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神子の恩返し  作者: 天天
『瑠璃』パート
40/63

story16「今、望む願い」

 朝だけど、森の中ってけっこう暗いもんだな。足元に気を付けないと、転んだら軽い怪我じゃ済まない。手をつないだ瑠璃にも気を配りながら走らないと。

「お兄ちゃん」

「ん?」

「これからどうするの?」

 あーそうか。全く説明してなかったな。とにかく、瑠璃を奪取するのに必死だったし。

「ぶっちゃけなにも考えてない」

「えぇっ!?」

「うそうそ」

 さすがの俺も、そんなに無謀な考えじゃない。

「このまま森を抜けて、駅まで逃げる。とにかく、あいつらから離れるんだ。電車に乗っちまえば、あいつらに居場所なんてわからなくなるからな」

「……お父さんとお母さんは?」

「そっちも心配するな。この後、サンが親父たちの所に行ってくれる。まぁ……正直、あいつらはこっちに気を取られてるからな。親父たちは実際大丈夫だと思う」

 そもそも、親父と母さんがどうなっても知らないぞ、なんてのは、本当にただの脅しでしかないと思う。瑠璃が逃げないための。言うことを聞かせるための。でも、もう瑠璃は逃げたんだから。そんな脅しに意味はない。あいつらにとって今重要なのは、瑠璃を捕まえることだからな。だから俺たちは、自分たちのことだけを考えればいいんだ。

「本当は『天使のような悪魔の翼』が使えればいいんですけど、ごめんなさい……私、一つしか持ってなくて……」

「気にするなってレナ。あれって制御難しいし。天使モードでゆっくり飛んでたら、見つけてくれって言ってるようなもんだしな」

森の中だし、木々の間を逃げたほうが見つかりにくいはずだ。って、サンも言ってたし。

「……でも、もう見つかったみたいだよ」

「はぁ?」

 カールが鼻をひくひくと動かしながら、後ろをじっと見つめている。猫って確か、犬よりは嗅覚が鈍いはずだけど、こいつは犬以上に嗅覚が鋭いらしい。追っ手の匂いを嗅ぎつけたのか?

「雫とサンが足止めしてるはずだぞ」

「あれ以外にも仲間が居たってことでしょ? さっきの場所には数十人。それと同じぐらいの数の人間が、僕たちを追ってきてるよ」

 マジかよ。あの叔父野郎。どんだけ仲間を連れてきてんだよ。裏の繋がりが多くある大手企業だって言ってたけど、ここ日本だぞ? 外国と違うんだぞ? ていうか高校生相手に大人気ないだろうが。

「どうするのさ?」

「どうするもなにも、逃げる」

「……逃げ切れる可能性は低いと思うけどね」

「お前を囮にすれば行ける」

「……噛み付くよ?」

 冗談に決まってるだろ。大体、お前に囮なんて大役が務まるかよ。

「私に任せてください!」

 レナがスマートバンクを操作して、神力アイテムを転送した。確かに、こんなときのために、レナには一緒に来てもらったんだ。一体どんなアイテムを転送したんだ?

「……って、なんだそれ?」

 レナが転送したのは……ゲームとかでよく見るベタな爆弾に、目と足が付いてるアイテム。なんかこれ……どっかで見たことあるビジュアルだけど、版権とか大丈夫?

「『自爆して道連れにしてやる!』ですよ」

「ネーミングがすでにアウトなんだけど!? え? なにこいつ? 自爆すんの?」

「大丈夫ですよ~。そんなに大きな爆発じゃないですから」

「いや、爆発する時点で駄目でしょ」

「問題ないよ。生物には害のない爆発だから。まぁ音と衝撃で気絶するぐらいかな。たぶん」

 たぶんて。本当に大丈夫だろうな?

「行きますよ~」

 爆弾の後ろにあるゼンマイを巻いて、地面に置くと……ゆっくりと歩き出した。やっぱりこのビジュアル、見たことある。名前は言わないけど見たことある!

「さぁ! 私たちは先に行きましょう!」

「……大丈夫か?」

 爆弾がチキチキと、時限爆弾みたいな音を出しながら……森の中に消えていくのを見送って、俺たちは逃げる足を再開させた。

そしてそれから、三分ぐらい経ったときだった。

「『ズトガァァァァン!』うおわぁっ!?」

「『ズドガァァァァン!』きゃあっ!?」

 めちゃくちゃでかい爆発音が聞こえてきた。さらに、森の中が一瞬赤く染まるほど眩しい赤い光と地震みたいな振動。

「あ、着弾したみたいですね」

「ちょっと弱いね。もう少し大型にすればよかったかな」

「……冷静に言わないでくれ」

 ていうか、あれより大型もあるの? 絶対に使わせないようにしよう。

「今ので半分ぐらいは吹っ飛んだね。これで足止めにはなったよ」

「……今、吹っ飛んだって言った?」

 本当に、生物には害がないんだろうな?

 でも実際、追っ手の安否なんて考えてられない。まぁ死にはしないだろう。神力アイテムは、基本的に人間を傷つけるアイテムはないはずだし。

「葉介。方向は大丈夫ですか?」

「ああ。もう少し行けば、県道に出るはずだ。そこからうまくタクシーを拾えれば……」

 言葉と同時に、足も止まる。

 ……嘘だろ? なんでだよ? なんで……。

「叔父さん……」

 瑠璃の叔父さんが、こんな所まで先回りしてるんだ? 雫とサンが足止めしてる場所に居たはずなのに。

「逃げられると思ってるのか? この森に逃げた時点で、この先にある県道に出るしかないのはわかっている。だからヘリで先回りさせてもらった」

 ヘリって……マジで大人気ねぇぞ。高校生相手に、そこまでガチでやるのかよ。

 叔父の周りには、黒服で強面の男たちが十人ぐらいいる。見た感じ、話が通じなそうな。口よりも手が先に出そうな奴ばっかり。

「お兄ちゃん……」

「……瑠璃。手を離すなよ?」

 瑠璃の手をぎゅっと握る。

「悪いけど、瑠璃は返さない。あんたの出世の餌になんてさせない」

「返さない? お前らにそんな権利があると思ってるのか? そいつは借金の代わりにもらっていくだけだ。大人の世界にはな、契約って物があるんだ」

「あっそ。俺はガキだから大人の世界なんて知らない。だから、そんな契約なんて知るか」

 瑠璃の親父さんが、借金をしたんだとしても、それは瑠璃には関係ない。親と子供は、別の人間なんだ。親の責任が子供に来るなんて、そんなの納得できるかよ。

「……そいつを渡せ。これ以上は、俺も加減できんぞ」

「……べー」

 あっかんべーで、そんな気はさらさらないことをアピールする。

 そんな簡単に返すぐらいなら、最初からここに来てない。

 ガキの覚悟を甘く見るなよ。

「葉介! 瑠璃! その場でジャンプしてください!」

「え?」

 いつの間にか、レナが黒い小槌を振りかぶっていた。突然のことに戸惑いながらも、俺と瑠璃はその場でジャンプ。その直後……レナが小槌で地面を叩いた。

「――!?」

 小槌から鋭い光が拡散した、その瞬間――俺たちを除く全員が、頭を抱えてその場に膝を付いた。

「ぐ……」

「なんだこれ……」

「急に目眩が……」

 なんだ? なにが起きたんだ?

「葉介! 今のうちですよ!」

「あ、あぁ!」

 瑠璃の手を引いて、右方向へと走り出す。こうなったら迂回してでも県道に出るしかない。

「レナ。さっきのはなんだ?」

「『ちょっと目眩が……』です。地面を叩くと、衝撃で半径100メートル以内に居る人に目眩を起こさせるんですよ。あ、でも地面に足をついてなければ大丈夫です」

 だからジャンプしろなんて言ったのか。相変わらずのネーミングばっかりだけど、能力は役にたつ。なんとか危機を脱出できた。

「お、お兄ちゃん……私、やっぱり……」

「瑠璃。お前はなにも心配するなって!」

「……」

 瑠璃は絶対に渡さない。絶対にこの手を離さない。そう決めたんだからな。

 迂回していくと時間がかかっちまうな。くそ! いざとなったらマジで警察に電話しようとしてたけど、ここ圏外だし。県道に出れば電波あるか? どっちにしろ急がないと……。

「……!? ちょっと止まって!」

 カールが急にストップをかけた。なんだよ! 止まってる時間なんてないんだぞ!

「なんだよ!」

「……硝煙の匂いがする」

「は?」

 それって火薬の発火で出る煙のことだっけ? なんでそんなものが。

「……え?」

 森に響いた大きな音。これは……まさか銃声? 生で初めて聞いたから、判別がつかない。でも、銃声に間違いないことはすぐにわかった。

「――レナ!?」

 レナがその場に崩れるように倒れた。駆け寄って抱き起こすと……右肩からひどく出血してる。

「うぅ……」

「レナさん!? しっかりして!」

「レ、レナ……」

 瑠璃とカールが動揺してる。そんな中で、俺まで冷静さを失うわけにはいかない。こういうときはとにかく……止血だ! 上着を脱いで、傷口へと押し当てる。

「よ、葉介……私はいいですから……瑠璃と逃げてください……」

「馬鹿言うな!」

「このままじゃ……瑠璃が……」

 言いたいことはわかる。でも、レナを置いていくなんてできない。もし俺たちが逃げられたとしても、レナを犠牲にしてたらなにも意味がないんだ!

「ガキ共が……」

 叔父を始めとした、目眩から立ち直った男たちが俺たちを囲い込んだ。叔父の手には……拳銃が握られている。あれでレナを撃ちやがったんだ。銃刀法違反だろうが。お前ら、警察に連絡すれば一発で終わるぞ。

 ……連絡できれば、だけど。

「……レナ。スマートバンクは?」

「ごめんなさい……今、倒れたときに……画面が……」

 スマートバンクの液晶画面は、落とした衝撃で割れてしまっていた。これじゃ、神力アイテムは転送できない。

「カール。レナの傷口を全力で押さえてろよ?」

「……わかったよ」

 レナをカールに任せて、俺は叔父と向き合った。

「最後にもう一度だけ言うぞ。そいつを渡せ。そうすれば……お前たちだけは助けてやってもいいぞ?」

「……嫌なこった」

 何度聞かれても、俺の答えは変わらない。

 変えてたまるか。絶対に。

「なにをそこまで、そんな小娘に執着している? 兄妹だからか? くだらんな。血の繋がらない兄妹にそこまで執着する理由がどこにある?」

 ……兄妹?

 確かに瑠璃は俺の妹だ。

 妹だから……俺はこんなに、瑠璃を助けようとしてるのか?

 妹じゃなかったら……俺はこんなに必死になってないのか?

 ……違う。

「妹だからとか関係あるか」

 俺は嫌だったんだ。

 瑠璃が。

 妹とか関係なく、瑠璃が。

 悲しんでるのが。

 ――泣いてるのが。

「瑠璃を泣かせる奴は許さねぇぞ!」

 妹だろうと、妹じゃなかろうと。

 俺は、瑠璃って存在が、俺の傍から居なくなるってことが嫌だったんだ。

 瑠璃が悲しんで泣いてるのが嫌だった。

 だから俺はここに来た。

 妹である前に……。

「瑠璃は俺にとって大切な存在だ! お前なんかに渡すかよ!」

 俺はそう思っている。

「お兄ちゃん……」

 握っていた瑠璃の手を、さらに強く握る。

 大丈夫だ。絶対に、なんとかしてやる。

 絶対に……この手は離さない!

「……そうか。なら仕方ないな」

 叔父が拳銃を俺に向けてきた。本物の銃口が向けられると、こんなにプレッシャーがかかるのか。くそ……足が震えそうだ。

「や、やめて……私、戻るから! だからやめて!」

「残念だが、お前がその気でも……こいつにそんな気がないようだ。だからまず……こいつを黙らせるしかない。殺しをもみ消すなど……簡単なことだからな」

 叔父の指が、拳銃の引き金にかかる。引き金を引くなんて、一瞬のはずだけど、なんだか長く感じた。

 だからかもしれないな。

「……あ」

 叔父の頭に踵落としを決めた、ミレイの姿がよく見えたのは。

「ぐがぁ!?」

 叔父はその場に倒れて、頭を抱えてピクピクと震えている。相当な一撃だったみたいだ。

 ……本当に、ミレイだよな? なんでミレイがここに居るんだ?

「なんだこいつ!?」

 黒服の男たちが、一斉にミレイに襲いかかった。それを冷静に見極めているミレイ。スマートバンクで『黄泉送りの殺劇』を転送すると、

「「「ぎゃあっ!?」」」

 一瞬で、向かってきた黒服たちに銃弾を撃ち込んだ。魂が抜けて、その場に倒れる男たち。目にも止まらぬ速さって、こういうことを言うんだろうな。

「……ミレイさん?」

「願いなさい」

 振り返らず、ミレイはただそう言った。

「今、心から望んでいることを、願いなさい」

 それは、神子が人間の願いを叶えるときに言う言葉。心の底から望んでいることを願う。そうすれば、願いごとが叶う。

「……」

 ミレイの言葉に、瑠璃は少し考えて……。

 いや、考える必要はない。そんな様子で、

「私は……私は……」

 今、心から望んでいることを、口にして願った。

「お兄ちゃんと一緒に居たい! 離れたくない……私は、ここに居たいの!」

 その瞬間、ミレイの体から光が溢れ、瑠璃へと降り注がれる。俺は初めて見たけど……たぶん、これが、神子が人間の願いを叶える瞬間なんだ。

 そうだ。ミレイは叶えてくれたんだ。

 瑠璃の願いを。

 瑠璃の、ここに居たいって願いを。

「動くなぁ!」

 森の中に響く、機械で拡声された声。黒服と叔父に向けて拳銃を構えているのは……警察だった。あれ? 俺は連絡した覚えがないんだけど。

「水嶋知宏だな? 武器の密輸。麻薬の密売。その他もろもろ……あー有りもしない借金をネタに脅迫もやってたか? とにかく、その容疑で逮捕する。お前の飼い主もすでにお縄だ。観念するんだな」

「な、なに? 馬鹿な……」

 黒服と叔父が、警察に次々と連行されていく。あまりにも突然の、あまりにもスピーディな解決に、俺と瑠璃はぽかんとするしかなかった。さっきまでの張り詰めた空気はなんだったんだ?

「おぉい! ここに怪我人がいるぞ! 救急車を手配しろ!」

 刑事らしき、一人だけ警察官の制服とは格好の違う、煙草を加えた男が、肩から血を流してるレナを見て、警察官に指示をした。

 ――そうだ! レナだ!

「レナ! 大丈夫か?」

「……痛いです……あんまり大丈夫じゃないかもしれません……」

 そりゃそうだ。拳銃で撃たれて、大丈夫かなんて聞くほうがおかしい。大丈夫なわけないだろ。カールが必死に傷口を押さえてるけど、まだ血は止まらないみたいだ。

「見せてみろ」

 刑事の男が、レナの傷口を見て、すぐに顔を緩めた。

「出血はそこそこだが、傷自体は大したことない。口径が小さい銃でよかったな。救急車が来るまで、しっかりと止血しておいてやれ」

 慣れている。そんな感じで、刑事の男は軽く言った。

「龍ケ崎警部! 全員、パトカーに収容しました!」

「おう。じゃあ……救急車が来たら、こいつらも署まで連れて行ってやれ」

「了解です!」

 なんかどんどん話が進んでるけど、ちょっとまてよ。

「……あんた、俺たちの状況とかわかってんの?」

「ん?」

「俺たちがどんな理由で、あいつらに殺されそうになってたとか、そこらへんのことだよ」

 あまりにも、事態を理解しすぎだろ。俺たちのことを疑う気配が全くない。この状況、下手すれば俺たちも共犯者とかで捕まってもおかしくないぞ。

「そこの嬢ちゃんが借金の身代わりで無理やり養子にされそうになったのを、お前らが助けたんだろ?」

「ちょっと待てって。なんでピンポイントに理解してるんだよ?」

 普通におかしい。訳がわからない。

 龍ケ崎、えっと……警部か。龍ケ崎警部は頭をぼりぼりと掻いて、面倒くさそうに、俺たちのことを見てきた。この人の目、全然刑事に見えないな。やる気がまるで感じられない。

「なんでだっけな……なんでかわからんが、お前たちのことは全部わかってるんだよな。ここに水嶋知宏が居るってことも、なぜか急にわかったんだ。俺の刑事としての勘が冴えたのか? まさかな。まぁどうでもいいけど」

 どうでもよくないだろ。適当だな。この人。

「まぁいいだろ。結果として、お前らは助かったってことだ。そして俺は刑事として仕事をしただけ。とりあえず、お前らにも署で話を聞くからな。しょっぴいたりしないから安心しろ」

 ひらひらと手を振りながら、龍ケ崎警部は数人の警察官と一緒にその場を後にした。

 ……これって、もしかして。

「……瑠璃が願った結果、なのか?」

「そうね。急な願いだったし、上書きの願いだったから、ちょっと人の記憶とかを捻じ曲げちゃってるけど。うまくいったわねぇ」

 今回の件を解決するゆういつの方法。

 願った瑠璃本人が、願いごとを願いごとで上書きすること。それは不可能だってサンは言ってたけど……そうか。ミレイならそれも可能だったってことか。

 でも……。

「ミレイ」

「なにかしら?」

「なんで助けてくれたんだ?」

 ミレイは、今回の件の、言わば根源。

 なのに、なんで俺たちを助けてくれたんだ? その理由がわからない。

「……」

 ミレイは俺を観察するようにじっと見てきて、笑った。

 妖艶な、じゃない。純粋な笑みだ。

「あなたが言ったんじゃないの。いつか……大切な人ができたら、あなたの気持ちがわかるって」

「……は?」

「だからぁ。もし、その気持ちがわかったときに……あなたたち二人が一緒に居てくれないと、比較できないじゃない? 私と、あなたたちの気持ちが同じなのかどうか……」

 それが、俺たちを助けた理由?

「……つまり、どういうこと?」

「それが私ってことよ」

 俺と同じこと言ってきやがった。それを言われると、俺が納得しないのはおかしいじゃないか。くそ。

「……」

 瑠璃はまだぼーっとしてる。いろいろありすぎて、まだ整理できてないのか?

「瑠璃?」

「……お兄ちゃん」

 反応はあった。でも、俺の方を見ようとしない。

「どうしたんだ?」

「……私、ここに居れるんだよね? これからも、お兄ちゃんと一緒に居れるんだよね?」

 自分に言い聞かせるかのように、そんなことを言う瑠璃。

 ……自分で願ったんだろ? だったら、そんな自信なさげに言うなって。

「当たり前だろ。俺たちはこれからも一緒だ」

「……お兄ちゃん!」

「うわっ!?」

 瑠璃が抱きついてきた。そのまま俺の胸に顔をうずめて、

「うえぇぇん!」

 泣き出してしまった。

「る、瑠璃?」

「うわぁぁぁん……ぐす……よかった……よかったよぉ……」

 ……そうだな。よかった。

 瑠璃はこれからも、俺たちと一緒に居られる。本当によかった。

 まぁいいか。この瑠璃の涙は……嬉しい涙だから。好きなだけ泣かせてやろう。

 泣きながらも……。

 瑠璃は、俺の手を離さなかった。

 そして俺も。

 瑠璃の手を、絶対に離さなかった。


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