど、気持ちはそうはいかない。目の前に霜が居るんだ。当たり前だ。

「サン!? でも……霜は私が!」

「下がれ」

「……」

 静かに威圧されて、雫はなにも言えずにその場に立ち尽くす。

 雫の気持ちを考えれば、行かせてあげるべきだ。そのために、雫はここに来たんだ。

 でも今は……この三人の邪魔はできない。

 そんな一触即発の空気が流れていた。

「……あの子、強いわねぇ」

「手加減するな。全力でやれ」

「わかってるわよぉ。というか、手加減なんてできないわ」

 会話が途切れたかと思うと、二人はすでに動いていた。夜の公園に響く風の音は、二人の移動音。霜の左右から同時に得物を構えて接近。神力刀と神食いの刃が、霜の首と心臓、急所を捉えようとしていた。

 マジだ。二人は本気で霜を殺そうとしてる。

 霜を完全に敵として見ている。おいおい……まってくれよ! 雫の前で、霜を――。

「「!?」」

 俺の心配。それは杞憂だった。

 素人の俺から見ても速い攻撃。それを霜は……その場から動くことなく、力づくでサンとミレイの一撃をそれぞれ片手で受け止めた。神力刀は神力なら無条件で斬る。神食いは斬った神力を吸収する能力のはずなのに、その刃を素手で。ゴーレムの体は神力でできてるんじゃないのか? 現に、さっきは神力刀が霜の体を斬ったはずだ。

「ぐっ!?」

「あらー?」

 力任せに投げられて、サンとミレイの体が反転。地面に叩きつけられる。でも、二人はそんな体勢になりながらも、すぐに霜から素早く離れた。霜は追撃の体勢だった。あのままだと、たぶん、やられてた。

「やはり……普通のゴーレムとは神力の出力が段違いだ。さっきよりも出力が上がっている」

「体に神力を上乗せして表面を強化してるのねぇ。上っ面の神力だけ斬って、内側には届かない。そんなところねぇ。バリアーみたいなものかしら」

 な、なんだこのガチで戦闘モードの雰囲気は。もう俺なんかが立ち入れる雰囲気じゃない。

 止めるべきだ。

 でも、止めても止まらないって確信がある。サンとミレイも……もちろん霜も。

 霜は今、ワーノの命令で動いてるんだ。自分の意思じゃなくて。

 それなら、止まるわけがない。

「一気に決めるぞ」

「了解~」

 まずはサンが突っ込んで、時間差でミレイが後に続く。今度は正面からだ。本当に一気に決めるつもりらしい。横なぎに一線された神力刀の刃を霜がかわして、体勢を崩したところをミレイが追撃の突き。絶妙な無駄のない連携攻撃だった。二人の身体能力だからこそできる攻撃。でも、

「……!?」

「速いわねぇ」

 霜の動きは、それを完全に超えていた。

 連続で繰り出される鋭い攻撃。それが一撃も、霜には当たってない。難なく捌いていく。

 まるでバトル漫画みたいな光景に、俺はもう呆気にとられるだけだった。すごすぎない? これは本当に現実に起こってること?

「言っただろ? 君たちじゃ敵わないって。Aランク神子とは言え、そのゴーレムは通常の何倍もの神力で動けるんだ。神子の潜在神力なんて、優に超えるよ」

 ワーノの言葉を肯定するように、攻撃は全く当たらない。でも、サンとミレイは少しずつ霜からの反撃を受けて、ダメージを受けている。サンとミレイが二人がかりでも駄目なんて……半端じゃない身体能力だ。

「ゴーレム。もう時間がもったいない。さっさと622号を回収して帰るよ。そろそろこの結界も破れそうだ」

 結界を破れそう?

 『バリアー張ってたから無効な』で張った結界は、ゼウスの神力が使われてる特別性だ。それを当たり前のように、破れそう? どういうことだ。ゼウスから神力をもらう立場の神子にそんなことできるわけないのに。

 なんて考えてる暇もなかった。

「了解です。マスター」

 霜の目つきが明らかに変わった。

 目を見開いた霜が、神力刀を空振りして体勢を崩したサンの首を掴んで、そのまま高く跳躍。

 おい……まさか、あそこから……。

「あぐっ!?」

「……」

 完全に感情のない目で、落下の勢いのまま、霜はサンを地面へ叩きつけた。公園の地面が衝撃で陥没するぐらいの衝撃だ。いくらサンでも、あまりのダメージに立ち上がれない。

「――!?」

 着地の隙をついて、ミレイが神食いを霜の首筋へと突き立てる。サンが攻撃されてる間にも、ミレイは状況を判断して動いていたんだ。ミレイの思考が、読みが、霜の動きの先を行った。

 避けられない。完全にそんなタイミングだったのに、

「きゃあっ!?」

 一瞬でミレイの後ろに回り込んだ霜が、背中に掌底を撃ちこんだ。理屈じゃない。異常な身体能力で、無理やりミレイの読みのさらに先を行ったんだ。なんとか倒れずに堪えたミレイだったけど、霜の追撃が止むことはなかった。

「うっ!?」

 腹部に強烈な蹴りを受けて、ミレイは鉄棒まで吹っ飛んだ。鉄棒が折れるほど背中を強く打ち付ける。サンと同じで、あまりのダメージに起き上がれない。

「サン! ミレイ!」

 あっという間の出来事だった。たぶん、さっきまでは攻撃のときに手加減してたんだ。

 これが改造ゴーレムの力……。

「さぁて……邪魔者はいなくなったかな」

 霜の目が、次は俺とレナを映した。

「霜……」

 俺はレナを背中に回して身構えた。

 俺なんかがなにをしても、霜に敵わないのはわかってる。だからって、レナを簡単に渡すわけにはいかない。

 くそ……霜……どうすりゃいいんだよ。

「霜」

 俺とレナの前に立って、霜と相対したのは雫。

 その目は……なにかを決心したみたいに、力がこもっていた。

「私たち……小さい頃から仲良しで、ケンカなんてしたことなかったよね。霜は優しいから……なにかあったら全部私に譲ってくれて。本当はお姉ちゃんの私が我慢して譲らなきゃいけないのに」

 雫は……。

「でもね、これは譲れないの。レナは渡さない。だから……」

 霜の全てを受け止めるつもりだ。

「ケンカしましょ。最初で最後の、姉妹ゲンカ」

 

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