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神子の恩返し  作者: 天天
『雫』パート
42/63

プロローグ

 一秒。一分。それが、ものすごく長く感じた。

 時間って、こんなに流れるのが遅かったっけ?

 わからない。今まで、こんなに時間が早く過ぎてほしいなんて思ったことなかったから。

 もうどのぐらい経った? 一時間ぐらい経った? 二時間ぐらい経った?

「……」

 まだ三十分ぐらいしか経ってない。

 手術中。その赤いランプが点灯してから、まだそれだけしか。

 私の隣では、お父さんが祈るようにして両手を組んでる。その隣では、お母さんが声を出さずに泣いている。

 私はまだ泣かないよ。

 だって、大丈夫だもん。

 大丈夫だよ。霜は……大丈夫だもん。

 昨日だって元気にお話してたもん。私のこと、お姉ちゃんって、呼んでくれてたもん。見たテレビのお話とか、好きな漫画のお話とか、いつもの、当たり前のお話をしてたもん。

 大丈夫……大丈夫……。

 大丈夫だよね? 霜。

 また、霜の元気な笑顔が見れるよね?



★☆★☆★☆



 それからどれぐらい時間が経ったのかな。

 とても、とても、長い時間。時計とにらめっこしていた。

 やっと、手術中の赤いランプが消えた。

 お父さんとお母さんが立ち上がって、出てきたお医者さんとお話してる。

 大丈夫? 霜は? 霜はどうなったの? 大丈夫だよね? 元気になったんだよね?

「――!?」

 声にならない悲鳴をあげて、お母さんがその場に座り込んで、さっきよりもたくさん、涙を流してる。

 私が駆け寄ると、お母さんは私をぎゅっと抱きしめた。

 お母さんの涙は止まらない。顔はさっきよりもぐしゃぐしゃになってる。

 お父さんも、体を震わせて、感情を押し殺してるように見える。

 ……どうして?

 どうして二人共、そんな顔してるの?

 だって、霜は元気になったんでしょ? もっと喜んでいいんだよ。

 また、霜とたくさんお話するんだから。

 これからだって、今までどおりに、ずっと一緒に居るんだから。

 ずっと……一緒に……。



★☆★☆★☆



 お父さんとお母さんがお医者さんに連れて行かれて、私は一人、廊下で待っていた。

 なんで二人共帰ってこないんだろう……早く、霜に会いたいよ。霜の顔が見たいよ。

 会ったらまずはどんなお話しようかな。学校でのお話かな? 昨日見たドラマのお話かな? あ、霜の好きな漫画の最新刊が出たんだ。そのお話かな?

 ……。

 ……。

 嫌だよ……一人は……寂しいよ……。

 霜……。

「あっ!?」

 息切れした喉から出たような声が聞こえて、廊下の先を見ると……汗だくになってる葉介が居た。

 なんでそんなに急いでるの? なんで不安そうな顔してるの? 葉介に、そんな顔は似合わないよ。

「し、雫……」

 息を整えながら、私の他に誰も居ないことを不思議に思ったのか、周りを見渡す葉介。

「……霜は? 霜は……どうなったの?」

 ああ。そっか。霜を心配して、そんなに急いで来てくれたんだ。

 うん。ありがとう。葉介。霜も喜んでると思うよ。


 霜も……。


 霜……霜……霜は……。


「……うあぁぁぁん!?」

「うわっ!?」

 さっきまで、必死に自分の心を騙してたけど、それももう限界だった。

 葉介に抱きついて、抑えてた涙をおもいきり流す。

 霜……霜……霜……。

 どうして……どうして……なんで……もっと、一緒に居たかったのに……。

「……」

 泣いている私を見て、霜がどうなったのか察した葉介が、私の頭を撫でてくれる。


 鳥海霜。


 私、鳥海雫の妹。


 まだ生まれてから七年しか経ってないのに……。


 あまりにも早い。この世界とのお別れだった。


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