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神子の恩返し  作者: 天天
『瑠璃』パート
35/63

story11「恵まれた」

 翌日、俺たちは朝からミレイを探すために集まっていた。

「手分けしたほうがいいわよね。私はレナとサンと一緒に行くわ。葉介は一人ね」

「手分けになってねぇから」

 お前がただ一緒に行きたいだけだろうが。特別扱いは許さん。ちゃんと全員バラバラに行くんだよ。

「見つけたら『あなたに届けたい』で連絡すればいいですか?」

「レナとサンはそうだな。俺と雫はレナに携帯で連絡して、それからレナがサンに連絡って感じで」

「了解です。『天使のような悪魔の翼』使いますか?」

「……いや、いいや」

 いつもやけに進めるよな。『天使のような悪魔の翼』。

「僕は?」

「お前は戦力に数えてないからレナの鞄で寝てろ」

「……」

 睨むんじゃねぇよ。お前は一人で動いたって連絡手段ねぇだろうが。

 ちなみに、前に使った『ゴッドパワーマップ』って言う、神力の反応がわかるアイテムを使えばすぐに見つかるんじゃないかと思って提案したんだ。神子の体は神力でできてるから、居場所がすぐにわかる。でも、それはすでにサンが試したらしい。でも、神力の反応はなかったらしいんだ。

 理由はよくわからないけど……神力を隠して行動するのはそんなに難しいことじゃないらしい。神力の反応を隠す『透明神子』(帽子らしい)ってアイテムもあるらしいし。

「私、その神子がどんな見た目か知らないんだけど」

「青髪のショートカットで妖艶な雰囲気。あとは格好でわかる」

「……」

 睨むんじゃねぇよ。お前はそれを理由にレナかサンと一緒に行こうとしてただけだろうが。

 とりあえず午前中いっぱいは捜索。その後のことはまた考えようってことになって、解散。それぞれが町中の捜索に出た。



★☆★☆★☆



「……」

 一時間ぐらい、町中を探し回った。

 でも、成果はなし。

 そもそも、町に居るって言ってたミレイの言葉を信用しての捜索だし。本当に居るのか? て言われたらわからない。もし居ても、どっかの建物の中とかに居たら、見つけようがないし。これ……けっこう無理ゲーかもしれない。この町、わりと広いんだぞ。

「まぁネガティブに考えてても仕方ない……」

 別のルートでもう一回りしてみよう。

 レナたちからの連絡がないところを見ると、誰も成果はまだないみたいだな。まだ始めてから一時間だし、焦っても仕方ないか。

「……ここはさっき居なかったんだよな」

 捜索を始めてから、俺が真っ先に来た場所。

 いつもの、小川が流れてる丘だ。レナもサンも気に入ってる場所。瑠璃がミレイと会ったのもここだし、もしかしたらと思ったけど……居なかった。一回りしてたら、また来ちまったよ。

「……」

 そもそも……俺はあんまりミレイを捕まえる気はないんだけどな。ただ、話がしたいだけで。

「はぁ……」

 小川の前に座り込んでため息。

 瑠璃が家を出ちまうまで、あと数日。その間に、俺にできること。

 瑠璃が家に残れるように。どうすればいいか……。

 ……。

 俺がそうするべきだと思ったこと。

 それがきっと、本当の意味で正しいことになる。

 母さんはそう言ってた。

 レナのときも、俺はその言葉を信じて、自分がそうするべきだと思ったことを望んだ。

 今回……俺はどうするべきだと思ってるんだ?

 そもそも、俺は瑠璃がどういう気持ちで願いごとをしたのかもわかってない。

 迷いがある。瑠璃の気持ちも知らないで、俺が勝手なことをしていいのかって。

 瑠璃は……。

 今、どんな気持ちなんだろうな。

 家に残りたいのはわかってるけど……そうじゃなくて……。

 本当に願ったことに対して、どう思っているのか。どんな気持ちなのか。

 俺にはそれがわからない。

「似合わないわねぇ。考える姿が」

「どわたぁ!?」

 俺の思考に突然の侵入者。しかも失礼な言葉と共に。

 いつの間にか、隣にミレイが立っていた。

「お、お前……いつから居たんだよ?」

「君がため息をついて、似合わない姿で考えごとしてたときからよ」

 最初からじゃねぇかよ。

 って、それはどうでもいい。目の前に捜索中の張本人がいるんだ。ミレイを探して、俺たちは朝から町中を歩き回ってたんだ。

「私を捕まえに来たのかしら?」

「うぐ……」

 ばれてるし。

「捕まえて監禁して、あんなことやこんなことをしようとしてるのかしら?」

「思ってねぇよ!?」

「あら残念。私、けっこうハードなプレイもいけるわよ? 君、可愛いから、相手してあげてもいいと思ったのにねぇ」

「健全な思春期男子をからかうんじゃない!?」

 い、いかん……完全にミレイの流れだ。落ち着け俺……深呼吸……スー、ハー……よし。よし。よし……。

「……俺はお前と話がしたいだけだ」

「話? あらら……私を捕まえに来たんじゃないの?」

「俺以外はそのつもりだけどな」

「……君、私が憎くないのかしら?」

 笑顔だったミレイが、少しだけ表情を堅くした。俺の本心を探っているような目だ。

「憎い?」

「私のせいで、妹さんは家を出ることになってるのよ? そんな相手に話がしたいなんて、よくそんな悠長なことを言ってられるわね。問答無用で捕まえて、いろいろ吐かせればいいだけの話じゃないのよ」

 ああ……そういうことか。

 極端に言えば、仇みたいな相手が目の前にいるのに、俺は悠長すぎる。それがミレイに不信感を抱かせてるらしい。

「憎いに決まってるだろ」

 だから俺は本心をそのまま言うことにした。

「お前のせいで瑠璃は家を出る。それは事実で、俺はお前に怒ってる。それは確かだ」

「……だったら、なんでさっさと捕まえないの?」

「お前の気持ちもわかるからな」

 ミレイがゼウスを憎んでる理由。堕ちた神子になった理由。

 それが全部わかってて、理解できるからこそ、俺はミレイを完全に敵視できない。

「自分のやりたいように、自由に生きたい。そう思うのは自然で、当たり前のことだ。お前はそれを実行した。ただそれだけだろ?」

「……それは、使い捨て神子のことがあったから、そう言ってるのかしら?」

「……かもな」

 使い捨て神子だったレナ。神子の使命に縛られて、自分のやりたいように、自由に生きられないで消えるだけだった運命を持っていたレナのことがあったから、そう思えるのかもしれない。

「……いえ。君はきっと、なにがあったとしても、誰が相手でも、そう思うのかもしれないわね」

「……買いかぶりだろ。それと、だからって別にお前を許すわけじゃないからな?」

 そこだけは勘違いしてもらっちゃ困る。俺は別にミレイを許すつもりはない。

「……君は、なんで他人のために願ったの?」

「はぁ?」

「いえ……なんで君は、他人のために願えたの? 心の底から」

 いきなりなにを聞いてくるんだよ。質問の意図がわからない。

 そして、その答えは決まってる。

「それが俺だから」

「……」

 自分よりも他人の涙が気になる馬鹿。

 母さん譲りの、それが俺だから。

 俺としては当たり前のことを言ったんだけど、ミレイは俺をじっと見つめて、どこか観察しているような感じだった。納得してないのか? 嘘だとでも思ってるのか? まぁ別にどう思ってもいいけどさ。

「馬鹿なのね。君は」

「それは俺にとって褒め言葉だ」

「ふふふ」

 ミレイが……純粋に笑った。

 妖艶でもなんでもない。普通の笑顔。

 ……あれ? なんかドキッとした。だって可愛いって思っちまったんだもん。

「……私にも、君みたいな人が傍に居たら、違っていたのかしらね」

「……」

 寂しげなミレイの声。

 ああ……そうか。

 ミレイは一人だったんだな。

 レナは俺と会って救われたって言ってた。ミレイには、そういう存在が居なかったんだ。

 心の支えになる存在が……。

「葉介~」

 丘の上から声がした。あれは……『天使のような悪魔の翼』で降りてくるレナだ。俺と一緒にいるミレイを見て、驚きの表情を作る。

「よ、葉介……この人……」

「……ああ。ちょっと話してた」

 俺の隣に着地したレナは明らかに警戒している。瑠璃にしたことと、第一印象があれじゃ、無理もないけど。スマートバンクを手にして、いつでもアイテムを転送できるようにしている。

「レナ。大丈夫だって」

「でも、葉介……」

「大丈夫よ。元神子さん。私はすぐに消えるから」

 両手を上げて、なにもしないってことを意思表示しながら、ミレイは俺たちの横を通り抜けていった。

「……あなた。人に恵まれたわね」

 レナとすれ違いながら、ぽつりと言葉をかけるミレイ。

「でも忘れないで。神子の全員が、あなたみたいに恵まれてるわけじゃないってことを」

「……」

 全員の神子がレナみたいになれるわけじゃない。

 それは確かにそうだ。それが現実だ。

 だから……堕ちた神子なんて存在が生まれるんだ。

 丘を上がっていったミレイに、俺はせめてと思って、最後に質問をぶつけた。

「まてよ! 堕ちた神子は集まって組織を作ってるんだろ? お前もそのメンバーなのか?」

「あらあら。そんなことも知ってるのね。でも残念。教えられないわ」

 ミレイの顔には、いつもの妖艶さが戻っていた。これは……もうなにを聞いても教えてくれそうにないな。

「私なんかに構ってないで、妹さんのことを考えてあげたら? このままだと本当に……遠くへ行っちゃうわよ」

「……」

 ミレイの姿が丘の向こうへ消えていった。

 ……わかってるよ。そんなことは。つーか、お前に言われたくねぇ。

「……恵まれている」

 ミレイに言われたことを気にしているのか、レナが自分の胸を押さえながら考え込んでいた。

「そうですね。私は葉介に出会えただけで、恵まれています。葉介と出会えたから、私はこうしてここに居られる」

 レナは人に恵まれた。

 本当にそうだったのかなんてわからない。レナがここに居られるのは、俺と出会ったから。そんな自惚れたことを思うつもりはない。

 でも……。

 神子の仕事をしてるとき、俺があいつと出会ってたら……。

 なにか変わったのかな?



★☆★☆★☆



 その後はけっきょく、ミレイは見つからなかったってことにして、その日は終わった。レナも口裏を合わせてくれてよかった。

 そして……けっきょく、なにも進展することなく……。

 水曜日。瑠璃が参加するミスコンの日を迎えた。


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