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神子の恩返し  作者: 天天
『瑠璃』パート
31/63

story7「改造神力アイテム」

「なんであんなこと聞いたの?」

「ん?」

「当たり前じゃないのよ。瑠璃ちゃんがここに居たいなんて」

 ジロリと雫に見られて身を竦める。軽く威嚇入ってる。

「別に。ただ直接瑠璃の口から聞きたかったってだけだ」

「……? なんの意味があるのよ?」

 なんの意味がある。それを聞かれると、俺も特に意味なんてあるとは思えない。

 でも……。

「レナのときと同じだ。本人の口から聞きたかった」

 レナに俺が願いごとをしたとき。

 レナの口から聞きたかったんだ。

 本当は、レナ自身がどうしたいのか。それを直接。

 たぶん、それと同じだと思う。

「……ふーん。よくわからないわ」

 同意は得られなかった。別にいいけど。


「きゃあぁぁぁぁ!?」


「……あ?」

 いきなりの上からの悲鳴。

 ここは屋上なんだけど? 屋上でさらに上から悲鳴ってなんだ?

「どいてくださいぃぃぃ!?」

 また声がした。

ていうかこれ、なんかデジャヴ――。

「って、うおぉぉぉぉぉぉっ!?」

 上を見上げると、俺に向かって急降下してくる黒い影が一つ。

 いや、人だ。

 いや、あれは……美少女だ。

「あだぁぁぁ!?」

 体を有り得ない衝撃が襲った。体が一回転しながら吹っ飛ぶ。めっちゃ痛い。

 そして俺の胸には柔らかい感触。そして良い匂い。おもわずぎゅっとしたくなる。そんな男心を擽るこの存在は……。

「……って、レナか」

 俺に降ってきたのはレナだった。背中に『天使のような悪魔の翼』を着けてる。しかも悪魔モードだ。出会ったときと同じように制御できないで落っこちだんだろう。

「ご、ごめんなさい……急いでたらまた落ちちゃいました……」

 失敗失敗と言わんばかりに、照れ笑いをするレナ。うん。可愛い。このままぎゅってしたい。

「葉介。レナから離れなさい」

 殺られるから絶対やらないけど。もはや笑顔とは言えない悪魔の笑顔で俺を見てる。

 名残惜しくもレナを体から離して、とりあえず危ないから『天使のような悪魔の翼』を外させる。これが暴走するとマジで大変なんだ。

「ていうか、なにをそんなに急いで戻ってきたんだ?」

「えっとですね。ゼウス様が葉介に話を聞きたいって言ったので」

 ゼウスが俺に? レナはそう言ってスマートバンクを操作して、『あなたに届けたい』を転送した。これは電話みたいなもんだけど、相手の姿が立体映像で見えるアイテムだ。

「王神様があんたになんの用なのかしらね」

「知らん。つーか、俺はこれにものすごくデジャヴを感じる」

 前にゼウスにこれで連絡したときは……王神の威厳が一瞬にして消し飛んだからな。今回も嫌な予感しかしない。

 何回かのコール音の後『あなたに届けたい』に映し出された立体映像。やっぱり、ゼウスは俺の期待を裏切らなかった。悪い意味で。

『プリンがないぞぉぉぉぉ! 俺はプリンを食べないと頭がまわらないんだぁ! プリンを持ってくるまで仕事せんからなぁぁぁ!』

 子供か。お前は。

「……なにこいつ? 全力で殴りたくなったんだけど。殴っていい?」

「いちおう、王神だからやめておけ。気持ちはものすごくわかるが」

 そもそも立体映像だから殴れないだろうに。

「ゼウス様。映ってますよ?」

 レナが呼びかけると、ゼウスは泣きそうな顔で(そんなにプリンがほしかったのか……)こっちに振り返った。そして、初対面の雫がいることに気が付くと、顔をむりやりキリっと威厳を外に出した。もう遅いっての。

『久しぶりだな。天坂葉介』

「どーも」

『そちらの可愛らしいお嬢さんは?』

「雫ですよ~。お友達です!」

『初めまして。お嬢さん。私は神界オリュンポス十二王神の一人、ゼウスと申します。以後お見知りおきを』

「ゼウス様。とりあえずムカツクのでいつも通りに喋ってもらってもかまいませんかね?」

 適当に喋ってるときは、なんて適当な奴だと思ったけど、いざちゃんと喋られると腹が立つ。

『……王神の威厳を見せようとしたんだが』

「さっきのプリンで台無しだからご心配なく」

『まぁいいか。俺もこっちのが楽だ』

 いつもの調子に戻ったゼウスはケラケラと笑った。本当、見た目はちゃらい兄ちゃんにしか見えない。

「んで? 俺に用ってなんですか?」

 茶番に付き合ってる暇はない。さっさと要件を言ってもらおう。

『あー……まぁウチの神子が迷惑をかけたようだな。まずはそれを詫びる』

「じゃあ今すぐ願いごとを解除しなさい。掌底をぶち込まれたくなかったら」

 雫。抑えろ。こんなでも王神なんだって。俺とレナの恩人でもあるんだって。

『それは無理だな。最近、俺はただでさえ神子に関しての改定法を進めてるからな。これ以上、理に反したことをやると、他のオリュンポス十二王神に袋叩きにされる。あっはっは!』

 笑ってんじゃねぇよ。雫。やっぱり一発ぐらいぶち込んでもいいぞ。

 とはいえ、まぁ……確かに最近ゼウスは神子の在り方を変えるためにいろいろやってるのは知ってる。他の王神に目をつけられてるってこともな。

『まぁお前に用ってのも、その堕ちた神子のことについてなんだが』

 堕ちた神子のことについて? それはレナとサンから聞いたんじゃないのかよ。そのために二人は神界に戻ってたんだから。

『堕ちた神子は神力アイテムを使っていたとのことだが、神力を吸収する能力だったんだな?』

「そうですね」

 その能力で、ミレイは願いを叶えて神力を失っても、すぐに神力を補充してたと言ってた。神子が願いを叶えると、神力が光になって溢れる。その神力を、ミレイが持ってた神力アイテム(短剣)で斬ることで、神力を吸収して、また願いを叶えられる。

『だとしたらやっぱり腑に落ちんな』

「なにがっすか?」

『Bランク以上の神子専用に作った神力アイテムは、神子が神力を込めることで力を発動する。神力を吸収する能力なんて、俺はそんなアイテムを作った覚えはない』

 Bランク以上の神子専用に作った神力アイテム。それはゼウスの神力が込められてる普通の神力アイテムと違って、神子自身の神力を込めることで能力を発動する。例えばサンの『神力刀』は神力を込めて斬ることで、神力関係なら無条件でなんでも切り裂ける。確かに、神力を込めて発動するのに、その能力が神力を吸収することなんて、違和感がある気がするけど。

『……天坂葉介。その堕ちた神子が持っていた神力アイテムに黒い星マークはついていたか?』

「は?」

『サンは攻撃を受けていてそれどころじゃなかったし、レナは覚えていないらしい。お前は見ていないか? 実を言うと、お前に一番聞きたいのはそこなんだ』

 黒い星マーク? なんだそりゃ。

「ゼウス様が作った神力アイテムには、目印として白い星マークが付いてるんですよ」

 レナが『あなたに届けたい』のアンテナ部分を示した。確かに、白い星マークが付いてる。今まで全く気にしてなかったな。

 でも……白じゃなくて黒? 黒いとなんなんだ?

 黒い星……黒い星……俺もあのときはけっこう無我夢中だったからな。えーっと……。


『刃を当てることで、神力を吸収して自分の物にできる能力なの。人間の願いを叶えるとき、神力が光になって拡散するでしょ? それを『神食い』で吸収すれば、ほとんど神力を消費しないで、願いを叶えることができるから。私は何回でも願いを叶えることができる。そして神子の体も神力で構成されてるから……こうやって神力を吸収できるのよねぇ』


 『神食い』。確かそんな名前だった。

「……あ」

 思い出した。『神食い』の刃の先に付いていた……黒い星マークを。

『あったんだな?』

「……うろ覚えですけど、あった気がします」

『ゼウス様。やはり、あいつの持っていたアイテムは……』

 あれ? どこからともなくサンの声がしてきた。ここにはレナしか降ってきてないのに。ああ、ゼウスの後ろにいるのか。立体映像に映らなくても、声は届くんだったな。

『……改造神力アイテム。だろうな』

「改造神力アイテム?」

 初めて聞いたぞ。なんだ? 改造神力アイテムって。

 レナに目を向ける。首をかしげてるところを見ると、レナも知らないみたいだ。

「神力アイテムは、ゼウス様が神力を込めて作った物だよ。でも、改造神力アイテムは違うんだ」

「……カール。お前いたの?」

「いちゃ悪いの!?」

 いやだって、さっきまで姿見えなかったから。またレナの鞄にでも入ってたのか?

 キシャーと俺に威嚇の声を出すカール。不機嫌そうな顔をそのままに、説明を続けた。

「改造神力アイテムはね、ゼウス様が作った神力アイテムに、また別の神力を無理やり込めて、別の能力を付加させた物だよ」

「……王神が作った物に無理やり神力なんて込められるのかよ?」

「普通はできないね」

 普通は? でも、できるってことなのか?

 それっきり、カールは喋るのをやめた。なんだ? 言いたくなさそうな感じだ。

「その改造神力アイテムを、なんでミレイは持ってたんだ?」

『ミレイ?』

「ああ……なんでもその堕ちた神子。番号が301号らしくて、瑠璃にそう名乗ったらしいんす」

『301号か……』

 識別番号も手がかりになるのか、ゼウスは顎に手を置いて少し考えた。301号ってことは、サンよりもかなり前の世代だな。

『……まぁ改造神力アイテムのことは、俺のほうで調べる』

「王神が作った物を改造できるなんて、まさか改造したのも王神だったりして……なんて、そんなわけないっすよね」

『ぶっ!?』

 あ、ゼウスが吹いた。

「どうしたんすか?」

『な、なんでもない……』

 明らかになにかあったと思うけど。まぁいいや。俺たちにとって、その改造神力アイテムってのはそこまで重要じゃないし。

 重要なのは……問題なのは……。

「……やっぱり無理なんすよね? 瑠璃の願いを消すってのは」

『……残念だがな』

 ゼウスが言うなら、やっぱり無理なんだろう。

 ここでゼウスに文句を言っても仕方ない。それよりも、これからどうするかを考えないと。

『まぁでも……』

 ゼウスは、おそらく自分にとっては最高にいい笑顔を作ったつもりで(俺にとってはムカツク顔だけど)、俺と雫を見てきた。

『結果がわかっているとしても、その結果にいたるまでに、お前たちがどうするかは自由だと思うぞ。レナのときもお前は……最後まで考え抜いただろう?』

「……」

 たまーに、たまーにだけど……。

 この人、説得力のあること言うんだよな。俺たちのことを見透かしてるって言うか……わかってるって言うか……。

「……要件ってのは終わりですか?」

『ん? ああそうだな。黒い星マークがあったとわかっただけで充分だ。サンはしばらくこっちで俺の手伝いをするが、堕ちた神子のことでなにかわかったら連絡に向かわせる』

「了解です」

『あ、それとレナ。プリンを使い神急便で送ってくれ。100個ほど』

「わかりました~」

 100個って。どんだけ好きなんだよ。使い神急便ってなに? 宅急便? まさかのプリン箱買い? つっこみが追いつかねぇよ。

 プリンを注文して、満足そうにゼウスは通信を切った。

 けっきょく……瑠璃のことに関しては進展なしか。

「ゼウスって馬鹿っぽいわね」

「うん、馬鹿だ」

「ゼウス様は馬鹿なんですか?」

 これだけ馬鹿馬鹿言われる王神ってなんだろうな……。

 さてと、そろそろ昼休み終わるな。戻らないと授業に遅れる。

「レナはどうする?」

「えっとそうですね……制服もないですし、今日は先に帰ってますね」

「え~~~~」

 本気で残念がってるぞ。雫。

 でも実際、午後から授業受けてもあんま意味ないし。俺も先に家に帰っていいと思う。

「あ、一つだけいいですか?」

 『天使のような悪魔の翼』を起動しようとしたレナが、俺に振り返った。

「なに?」

「今日は葉介、瑠璃と二人で帰ってくださいね?」

「……なんで?」

「なんでもです!」

 迫られた。顔近い。

 なんで瑠璃と二人で帰らなきゃいけないんだ? いや、別に嫌だってわけじゃなくて、純粋に理由が気になるんだけど。

「え~~~。じゃあ私一人で帰るの?」

「雫は私が迎えに来てあげますから」

「ほんと? じゃあ我慢するわ」

 勝手に話が進んでる。

 ……瑠璃と二人か。

 うーん……俺、なんて声かけてやればいいんだろうな。


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