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神子の恩返し  作者: 天天
『雫』パート
50/63

story8「本物の」

「……」

 中庭のベンチに座って焼きそばをパクついている俺。

 ……えぇっと。

「レナさん。私は仕事があるんですが……」

「校長先生も綿飴食べましょう~。甘くて美味しいですよ!」

 なぜここに校長先生がいるんでしょうか?

 それはね、レナが廊下を歩いてた校長先生を無理やり連れてきたからですよ。

「校長先生は文化祭に参加しないんですか?」

「一通り見て回りました。まだ片付いていない仕事があるので、私はそっち優先です」

 俺はどうも校長先生が苦手なんだよなぁ。良い人なんだけど。

「……天坂君。私の顔になにかついてますか?」

「ふぐっ!?」

 盛大にお茶を吹きだした。どうやら知らぬ間に校長先生のことを凝視してたらしい。

「お、お兄ちゃん……」

 吹きだした俺の口を慌てながら拭いてくれる瑠璃。うぐぐ……なんか子供みたいじゃないか。

「あなたのクラスは大丈夫ですか? ちゃんと言いつけ通り、学生らしからぬ格好はしていないでしょうね?」

「もちろんです。俺も生徒会と校長先生のダブルパンチで怒られるのは御免なんで」

 精神がもたないわ。そんなもん。

 雫は雫でまだ校長先生に対して敵意的なのもってるし。ちらちらと校長先生を睨んでるのがまるわかりだ。まぁレナが校長先生と仲良いことに嫉妬してるだけだけど。

「ところで……その子はウチの生徒ではないですよね?」

「え? あーえっとですね……」

「私の妹ですよ。なにか問題が? 生徒会にも身内を参加させることは許可もらっています」

 雫。そんなケンカごしに喋らなくていいだろ。それからコスプレをさせるのは許可もらってるけど、喫茶店で仕事させることは許可もらってないぞ。

「……まぁ文化祭は大きな行事ですからね。生徒の自主性を尊重するのも教師の務めです」

 嫌だぁ。この板挟み嫌だぁ。逃げたい。

 ……ん? ていうか、校長先生。

「あの……霜のこと、すぐにウチの生徒じゃないってなんでわかったんですか?」

「私は生徒名簿で生徒の顔を全て記憶しています」

 なんだろう。真面目もここまでくると怖いぞ。

「あ、校長先生! 一つ聞きたいことがあったんですよ~」

 ああ。すごい。この板挟みの中でレナの声を聞くとすごい安心する。天使だ。女神だ。

「なんですか?」

「お客さんが一番入ったクラスにくれる賞品ってなんなんですか?」

 あ。それは俺も気になってた。都市伝説クラスに信憑性のない話だけど、校長先生なら確実に知ってるだろう。

「遊園地のチケットですよ」

 ……なんだって?

「先生。もう一度」

「遊園地のチケットですよ」

 綺麗に言い直された。

 客動員数一番のクラスがもらえる賞品が遊園地のチケット? 今更高校生がそんなのもらっても嬉しくないでしょ……。

「……それってもしかして和良咲ユルユルランドのチケットじゃ?」

「よくわかりましたね」

 わかるって。この辺で遊園地って和良咲にしかないもん。

「あ、それって前に葉介と行ったところですよね?」

「うん。ユルユルなんて名ばかりの名称詐欺遊園地」

 ぶっちゃけ俺は死ぬほど行ってるからな。そこのチケットが賞品って……なんかそんなに頑張らないでいい気がしてきた。

「……それって何人分ぐらいなんですかね?」

「十人までOKのフリーパスチケットですよ」

 無駄に豪華なチケットだな。一番高いフリーパスじゃん。クラス全員が行くには全く人数足りてないけど。なんとも微妙な賞品だ。

「行きたいですね! 葉介!」

「え?」

 レナが目をキラキラさせてる。

 ……ああそっか。

 そういえば、前に行ったときに「また一緒に来てやるから」って言ったのに、けっきょく行ってないんだったな。いつでも行けると思うと、逆に行かないもんだ。

「瑠璃も行きたいですよね~」

「え? わ、私?」

 いきなりふられた瑠璃はめっちゃ戸惑ってる。瑠璃は絶叫系苦手だからな。ユルユルランドはぶっちゃけ怖い場所ってイメージだろう。小さいころから、怖いのに俺に付き合ってアトラクションに乗ってたから、軽いトラウマかも。

「霜も一緒に行きましょうね!」

「……?」

遊園地って単語を知らないらしい霜はきょとんとしている。うーん……少し前のレナみたいだな。

「お姉ちゃん。遊園地ってなんですか?」

「怖~い乗り物に乗って、霜が悲鳴をあげながら私に抱き付く所よ」

 なに言ってんだこいつ。

「いろいろな乗り物があるんですよ! みんな楽しくて、時間が経つのを忘れてしまうほどです!」

「……楽しい」

 楽しい。それを小さく何度も口にする霜。

 楽しいって感情を確認するみたいに。

「……楽しいなら、私も行ってみたいです」

「はい! 絶対にみんなで行きましょう!」

 これは……なんか絶対に一位にならないといけない雰囲気になってきた。

「葉介……絶対に一番になるわよ」

 雫がメラメラと燃えてる。霜のこととなるとやる気出すな。

「いざとなったら私が脱いで!」

「やめろ。怒られるのは俺だ。そして今、目の前に校長先生いるから」

 大声で不正を口にするんじゃない。

「……君たちのクラスが仮に一位になったとき、不正がないことを祈ってますよ」

「だ、大丈夫ですって! 運営委員の俺がさせませんから!」

「まぁいいでしょう。私は仕事に戻ります。みなさん、残りの文化祭も楽しんでくださいね」

 ふぅ。誤魔化せたか。すでに軽く不正してるからな。これ以上怪しまれたらシャレにならない。

 でも実際、あの調子で行けばウチのクラスが一位になるのは難しくない。単品の飲食店と違って、ウチは飲み物も軽食もかなりの数があるし。なにより(浅賀みたいで嫌だけど)コスプレ女子可愛いし。

「あ、もうこんな時間か。そろそろ戻って一日目のラストスパートだな」

「そうですね! 頑張っちゃいますよ~」

 時間は四時を回ってる。文化祭は六時までだから、これからがラストスパートだ。まだ明日もあるけど、さぁて……それじゃまぁ頑張って――。

「天坂!」

 やる気出してるときに、やる気のなくなる顔が走ってくるのが見えた。浅賀だ。なんだよ……コスプレ女子見すぎで興奮して走ってるのか?

「なんだよ。俺らはこれから戻ってもう一仕事するからお前の相手してる暇ないんだけど」

「真面目に聞け! 一大事だ! 客でガラの悪い連中が入ってきてよ……そいつらがいろいろいちゃもんつけてきやがって! 女子連中が絡まれてる!」

「はぁっ!?」

 なんだよそれ! 文化祭だからってはっちゃけすぎだろそいつら! くっそ……一番面倒なパターンだな。一応客だから、こっちは下手に出てるのに調子に乗る奴らか。

「鳥海! 頼む! あいつら撃退してくれ!」

「……つーかお前は女子たちを見捨ててここに来たのか?」

「馬鹿野郎。俺が居ても役に立たないだろうが。俺はこれから先生呼びに行くんだよ。お前らは先に戻っててくれ! 俺が戻ったときは全部終わってても全く構わないからなー」

 格好悪いことを真顔で言うな。

 しかし、それならマジで早く戻らないとやばいな。全く……最後の最後で厄介ごとかよ。

「雫。急いで戻るぞ」

「わかってるわよ。クラスの女の子たちになにかあったら……そいつらチリにしてやるわ」

 怖い。目が鋭い。殺意満々だ。殺すなよ? 頼むから。



★☆★☆★☆



「おいおい……俺が頼んだのはコーラじゃねぇ。メロンソーダだよ。間違えてんじゃねぇぞコラ」

「俺だってこんな細いジャガイモ頼んだ記憶ねぇぞ。フライドポテトってのは棒に刺さってるでかいウインナーだろうが! 間違えてんじゃねぇぞ!」

 教室に戻るなり、茶髪に金髪のいかにもって不良の男二人が、クラスの女子に絡んでいた。絡むって言うか、腕をつかんで無理やり引き寄せてる。

「お、お客さん……困ります。女子生徒に触るのは……」

「やかましい! 男は引っ込んでろ!」

 間に入っていこうとした男子生徒を蹴り飛ばす不良。

 これはあれだな……いちゃもんつけてコスプレ女子にお触りしようって魂胆だな。

 それと別につっこみたくもないけど、メロンソーダなんてそもそもメニューにないし、あんたが言ってるのはフライドポテトじゃなくてフランクフルトだ。

「よし。あいつらをぶっ飛ばせばいいのね」

「……まぁいいか。どう考えても向こうに非があるし」

 ていうか、止めても止まらんだろ。お前。

「でもやりすぎるなよ」

「……善処はするわ」

 今の間はなに? 全然善処する気ないだろ。

「だ、大丈夫ですかね。雫は」

「いや、むしろ心配するのは不良のほうだと思うけどな」

「せ、先生が来るまで待ってたほうがいいんじゃないかな?」

 まぁ瑠璃の心配も最もだけど、ぶっちゃけ先生来てもどうにもならないと思うけどな。

「……」

「霜。お前もちょっと下がってろって」

 レナたちを下がらせて、いざとなったら雫を止められるように待機。あいつ、マジで容赦ないからな。正直止められる自信はないけど。

「お客様」

 優しく声をかける雫ほど、怖いものはないと俺はよく知っている。あの優しい声の裏に、爆発的な怒りが隠れてるんだ。

「あ?」

「当店はお触り禁止となっております。それから、メロンソーダなんてメニューにありませんし、お客様がおっしゃっているのはフライドポテトではなく、フランクフルトです。メニューをしっかり確認の上ご注文くださるようお願いします」

 俺が心の中でつっこんでたことを……。ていうか当店はお触り禁止って。変な店に聞こえるから。

 ていうかやべぇ……死神の死へ誘う言葉にしか聞こえない。

「おいおい……こいつすっげぇスタイルいいじゃねぇか。げへへ……じゃあお前が代わりに謝罪してくれるのか?」

 不良Aが雫の腕を掴もうとした……瞬間、その体が宙を舞った。

「ぶげっ!?」

 投げられて、床に叩きつけられた不良A。うっわぁ……頭から行った。大丈夫かな? 生きてるかな?

「お触り禁止って言ったわよね? ルールを守れないような社会の屑は……死ぬ?」

 いや、殺すなよ?

「て、てめぇ!?」

 もう一人の不良Bが雫に殴りかかる。あぁもう……返り討ちになる姿しか想像できない。哀れだな。

「――謝罪すんのはあんたたちでしょうが!」

 男の拳を軽くかわして、腰を低く構え、引いた右拳を……男の腹部に叩きこんだ。

「ぐっふぅ!?」

 漫画的に床を転がる不良B。加減した? 大丈夫? めっちゃ吹っ飛んだけど大丈夫?

「ったく……弱いくせに私の女の子たちに手を出そうなんて百年早いのよ」

 お前のじゃないから。クラスの女子を私物化するなよ。

「鳥海さぁん!」

 絡まれてた女子二人が雫に泣きついた。相当怖かったらしい。

「私が来たからもう大丈夫よ。だからもっとぎゅっと抱き付いていいのよ?」

 いや、『だから』の意味わからん。

 わかっちゃいたけど、あっという間に終わったな。まぁ不良二人なんて雫にとっちゃ朝飯前にもならないだろう。あとは先生が来たらこいつらを引き渡せば……。

「雫っ!? 後ろです!」

 レナの叫び声が響いたのと、俺が振り向いたのは同時だった。

 先に倒された不良Aが、ポケットからなにかを出して、それを雫に向けて一直線に突き出していた。あれは……まさかスタンガン!?

「きゃあっ!?」

 バチッ! と放電の音がして、雫が悲鳴と同時に膝を付いた。苦痛の表情で、体が少し痙攣している。かなりの電圧だったみたいだ。

「あっはっは! 馬鹿めが! 油断しやがって! このまま舐められて終われるかよ!」

 卑怯な手段を使ったくせに、勝ち誇ってる不良A。野郎……俺も我慢の限界だ。あんな手負いの不良なら俺でも――。

「……霜?」

 俺が動く前に、霜が一歩、前に出た。と思ったら……。

「!?」

 一瞬で不良Aに近づいて、その首を鷲掴みにした。

「ぐ……あぁ……」

「……お姉ちゃんに、なにしたの?」

 いつも通りの小声。でも、違和感がある。

 感情がまるでない声だ。小さな瞳も見開かれて、濃く染まったオレンジ色が威圧感を出している。なによりも、

「あぐぐ……」

 大柄の不良を片手で持ち上げる怪力。ゴーレムは人を傷つけるような仕様じゃないってサンが言ってたのに、これは……一体どうなってるんだ?

「うあっ!?」

 不良Aを投げ飛ばして、霜は床を強く蹴って追撃に入る。尻もちをついている不良Aは避けられない。力強く握られた霜の拳が、不良Aを――。

「やめろ! 霜!」

 俺は気づいたら叫んでいた。そんな言葉で今の霜が止まるなんて思っていなかったけど。

 このままじゃ不味い。

 ――殺してしまう。そう思った。

「――!?」

 ぎりぎり。まさに寸止めという感じで、霜の拳は止まった。俺の言葉が届いたのかはわからないけど、ゆっくりと拳を引く。

「……」

 攻撃態勢を解いて、その場に立つ霜からは……もうさっきの威圧感は消えていた。

「なんだ? 一体どうしたんだ?」

 そこに、浅賀が連れてきた先生が教室に入ってきた。今の光景に呆然としていたクラスメートたちは何も言えず、ただただ、霜のことを見ていた。

 少し、恐怖を帯びた目で。

「……!?」

 大きく動いたからか、霜の胸元のリボンが外れて、少しはだけていた。

 そこにあったあるものを見て、俺は言葉を失った。

 霜の胸元……今までは服に隠れて見えなかったけど、左胸元にあったそれは……。

 黒い星マーク。

 改造神力アイテムのマークだった。



★☆★☆★☆



 一日目の文化祭が終わって、簡単に後片付けをしてから、あとは二日目の準備。

 その途中で、雫の姿が見えないことに気が付いた俺は、クラスメートに聞いてみた。

「鳥海さん? ちょっと外の空気を吸ってくるって出て行ったけど」

「大丈夫かな? まだ体に障るんじゃないかな……」

 スタンガンを受けた雫だけど、幸いにもすぐに回復した。日ごろから体を鍛えてるからかもしれないけど、そんなにダメージはなかったみたいだ。直後の痙攣以外、体に異常はない。

 不良は警察に連行されていって、霜は一足先に瑠璃が連れて帰った

 雫はあの後……どこか元気がないように見えた。

 霜のあの姿を見た後から。

「雫、どうしたんですかね?」

 心配そうにしているレナ。でも、霜のことをそこまで気にしている様子はない。どうやら、霜のあれに気が付いたのは俺だけみたいだ。

 黒い星マークに。

 ……。

 やっぱり聞いてみるしかないな。

「レナ。後のこと頼んでいいか?」

「え? はい」

「ちょっと雫を探してくる」

「わかりました。任せてください!」

 明日の準備のことはレナに任せて、雫を探しに教室を出る。

 外の空気を吸いに行く……か。

 たぶん、屋上だな。



★☆★☆★☆



「……やっぱりここか」

 思った通り、雫は屋上に居た。

 暗い屋上で、月明かりに照らされた雫は、いつもの活発なイメージとは違って見えて、まるで別人。俺の声に振り向いた雫は、明らかにがっかりした顔になった。

「……なんだ。葉介か」

「なんだとはなんだ」

「レナが迎えに来てくれればよかったのに」

 こんなときでも欲望に忠実だな。ちょっと安心。

 雫の横に立って、校庭を見下ろす。まだ後片付けや明日の準備でかなりの生徒が残っていてにぎやかだ。

「なんか用?」

「……体は大丈夫なのか?」

「当たり前でしょ。私が電気なんかに屈すると思ってるの?」

 基本、人間は屈すると思うけど。お前は本当に人間か?

 違う違う……俺がここに来たのはそんなことを聞くためじゃない。

 聞きたかったのは……霜のことだ。

「……雫。お前、気が付いてたよな」

「……なにをよ?」

 雫の声が強張ったのを、俺は見逃さなかった。

「霜が改造神力アイテムだってことを」

「……」

 気が付いてないわけないんだ。普段は服で隠れてたけど、一緒に住んでる雫が、霜の黒い星マークに。

 知ってて、俺たちに黙ってたんだ。

 さっき、霜の着替えをレナが手伝おうとしたとき、雫の様子がおかしかったのはこういう理由があったんだ。

 見られたら、ばれる。

 霜が改造神力アイテムだってことが。

「なんで黙ってたんだ?」

「……別に」

「別にじゃないだろ。改造神力アイテムがどういうもんか、お前は知ってるだろ?」

 堕ちた神子。改造神力アイテムは、それに繋がる手がかりなんだ。本当なら、すぐにサンに報告するべきだった。

 そもそもおかしい話だってのはわかってた、雫の家にいきなり神力アイテムが送られてくるなんて。

「……霜がまたいなくなると思ったんだな」

「……」

 改造神力アイテムだってわかれば、さすがに神界で回収するって話になるかもしれない。堕ちた神子たちへの手がかりとして。

「……もう、霜がいなくなるのは嫌なの。もう……あんな悲しい思いをするのは嫌なのよ……」

「……」

 痛いほどわかる。雫の気持ちは。

 それほど、雫は霜を可愛がってた。

 その霜が帰ってきた。本物ではないとはいえ、雫にとっては、ゴーレムは確かに霜なんだ。

「……わかってるわよ。改造神力アイテムを放置しておけないってことも。でも、それでも……私は霜と一緒に居たかった」

 泣きそうなほど、枯れそうな細い雫の声。こんな声は聞いたことがない。

 ……そうだよな。俺だってわかってる。

 なんで黙ってたんだ。だなんて、なんで聞いたんだろう。

 霜と一緒に居たい。それ以外に理由なんてないのに。

「……ごめんなさい」

「……謝るなよ」

「サンに報告していいわ。改造神力アイテム……霜のことを」

 観念した。そんな様子の雫は、目をこすりながらそう言った。

 ……。

 ……。

「……できねぇよ」

「……え?」

「いや……できないって言うか、わからないんだよ」

 もう、俺にもよくわからなかった。

「お前が霜を大事に思ってるのはわかってる。だから……今、無理やりにでもお前から霜を引き離すのが正しいのか……俺も、わからないんだよ……」

「葉介……」

 どうすればいいんだ? どうするのが正しいんだ?

 雫は、俺は……どうすればいいんだよ……。

 

「――初めまして。私は神子。人の願いを叶える存在です」


 突然の背後からの声。それは、聞き覚えのある声だった。

「……サン?」

 夜空からふわりと降りてきたサン。その目は、雫のことを見ている。

「今回の願い人は、鳥海雫さん、あなたです。願いごとを一つだけ叶えてさしあげます。叶えてほしいことを……心から願って下さい。あなたの心を膨らませ、現実のものへと誘います」

 サンは……なにを言ってるんだ?

 聞きなれた、神子が願い人に言うテキストを読むような台詞。

 今、サンはゼウスの側近として働いてるから、神子の仕事をしてないんじゃないのか?

「そう……例えば」

 サンの目が、少し強く鋭く、雫を射抜いた。

「『本物の』妹を生き返らせるという願いさえも」

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