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神子の恩返し  作者: 天天
『レナ』パート
3/63

story2「神子」

「死ぬっ」

 これは大げさな表現じゃない。マジでそう思った。しんどい。

 軽い女の子とはいえ、背中におぶって、無理やり両手に大量の荷物。一人の人間が持てる許容量を完全に超えてる。

「てりゃっ!」

 玄関に荷物を投げ放つ。人命優先!

 女の子を背負ったままリビングへダッシュ。とりあえずソファーで……いいか。女の子をソファーに寝かせる。

「はぁ~~~~~」

 あまりの疲労に息が漏れる。体中の筋肉がだるい。明日筋肉痛かも。

 いや、それよりも……女の子は大丈夫か? 息はしてたけど、空から降ってきたんだしな。

 冷えたタオルをおでこに乗せて、寒くないように毛布をかけてやる。俺の知ってる介護方法はこれぐらいしかない。

「……」

 それにしても可愛いな。この子。

 金髪ツインテールで童顔とか、王道すぎるだろ。容姿だけだったら雫と並ぶだろ。残念ながらスタイルは雫の圧勝だけど。

 それから……なんだ? この珍しい格好。やっぱりコスプレ? コスプレして空から降ってくる? どういう状況なの? それ。そもそもなんで空から降って来るの? 人間は空飛べないぞ。ちょっと混乱してるぞ俺。

「……マジで可愛い」

 格好の意味はわからないが、似合ってて可愛いのは確かだ。コスプレだとしたら、某電気街でコスプレした女の子に向かってカメラのレンズを向けてる奴らの気持ちが少しだけわかった。

「……」

 目の前で、可愛い女子が無防備に寝ている。

 これで興奮しない男がいますか?

 いやまて、おちけつ……じゃなくておちつけ。変な気を起こすな俺。いくらなんでも、寝てる女の子に手を出すなんて男としてやっちゃいけないことだぞ! マジで犯罪者の一歩手前だ。いくらこの子がすごく可愛くても……。

「……ん?」

 うん。可愛い。

 でも、なんだろうな……この感じ。それだけじゃない気がする。

 なんかこの子、どこかで見たことあるような気が――。

「あ」

 顔を近づけて女の子を凝視していると、突然、その目がパチッと開かれた。澄んだ青色の瞳が、俺を視界に映す。

「……」

「……」

 そして沈黙。最悪のタイミングだ。

 今の状況だけ見れば、まるで俺がこれから女の子を襲おうとしていたように見える。すっげぇ顔近づけて見てたし。もちろん、そんな気はなかったぞ? 神に誓って。

 これは……悲鳴をあげられるフラグ? うっそーん。俺の人生終了? 人助けで家に連れてきたのに、逆に女の子を家に連れ込んで襲おうとしてた加害者?

 俺の予想通り、女の子は叫んだ。

「葉介!」

 ただし、俺の名前を。

「うわっ!?」

 さらに、飛び起きた勢いで俺に抱きついてきた。あまりの勢いに、俺は後ろに倒れる。

 柔らかい……良い匂い……幸せ……。

 じゃねぇよ。このまま抱きつかれてたいけど、むしろ俺もホールドしたいけど、そうじゃなくて。

「離れないでくれ!」

 違う。本心を言うな、俺。

「はい! 絶対離れません!」

 君も同意しなくていいから。

 そうじゃなくてとりあえず離れて……って、え? 今俺の名前呼んだよな?

「……なんで俺の名前知ってるの?」

 女の子をゆっくりと引き離して(本当はもっと抱きついててほしかった)、疑問をぶつける。俺の名前を当たり前のように呼んでたけど、俺は名乗った覚えはないぞ。

「知ってるに決まってるじゃないですか~」

「いや、決まってないよ」

 そんな可愛い笑顔で言ったって駄目。

「だって前にも会ってますもん! 私たち!」

「……はい?」

 会ってる? 俺たちが前にも?

 ……。

 いや、ごめん、知らん。

「人違いじゃなくて?」

 確かにさっきどこかで見た気がしたとか思ったけど、俺の記憶にこんな可愛い子の存在はない。ていうかこんなに可愛い子忘れるかよ。記憶にないってことは知らないってことだ。

「人違いじゃないですよ~。天坂葉介、ですよね?」

「……うん」

「ほらぁ! それに昔の面影がありますもん! 間違えるわけないですよ~」

 だからそんな可愛い笑顔で言っても駄目だって。知らないものは知らないもん。

 でも……この子が俺の名前を知ってたのは事実だよな。

 もしかしてこれ、新手の電波?

「まぁ七年も前のことですからね……覚えてなくても無理はないですけど。私はちゃんと覚えてましたよ! だって私はもう一度葉介に会うために頑張ってたんですから」

「……えっとまぁ、とりあえず君はなんで空から――」

 なんかマイペースな性格みたいだ。このままだと一方的に話される。俺が無理やり話を切り替えようとしたときだった。

「レナァァァァァ!?」

「うおぉっ!? 空飛ぶ猫ぉっ!?」

 日本語で叫びながら、全身黒い毛の猫が窓ガラスをぶち破ってリビングに飛び込んできた。おいコラっ!? 俺んちの窓がぁっ!?

「あ、カール」

「あ、カール。じゃないよ! 一人で勝手に行っちゃってさ! 僕は君の面倒をゼウス様から頼まれてるんだよ! ちゃんと僕の言うこと聞いてくれないと駄目じゃないか!」

「え~? でも神子は私ですよ?」

「願い人の情報も知らないで飛び出して行ってなにが神子だよ! もう!」

 美少女と黒猫がケンカしてる……。

 ていうかこの黒猫。白い翼生えてんだけど。パタパタと飛んでるんだけど。頭踏んだら翼消えてただの黒猫になるのかな? 某人気アクションゲームみたいに。

 ああもう! いろいろとツッコミたい所はあるけど、とりあえず、まずとりあえず!

「お前ら一体何なんだよ!?」

 空から降ってきた美少女。弾丸のように窓ガラスをぶち破ってきた空飛ぶ黒猫。なんだこの組み合わせは? こいつらなんなの? それが素直な感想だ。

「私は神子、ですよ」

「僕は使い神だよ。ていうかあんた誰?」

 人の家の窓ぶち破っておいて、あんた誰? だと。常識知らずにもほどがある。猫だけど。常識とか通用するのかわからんけど。

「……巫女って、神社の人? この猫はラジコン猫? どっかにプロペラ付いてるの?」

「僕を猫って言うな!」

 じゃあなんなんだよ。つーか普通に日本語で話すな。

「神の子と書いて神子! 王神ゼウス様から神力をもらった神だよ!」

「神界から人間界へと渡って、人の願いごとを叶える存在なんですよ」

 神? しんりょく? しんかい? 願いを叶える存在?

 ……。

 ああーあれか。

 この二人(正確には一人と一匹)、ちょっと中二病をこじらせてるんだ。関わらない方がよさそうだ。

「……」

 俺は黙って女の子の背中を押し、黒猫を片手でつまみあげた。

「あれ? どうしたんですか? 葉介」

「ちょっと! 猫みたいに持たないでくれる?」

 そのまま玄関に進む。そして一人と一匹を玄関から放り出した。

「え? えぇっ!? ちょっと葉介! どうしたんですかぁ!」

「よくも投げたね! 猫みたいに! 僕は猫じゃないんだからね!」

 よし。厄介者の排除完了。

 ふぅ。これからはあんまり変な奴に関わらないようにしよう。見て見ぬふりをしよう。ろくな目に会わないからな。

 さってと、腹が減ったし……どうせ瑠璃は当分帰ってこないだろうから適当に夕飯を作って、風呂入って寝よ。

「えっと、確か昨日の残り物があったはずだからそれとずあぁぁっ!?」

 リビングに戻ってきた俺は漫画的にずっこけた。

 当たり前のように、さっきの一人と一匹がリビングに座り込み、テーブルにあったミニチョコを食べていた。

「美味しいですねぇ~。抹茶ココアに合いそうです!」

「人間の食べものにしてはそこそこかな。ゼウス様のプリンも確か人間界の食べものだって言ってたし」

 それ瑠璃のっ!? 後で怒られるの俺! 瑠璃は甘いものたまにしか食べないから余計怒られるんだぞ!

「お前らどうやって入った!?」

「なに言ってんの? おもいっきり窓が空いてるじゃない」

「それ壊したのお前だろうが!」

 そうだ忘れてた。この猫畜生が窓を壊しやがったんだ。

「弁償しろよ!」

「べんしょう?」

「直せってことだよ!」

「うるさいなぁ。たかが窓が壊れたぐらいで」

 焼いて食うぞコラ。今日の夕飯にするぞちくしょうが。

「まぁいいや。レナ、神力アイテムで直してよ」

「了解です~」

「……ん?」

 女の子(レナと言うらしい)が……服のポケットからスマフォみたいな端末を取り出した。スマフォみたいってのは、少し形が変わってるからだ。タッチ画面をポチポチと押すと、

「あれなら小型で充分ですね」

「そうだね。ちゃっちゃとやっちゃってよ」

 なにもなかった空中に、突然現れたそれ。

 それはどう見ても……自衛隊とか特殊部隊とかが使う、俗に言う手榴弾にしか見えない。

 え? それをどうするつもり――。

「うおぉぉぉぉっ!?」

 レナはニッコリしたまま、手榴弾を窓めがけてポイ。そんな堂々と破壊行動!? ていうか直すって言ってたよね? さらに破壊してどうすんだ!? つーかやばい!? 家壊れちゃうんじゃねっ!? あぁ! 親父と母さんになんて言おう……。

「……あれ?」

 頭を抱えてリビングの端まで逃げてた俺。でも予想していた爆発音がしない。恐る恐る窓のほうを見てみると、

「……」

 弾け飛んだ手榴弾から煙が出て、窓を包み込んでいた。その煙が消えたときには、

「……あれ?」

 窓が元通りになっていた。

 ……あれ? なにが起きた?

 窓に近づいて確認。うん、問題なし。触ってみても普通にガラスだ。

「……なにやったんだ? 今」

「神力アイテムで直したんですよ? 今のは『あの頃に戻りたい手榴弾』です。大中小の大きさがあって~それに合った大きさの物を、最初に設定した分、時間を巻き戻せるんです! 時間は秒単位から何時間、何日何年単位まで設定できますよ~」

「まぁ生物には効果ないけどね」

 なにそのネーミング? あと手榴弾である必要あるの?

「神力アイテムはね、神力が込められたアイテムで、いろんな効果を持ってるんだ。人間界に来る神子のためにゼウス様が作ったんだよ。人間界はいろいろと物騒だからね。そして神力アイテムを転送するための『スマートバンク』。これがあればいつでもどこでも神力アイテムを転送できるんだ」

 スマートバンクってさっきのスマフォみたいなやつのことか? たぬき型ロボットのポケットみたいだな。ていうか自慢げに鼻を鳴らす黒猫。とりあえずはたき落としたい。

 俺はもう一回、直った窓を見つめた。確かに直っている。さっきまでは割れて破片が飛び散ってたのに。

 ……。

 え? もしかしてマジなの? マジでこの一人と一匹は……。

「……神様、なのか?」

「さっきから言ってるじゃん。正確には神じゃなくて、神子と使い神だけどね。神様ってのは王神様のことを言うから」

 神様って本当にいたんだ……信じられん。でも目の前で起こったことを見ると、信じるしかない、よな……。

「ていうかレナ! こんな所でもたもたしてられないんだよ! 早く願い人の所に行かないと!」

「え? それならここですよ? 私、最初に願いを叶えてあげるのは葉介って決めてたんですよ~」

「なに言ってんの! 願い人はゼウス様が決めるんだよ! 神子に選択権はないの!」

「え? そうなんですか?」

「そうだよ! 大体なんの説明も聞かないで飛び出すから僕がお目付け役で……って、え? 葉介?」

 黒猫がジロリと俺のことを見てきた。

「なんだよ?」

「……あんた、天坂葉介?」

「だったらなんだよ?」

「……ここの住所は○○県の○○市、○○の○○?」

「そうだよ」

 なんで疑いの目で俺のこと見てんのこいつ? 猫にこんな目を向けられる筋合いないんだけど。

「……偶然、本当に偶然たまたまだけど、この人がゼウス様が選んだ願い人みたいだね」

「え? 本当ですか! 偶然じゃないですよ~。これは運命です! 私と葉介の!」

 さっきからなんの話してるんだ? 俺を蚊帳の外で話進めないでくれる?

 二人の会話をぽけっと聞いていた俺に、突然、レナが振り返った。

「じゃあ改めまして……私は神子。人の願いを叶える存在です」

 そしてどこかテキストを読んでいるかのように、整えられた台詞を口にした。

「今回の願い人は、天坂葉介さん、あなたです。願いごとを一つだけ叶えてさしあげます。叶えて欲しいことを……心から願って下さい。あなたの心を膨らませて、現実のものへと誘います」

「レナ。最初の『初めまして』が抜けてるよ」

「い、いいじゃないですか~。それぐらい」

「まて。話が全く見えない」

 願い人? 俺が? どういうこと? ちゃんと説明してください。


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