プロローグ
私にお兄ちゃんができた。
お母さんが再婚して、新しいお父さんの……連れ子? が、私の一つ上の男の子だったから、必然的に、私たちは兄妹になったの。
本当のお父さんは、ちょっと前に病気で死んじゃって、お母さんはずっと寂しそうにしてた。でも、最近笑ってることが多くなったの。
新しいお父さんも凄く良い人。私を本当の娘みたいに可愛がってくれる。
そしてなによりも……。
★☆★☆★☆
「瑠璃。ご挨拶しなさい」
「……」
恥ずかしくて顔を出せない。どうしよう……変な子って思われてないかな。
だって、新しい家族だなんて、いきなりすぎるもん。お母さん、私に黙ってるなんてひどいよ。心の準備とかだってあるのに……。
「ははは。恥ずかしがることはないよ。私たちは今日から家族だ。家族同士で恥ずかしがるなんておかしいだろう? さぁ、おいで」
優しい声。この人が新しいお父さん?
お父さんが死んじゃってから、お母さんはずっと働いてて……私は家で一人でいることが多くなった。だって、私とお母さんの二人で暮らしてるんだから……当たり前なんだけど。これからはお父さんがいる。それだけでも凄く嬉しい。
でも……やっぱり駄目。顔を出せない。恥ずかしいよう……。
「ははは。駄目か。早く慣れてくれると嬉しいんだけどな。葉介。こういうときは男のお前から挨拶するべきじゃないか?」
「え? なにそれ? レディーファーストって言葉もあるよ? 男が先なんて誰が決めたのさ」
「いいから早くしなさい」
「うわっ!」
別の声? あれ……? この人は誰なの? お父さんって一人じゃないの?
「瑠璃」
お母さんが私の頭に手を置いた。
「この子はね、新しい家族。瑠璃のお兄ちゃんになる子よ」
「……」
お兄ちゃん? お父さんだけじゃなくて、お兄ちゃんもできるの?
どうしよう。凄く嬉しい。
どうしても顔が見たくて、お母さんの後ろからちょっとだけ顔を出してみた。
そして……。
「お? 顔出した」
新しいお父さんに負けないぐらいの優しい声で、優しい笑みを浮かべていたその人は、
「僕、葉介。天坂葉介。よろしく!」
私に手を差し伸べてきた。
私よりも少し大きな手。
恐る恐る。手をだしてみる。不意に、向こうから手をぎゅっと握ってきた。
「~~~」
「可愛いじゃん! 僕の妹にはもったいないぐらいだよ!」
「全くだな」
「……お父さんが納得するのはなんか嫌だ」
ちょっと不満気にする、お兄ちゃんになる人。
でも、私が見てることに気が付くと、また笑顔になった。
その笑顔に……見惚れてた。
見てると安心するその笑顔。
今日からこの人が……私のお兄ちゃん。
私も……。
お兄ちゃんといると、笑ってることが多くなったの。




