story3「恩返し」
「神子は人の願いごとを叶える存在。そしてそれぞれの神子が願いを叶えてあげる人間はゼウス様が決めるんだ。それを願い人って言うんだよ。今回、レナの願い人があんたってことだよ」
「……つまり、俺の願いごとを叶えてくれるってこと? レナが?」
「そうですよ~。あ、初めて名前呼んでくれましたね!」
いや、そこは別に反応しなくていいけど。
「こっちは使い神のカールですよ。普段はゼウス様のお世話係をしてるんです」
「今は君のお目付け役だよ」
その猫畜生の名前なんかどうでもいい。
願いを一つだけ叶えてくれる? そんなドラ○ンボールみたいな美味しい話あるの? 代わりに魂取られたりしないだろうな。
「……なんかまだ信じてないって顔だね」
「そりゃあな」
「レナ。もっと神力アイテムを見せてあげてよ。そうすれば嫌でも信じる」
「そうですね」
レナがまたスマートバンクとやらを指で操作した。そして転送された物は、
「ちょっとまて」
どう見ても拳銃。しかも結構大型のリボルバー。ここ日本だけど? 銃刀法違反って知ってる? 本物じゃないよね?
「これは『黄泉送りの殺撃』です」
「はい。名前からしてアウト! すぐしまって!」
「試したほうが早いですよね~」
聞いてないし。
レナは俺に向かって、ニッコリと笑顔。満面の笑顔で、
「じゃあ撃ちますね♪」
人殺し発言。
可愛く言っても駄目だって。手に持ってる物が凶悪だから。
「いや、ちょっとま――」
「発射~」
笑顔で引き金を引くんじゃない!?
ズギュン! という定番の銃撃音が響いた。発射された弾丸は俺の胸に命中。
あれ? 俺死んだ? 真っ赤な花が咲いちゃった?
「……あ、あれ?」
痛みはない。体に変化も特になし。
いや、でもしいて言うなら体が軽い――。
「……」
あれ? 俺の体が床に倒れてるんだけど。白目剥いてるんだけど。じゃあ俺は? 俺はなんなの?
「って、うおぉぉぉぉっ!?」
俺の体はふわふわと浮いていた。しかもなんか色がちょっと薄い。なにこれ?
「これは撃った相手の魂を十分間、体から離脱させることができるんですよ~」
「へ~……って、説明はいいから戻してくれ!? 十分間もこのままって生きた心地がしねぇから!」
体がふわふわふわふわふわ……マジで天に昇りそうだって!
「えっと……カール、十分経たなくても体に戻せるんですか?」
「さぁ? 無理やり突っ込んでみたら」
そんな鞄に荷物を無理やり入れるみたいに言うな。
「えい!」
レナは俺の腕を掴み、引き寄せた。そして本体に向かって――。
「ぶぐっ!?」
無理やり突っ込んだ。
「あれ? 入りませんね~。もう少し強く押してみましょうか」
「ぐむっ!? ちょ……ま……あぁっ!? そこは駄目ぇぇぇ!?」
レナの柔らかい手で、俺のあんな所やこんな所をまさぐられた。その結果、俺の体は無事(?)本体へと。
「……」
「葉介? 大丈夫ですか?」
「人間って情けないね。レナ、次に行こう」
「次だと!?」
ぐったりしてた俺は飛び起きた。次ってなに? まだやんの?
「次は~……『天使のような悪魔の翼』です! これは背中に着けると天使モードと悪魔モードで空を飛べるんですよ。天使モードはゆっくりお散歩用で、悪魔モードは急ぎたいときの緊急用です」
レナが取り出したのは片方が天使の翼、片方が悪魔の翼の小さな翼だった。正直、体を飛ばすほど立派な翼には見えないけど、またその神力ってやつで飛ぶんだろう。それにしてもなんか昔の歌のタイトルみたいな名前だな。
「悪魔モードは慣れが必要だけどね。すぐ暴走するから」
「私もさっき悪魔モードで飛んでたら落っこちちゃって……」
あぁ……さっきレナが空から落ちてきたのはそのせいだったのね。なんでそんな急いで飛んでたのか知らんけど。
ていうかまて。そんな危ない物使えるか。
「も、もういいって! 信じた! 信じたから! 神様はいる。絶対」
「そうですか? 葉介にも空にある星の気分を味わってほしかったんですけどね」
いや、へたすればマジで星になっちまうから。
信じたとして、じゃあ俺がその願い人ってやつで、願いを叶えてもらえるってことだよな? 神様ってことは別に魂を取られたりしないだろう。
「……?」
それにしても。
「レナ、やけに嬉しそうだな」
レナがめっちゃニコニコしてるんだ。なにがそんなに嬉しいんだ? 馬鹿みたいに笑うって言葉がぴったりだ。可愛いからいいけど。
「だって~、私の神子として初めての仕事で、葉介の願いを叶えてあげられるんですよ? それは嬉しいですよ~」
「……なんで?」
それがわからないんだ。
「なんで俺だと嬉しいんだ?」
やけに俺に親しみを持ってくれてるみたいだけど。その理由がよくわからない。
「七年前、私が神子育成学校に入ったばかりの頃、人間界に実習で来たとき……みんなとはぐれて迷子になってた私に、葉介は優しくしてくれたんです」
少し顔を赤めて、レナは柔らかく笑った。
「嬉しかったんです。優しい笑顔で私の話を聞いてくれて、親身になってくれたのが。葉介も一緒にはぐれたみんなを探してくれて、おかげでみんなと合流できたんです。それに……私のレナって名前、葉介がつけてくれたんですよ?」
「え?」
レナの名前を俺が?
「神子は基本的に名前がないんだよ。ただ番号で識別されてるだけでね」
「はい。私に名前がないことを知った葉介は……私にレナっていう名前をくれたんです。嬉しかったんです。初めて自分の名前を持ったことが……」
レナが話す、俺たちの過去。
俺の知らない過去。
「だから私……その時から決めてたんです。最初に願いごとを叶えてあげるのは、この人にしようって。恩返しをしようって。それからずっと、私は神子になるために頑張ったんです。葉介の願いを叶えるために」
恩返しって……鶴の恩返しじゃあるまいし。いや、この場合は神子の恩返しとでも言うのかな。
「まぁ、この人が願い人になったのは偶然だけどね」
「ゼウス様の心遣いじゃないんですか?」
「あの人がそんな配慮するわけないでしょ? いい加減で適当だからいつも僕が苦労してるんだからね」
そうだ。俺が願い人になったのは偶然だ。
だけど、レナはそうじゃない。昔、俺に優しくしてもらったから、名前をつけてくれたから、その恩返しに願いを叶えにきたつもりなんだ。
でも……。
俺は覚えていない。
人違いではないんだろうけど、俺の記憶にレナとの思い出はない。
忘れちまってるんだ。俺は。
レナがこんなに嬉しそうに語ってる思い出を……。
これで願いを叶えてもらうとか、恩返ししてもらうとか。なんか……レナのそんな気持ちを利用してるみたいで嫌だ。
「……? 葉介?」
俺は立ち上がって、リビングを出た。
「……俺はレナのことを覚えてない。そんな俺に恩返しなんてしなくていいぞ。だから……レナは他の奴の願いを叶えてやれよ」
俺はそのまま家を出た。
★☆★☆★☆
夜の八時。ぼちぼち帰路を急ぐサラリーマンが商店街を歩く時間だ。店の灯りで商店街が少しだけ神秘的に見える。ごちゃごちゃした都会も、夜に高い所から見ると綺麗に見えるのと同じ理屈だろう。いつもはただごちゃごちゃざわざわしてるだけの商店街だ。
「このまま飯でも食うか」
家に戻るに戻れないし、ついでだから外で夕飯を食べよう。
しばらく時間をつぶしてれば……あの一人と一匹も諦めて帰るだろうし。
別に願い人なんて誰でもいいんだろ? 俺じゃなくても大丈夫だって。考え方によっては、人生最大のチャンスを逃したのかもしれんけど。
「でもなぁ……」
やっぱり、願いごとを叶えてもらう気にならない。
レナにとってそれは、俺への恩返しだから。
全部忘れちまってる、俺への。
なんか罰が悪い。レナの嬉しそうな笑顔を見ると尚更だ。俺はレナのことを覚えてないのに。
ていうかなんで忘れてるんだ? 俺の脳は腐ってんのか? ネジが飛んでんのか? 働けよ。脳内CPUとHDD。
「まぁ考えても仕方ない。とりあえずこの空腹感をなんとかしないと――」
「葉介!」
「え?」
振り返る。今の声は……もしかして。
予想通り、商店街を走るレナの姿が見えた。
「……」
俺は無言でダッシュ。帰路に着くサラリーマンたちの間を縫って走った。
「なんで逃げるんですか! 葉介!」
なんでって言われても、俺のさっきの話聞いてた?
「他の奴の願いごと叶えてやれって言っただろ!」
「嫌です!」
「嫌って……」
なんでそこまで俺に拘るんだよ。昔親切にしてもらったって言っても、そんなの昔のことだろ。それこそ忘れてもいいことなのに。俺を正当化するわけじゃないけどさ。
商店街の裏路地に逃げ込む。子供の頃から遊んでる商店街だ。抜け道なんてあちこちに知ってる。庭みたいなもんだ。
「あ、あれ? 葉介……」
よし、逃げ切った。
裏路地のさらに裏、普通の奴は絶対に知らない、飲食店の従業員が荷物を運搬する通路に身を隠す。ブロック塀の隙間から覗き込むと、レナがキョロキョロと俺のことを探していた。
「俺がなんだって言うんだよ……」
優しくしただの、名前をつけてあげただの、子供の頃の話だろ? 大したことじゃないだろ。恩返しとか大げさなんだよ。
「さてと、このまま逃げて……」
こっそりと商店街に戻ろうとした俺の足が止まった。レナの声と……他にも複数の声が聞こえたんだ。もう一度ブロック塀の隙間から覗き込む。
「……あ、あの」
レナが、数人の男たちに囲まれていた。明らかに、ガラの悪い不良たちに。
「可愛い子はっけ~ん」
「こんな裏路地にいたらいけないなぁ」
「襲ってくれって言ってるようなもんだぜ?」
男たちはすぐにレナの逃げ道を塞いだ。男たちの異様な雰囲気に、レナの表情が一気に恐怖に染まる。その恐怖心から、ポケットにあるスマートバンクに手をかけようとして、
「あ……あれ?」
なにか慌てている。神力アイテムがあれば、こんな奴らひと捻りできそうだけど。
あ、そうか……さっき家で俺に神力アイテムを試してたときに、スマートバンクを置いてきちまったのか。どんだけ急いで追いかけてきたんだよ。
「ちょっと俺らと遊ぼうぜ~」
「良い声で泣かせてやるぜ。げっへっへ」
「お持ち帰り決定だな」
男の一人が、レナの腕を掴んだ。その瞬間、恐怖が爆発したかのように叫んだ。
「嫌です!? 葉介ぇ!」
俺の名前を。
俺に助けを求めてる。
……。
なんでだよ。俺は覚えてないんだぞ? レナだってそれを知ってるはずだ。
レナがあんな笑顔で語る思い出を……忘れちまってるんだぞ。
なのに……。
なんでそんな声で俺を呼ぶんだ?
俺を絶対に信用してる。そんな声で。
そして俺は……。
「……くそ!」
なんで放っておけないんだよ。
「ちょっとまったぁ!」
気が付いたら俺は飛び出していた。男たちが次々と振り返る。
「あぁ?」
「なんだお前?」
やべぇ。めっちゃ怖い。
こいつらガチだ。ガチの不良だ。それもけっこうやばい感じの。
「葉介……」
今にも泣きそうな顔のレナ。
それを見て、俺は少しだけ足を踏ん張った。逃げ出さないように。
「い、嫌がってるだろ? その子を離せよ」
声震えてるから、俺。格好悪い。
「なんだと? お前にそんなこと言われる筋合いねぇんだよ! 部外者は黙ってろ!」
「ぶ、部外者じゃない!? 俺は……その子の……」
ここで俺は少し考えた。
俺は……レナのなんなんだ? さっき出会ったばっかりの俺は……。
……いや、会ったばっかりじゃねぇか。
「友達だよ!」
レナはそう思っている。
俺は覚えてないけど、少なくともそうなんだ。
「……葉介!」
男の手を振りほどいて、レナが泣き顔の中に少しの笑みを浮かべて走ってきた。そしてそのまま……俺にダイブ。
「あがっ!?」
勢いありすぎ。さっき追いかけられたときも思ったけど、けっこう足速いな。
「嬉しいです! 葉介に友達って言ってもらえて……」
いや、それはいいから抱きつく力をもう少し緩めて。柔らかくて良い匂いだけど痛い。こんな状況でなけりゃ美味しいんだけど。
「友達、か……げっへっへ! じゃあ俺らはこれからその子と友達以上の関係になるからよ! お前は邪魔だ!」
やべぇ。なんか完全にターゲットが俺に移った。リアルに骨の一本や二本やられてもおかしくない。ここはなんとか穏便に済まさなければ……。
「お、落ち着いて話し合おう。暴力はいけないぜ? 話せばわかるはずだ。俺は見てのとおりケンカなんて弱い一般的な高校生で……あんたたちと争う気は微塵もないです」
「ほう? じゃあ大人しくその子をこっちへ渡してもらおうか? 俺らはこれからその子と友達以上の関係になりに行くんだからよ」
「あ、ごめん。それは無理」
レナを背中に渡して即答。それだけは無理だな。
「それは俺がボコられる百倍嫌だ」
「葉介……」
格好つけたわけじゃない。素直にそう思ったんだ。だから即答しちまった。
そんな俺の態度がお気に召さなかったのか、男たちは目つきを変えた。獲物を狙う獣の目に。
「だったら力づくだぁ! そのガキぶっ殺して、可愛子ちゃんを奪えぇ!」
ぶっ殺すとか簡単に言っちゃいけないよ!?
やべぇ。マジでやべぇ。逆上した男たちが一斉にきやがった。多勢に無勢にもほどがある。頭の悪い奴らはこれだから困る。数で攻めればいいと思ってやがる。まぁタイマンでも勝てないけどさ。えっとどうしよどうしよ。どうしようもないんだけどさ。とりあえずレナだけでも――。
「阿修羅流武術――」
俺の脳内CPUが崩壊寸前まで追い詰められたとき、背後から聞き覚えのある声がした。
「三段撃!」
雫だった。
俺と、先頭切って走ってきた男の間に入り、右拳を構える、そして……素早く正拳突きを三連続で撃ち出した。
「ぐぷぷぷ!?」
顔面。胸。腹部。それぞれに一発ずつ雫の拳を受けた男は、まるでバネに弾き返されたかのように体が吹っ飛んだ。地面を激しく転がり、白目を剥いて気絶。気絶だよな? 死んでないことを祈る。
「雫様ぁぁぁっ!?」
突如現れた救世主に、俺は歓喜の声をあげた。
「あんた、なにやってんの? ていうか誰? その可愛い子は?」
「お、お兄ちゃん……」
遅れてやってきた瑠璃が、心配した表情で俺を見てきた。
「大丈夫? 怪我してない?」
「心配するな。九死に一生を得た」
「大げさね」
いや、マジで俺の心境はそんな感じです。
「ていうか、お前らこそこんな所でなにやってんの?」
確か瑠璃は雫の家に拉致されてたはずなんだけど。
「買い忘れた物があっただけよ」
「……あれだけ買っておいて?」
「うっさいわね。服なんていくら買っても足りないのよ」
どんな理屈だよ。
「んで裏路地が騒がしいから来てみれば……あんたが不良共にリンチされる寸前だったってわけ」
「ナイスタイミング」
俺は雫にグッドサインを向けた。そして笑顔。そんな俺の最高の笑顔をシカトして、
「それで、瑠璃ちゃんと並ぶと物凄く絵になりそうなほど可愛いその子は誰よ?」
雫の目はレナに向いていた。
「……後で紹介するから、とりあえず後ろにいる殺気だった奴らをなんとかしてくれね?」
「あぁそうね。忘れてたわ」
雫は男たちに振り返った。
「社会のゴミを掃除しましょうか♪」
声は優しい。でも明らかに雫の目つきが変わった。
修羅の目に。
その後、男たちの行方を知る者は……誰もいなかった。
「葉介」
レナが相変わらずの笑顔で、俺のことを見つめてきた。照れる。
「助けに来てくれるって……信じてましたよ!」
「いや……結果的に助けたのは雫だけどな」
「違いますよ。葉介がいなかったら……私はあのまま連れて行かれてました。でも、絶対に葉介が助けてくれるってわかってたんです! 七年前と同じように……」
七年前、か。レナはずっとそればっかだな。
……逃げてもいられねぇか。
「レナ」
俺は少し真面目な顔で、レナに質問した。
「はい?」
「……さっきも言ったけど、俺はレナのことを覚えてない。だからレナに対してなにをしてあげたのかも、名前をあげたっていうのも……わからないんだ。それでも……俺に恩返ししたいのか?」
忘れてる相手に恩返しすることほど、馬鹿げてることもあまりないと思う。
だから聞かずにいられなかった。レナの気持ちを。
「関係ないですよ」
レナは俺の手をそっと握った。
「だって、私がちゃんと覚えてますもん。葉介のしてくれたことも言ってくれたことも……くれた名前も。だから私は……葉介に恩返ししたいんです。絶対に」
「……そっか」
だったら断る理由なんてない。
ありがたく、願い人の権利を使わせてもらう。
「じゃあ考えてみるよ。叶えてもらう……願いごと」
「はい!」
レナに会ってから……俺は初めて純粋に笑った気がする。
覚えてなくても、笑えるんだ。
思い出なんて、大した問題じゃないのかもしれないな。まぁ、覚えてたほうが良いに決まってるんだけど。
「……お兄ちゃん」
手を握り合ってた俺とレナを、瑠璃が不満気な顔で見ている。
「早く手、離してよ……」
「……なんで?」
「……」
怖い目で見られた。瑠璃がこんな目をするなんて珍しい。俺は大人しくレナの手を離すことにした。
「はい。どいてどいてー」
そしてすぐにレナから引き離された。雫によって。力づくで。
「レナ、だっけ?」
「え? はい」
「……ちょっとそこに立って。瑠璃ちゃんと並んで」
真面目な顔で、なぜかそんな指示をする雫。
でもその真面目な顔はすぐに緩んだ。
「天使が二人いるわぁ!」
「「きゃあ!?」」
並べた二人に、雫がおもいっきり抱きついた。その為に並べたのかよ。大体予想はしてたけどさ。
ここから先は少年誌ではお見せできないようなやりとりがあるので、ご想像でお楽しみください。ただ二つだけ、雫からはハートが無数に飛び出ております。それからレナと瑠璃からは悲鳴が飛び出ております。
終わるまで待っていよう。下手に止めれば俺に被害がくる。大通りじゃなくてよかった。人の目が痛くない。
「……あ」
一つ、思い出したことがある。
そういえばそうだった。なんで気がつかなかったんだろうな。
レナ……れな……玲奈……。
俺があげたというその名前。それは……。
俺を産んでくれた。死んだ母さんの名前だった。