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神子の恩返し  作者: 天天
『レナ』パート
10/63

story9「デート?」

「あー……ねっみぃ」

 やっと午前の授業が終わった。疲れた。眠い。だるい。帰りたい。なんで俺たち学生はこんな鉄の塊に押し込められて一日中勉強せねばならんのだ。今からでも遅くない。教育法を改定しようじゃないか。

「あんた授業が終わるとそればっかじゃないのよ」

「ふぐっ!?」

 脳天にチョップを食らった。

 やめろ。雫のチョップは本人にとっては軽くのつもりでも、やられてるほうにとっては致命傷にもなるんだ。今のだって、俺はガチの悲鳴だったぞ。

「その緩い頭はちゃんと願いごとを考えたのかしら?」

「……」

 レナがウチに来てから三日。

 俺はまだ願いごとの『ね』の字も考えてない。すごい願いごと。なんてレナに期待されちゃってるからな。そりゃあすぐに考えられるわけないだろ? 別に自分を肯定してるわけじゃないぞ。

「まぁ急がないで、焦らずゆっくりと考えればいいんじゃないの?」

「ん? お前が俺に優しい言葉をかけるなんて珍しいな?」

「だって葉介が願っちゃったらレナが帰……いや、なんでもないわ」

 それが本音かい。

 別に俺だってそんなにのんびり考えたいわけじゃないけどさ。普通に難しいんだよ。

 心の底から願う願いごと。

 俺にとってすごい願いごと。

 ……今まで願いごとってジャンルを本気で考えたことなんてないからなぁ。あれが欲しい。これが欲しい。買って買って~とか、子供みたいな願いごとじゃないんだから。

 だって、俺が願ったことは本当に叶うんだから。

「……雫ならなにを願う?」

「ん?」

「願い人の権利をもらったら」

「瑠璃ちゃんと結婚」

 即答。ここまで来ると尊敬するぞ。

「冗談よ」

「本当に冗談だよな?」

「まずはお付き合いからよね」

 話が噛み合ってない。放っておこう。

 さぁってと……飯でも買いに行くか。

「コンビニに昼飯買いに行ってくる」

「あれ? 瑠璃ちゃんのお弁当はどうしたのよ?」

「今日は委員会で朝早かったからなし。無理して作るなって言っておいた」

「ていうか、なんでコンビニ?」

「購買激混みするじゃん」

 ウチの学校の購買はパンがメインだけど、パン獲得戦争と呼ばれるぐらい激しい混み方をするんだ。生半可な覚悟ではパンを獲得できない。俺も一年のときはよく参加したもんだ。でも今は戦争に参加するのだるいから、コンビニに行ったほうが楽だ。

「先生に見つからないようにしなさいよ」

「そんなへまはしないぜ」

「ついでに午前の紅茶買ってきて。購買で売ってないの」

「……」

 こいつはいちいち人になにかを押し付ける奴だな。



★☆★☆★☆



「んー……この時間に制服のまま外を歩くって、悪いことしてる気分だな」

 実際、校則違反はしてるわけだが。みんなやってるから問題ない。赤信号、みんなで渡れば怖くない。

「まぁ、警察に見つかって補導とか洒落にならないけどな」

「ほどう? 道のことですか?」

「それは歩道な。視覚化しないとわからないネタはやめよう……って」

 声に振り返る。この元気で天真爛漫って言葉がぴったりの声は……。

「……なにやってんだレナ?」

 レナしかいない。

「こっちの台詞ですよ~。葉介こそなにやってるんですか?」

 確かにそうだ。なにやってんだって言えば、俺のほうだ。学校に行ってるはずなのに町を歩いてるんだから。

「今日は瑠璃が弁当作れなかったから、外に飯を買いに来たんだ。はい。レナのターン」

「私はお散歩ですよ~」

 散歩かい。まぁ別に出歩いちゃ駄目だとは言ってないからな。

 てか、雫の持ってきた白いワンピースが似合いすぎ。可愛すぎ。ぎゅってしたい。しちまうか? 今なら雫いないし。

「レナ。俺の胸に――」

「あ! あれって前に雫たちと行ったお店ですよね」

 パタパタと『兎のお姫様』の前まで走っていくレナ。両手を広げたまま、虚しく固まる俺。は、恥ずかしい……。

「明日、また雫と来ることになってるんですよ~。新しいリボンを買ってくれるって言ってました!」

 あいつ、俺には散々奢らせるくせに、瑠璃とレナには惜しみなく金使うな。たまには俺に奢ってくれてもバチは当たらないと思う。

「……」

 視線を感じる。俺に、じゃなくて……レナに。

 町行く男たちが、レナをちらちらと見ながら歩いてる。一人や二人じゃない。それこそ、通りかかる男は全部ってぐらい。

 まぁレナは激可愛いから無理もないけど。中には声をかけようぜ的な感じでレナを見ながら相談してるような奴らもいるんだよな。どうしたもんか。

 ……よし。

「……? 葉介。なにやってるんですか?」

「雫にメール」

 このままレナを一人で歩かせたら危ない。この間不良どもにからまれたこともあるし、なにより、あの笑顔を他の男に向けさせてたまるか(嫉妬)。

「これでOK」

 メールの内容はこうだ。

 『急に熱が出た。今日は早退する。先生によろしく』

 どうせ午後の授業は俺の嫌いな英語だし。丁度いいや。

「さってと、じゃあどこに行くか」

「え? 葉介。がっこうはどうするんですか?」

「サボる」

「い、いいんですか?」

「レナが一人だと心配だからな。この間みたいにからまれたら大変だし」

 まぁいざからまれたら、雫みたいに撃退できるわけじゃないけど。レナを逃がすぐらいはできる。もしくは110番だ(警察任せ)。

「……」

 レナはちょっと申し訳なさそうにしてたけど、やがて、

「ありがとうございます!」

 満面の笑みで答えてくれた。

 うん。学校で監禁されてるよりも、レナと歩いてたほうが百倍いいな。

「あ」

 雫からの返信だ。早いな。まぁどうせ文句が書かれてるだけだろう。

『あんた。レナと一緒にいるんでしょ? ずるいわよ! 後で覚えてなさいよ!』

 なんでわかるんだよ……。お前は超能力者か。

 てか、後で覚えてろってどういうこと? 俺の死亡フラグが立ってるんだけど。

「どうしたんですか?」

「レナ……どうやらこの散歩が俺にとって最後の晩餐になりそうだ」

「……?」

 まぁいいや。後でなんとかしよう。いざとなったら瑠璃に間にはいってもらえばなんとかなるだろう。

 さぁて、どうしようかな。昼だし。俺の腹はグーグー鳴ってる。

「レナは昼食ったのか?」

「まだですよ」

「じゃあまず飯を……って、そういやあの猫野郎はどうしたんだ?」

「カールは家で寝てます~」

 お目付け役のくせに寝てばっかだな。自分の使命忘れてんじゃねぇの?

 飯……と言っても、さすがにこの時間に制服でファミレスとか行ったらマジで補導されそうだな。それは面倒だ。さて、どうしたもんか。考えろ考えろ。

「……遊園地でも行くか」

 脳裏をよぎった考えがぽつりと漏れる。

「ゆうえんち?」

 あ、レナは知らないのか。遊園地がどういう所か。

「簡単に言えば遊ぶ所だな。乗り物とか土産屋とか」

 行楽地なら最悪「修学旅行です」とか「社会科見学です」とか言えばいくらでも誤魔化せるんだ。実際、何回かやってる。何回も学校さぼってるのかよ、というツッコミは受け付けません。

「神界にはそういう所ないのか?」

「どうなんでしょうか……私、ゼウス様の神殿と育成学校以外はあんまり知らないですから」

「……そっか」

 なら尚更連れて行きたくなった。隣町にある『和良咲ユルユルランド』に行こう。

「よっしゃ。行くぞ。デートで金をケチる男は最低だ。俺にドンと任せろ」

「デート?」

 あ、おもわず言っちまった。

 勝手に俺はそんな気分だったけど、レナはそんなこと全く思ってないかもしれない。だったら気分を悪くさせちまったかも。

「デートってなんですか?」

 そこから?

 いや……なんか説明するのも恥ずかしいんだけど。

「えっと……つまりだな。男と女が一緒に遊びに行くっていうか……一緒に居て楽しい人と行くっていうか……」

「一緒に居ると楽しい……」

 俺の遠回しな説明。だってはっきりと説明するのは恥ずかしい。いくら俺が普段馬鹿発言が多くても(自覚はしてる)、それぐらいの羞恥心はあるぞ。

 およそわからないような説明だったけど、レナは少し考えて、なんとなく理解したのか、

「ならこれはデートですね!」

 また笑顔で答えた。

「……うえ?」

 あまりにストレートな答えだったから、なぜか俺が戸惑う。ついでに変な声が出る。

 理解……してるのかな?

「葉介と一緒に居ると楽しいですから! 葉介と一緒に行くなら、デートってことですよね?」

「……あ、ああ」

 あ、あれ? なんか俺のほうが押されてる? おかしいな。俺からデートって言った気がするんだけど。いつの間に立場逆転?

「じゃあ行きましょう!」

「わっ!」

 手を引っ張られて、バランスを崩しそうになった。

 自然と手を握られて、やばい……なんか緊張する。下心がどうしても……。

 駄目だ! 抑えろ俺! 純真無垢なレナに対して下心なんて抱いてたら最悪だぞ!



★☆★☆★☆



 和良咲ユルユルランド。

 千葉にある某人気テーマパークほどじゃないけど、それなりに大きな所だ。俺の中で遊園地と言えばここ。イメージキャラクターの『ユルユル』は小さい頃怖くて泣いたけど、今は可愛いもんだ。まだたまーに、泣いてる子供を見るけど。

「……」

 レナがワクワク感全開の笑顔。子供みたい。やべぇ。可愛い。頭撫でたい。

 平日なら、午後から数時間限定で激安フリーパスがある。フリーパスがあればなんでも乗り放題だ。休日だと、せっかくフリーパスを買っても待ち時間ばっかでけっきょく乗れないなんてことがあるけど、平日ならそれもない。

「葉介葉介! あの大きな山はなんですか!」

 中に入るなり、レナがしきりに指を指すのは……ユルユルランド最大人気の『ユルユルフォールマウンテン』。簡単に言えば、山の上から落ちるジェットコースター。

「あの上から超スピードで落下するんだ」

「超スピード? マッハいくつぐらいですか?」

 さすがにマッハまで行かないけど。マッハという速度であの体むき出しの乗り物なんかに乗ろうなんて発想する設計者がいたら、そいつの脳を疑う。普通に死ぬぞ。

「あれに乗ってみたいです!」

 なにげに一番人気で一番怖いユルユルフォールマウンテンに最初に乗りたがるとは……レナ、恐ろしい子。瑠璃なんか前に乗ったとき、ガチ泣きしてたんだぞ。

 ちなみにユルユルランドなんて名前に騙されちゃいけない。アトラクションは絶叫系がほぼ占めてる。ぶっちゃけ名称詐欺だ。どこがユルいんだ。

「いちおう言っておくけど、怖いぞ?」

「面白そうですよね!」

 まぁレナなら全然大丈夫そうだな。

 俺も絶叫系は得意だし。テレビでバンジージャンプとか飛ぶのに躊躇ってる芸人の気持ちがわからないからな。普通に楽しそうじゃん。俺なら即飛ぶ。

 さすが平日。並んでるのは数人だけだ。待ち時間数分で俺たちの順番が来た。

「レナ。怖かったら俺に抱きついてもいいんだぞ」

「抱きついてほしいんですか?」

 はっきり返答されると恥ずかしい。ここでイエスと言ったら俺は男としてどうなんだ?



★☆★☆★☆



 かれこれ三時間ぐらい。

 レナに引っ張られるままに、絶叫系をほぼ制覇。遊園地初心者とは思えないほど、レナが乗りたがるのは絶叫系ばっかり。瑠璃が一緒だったらやばかったな。たぶん、トラウマになる。

「ゆうえんちって面白いですね!」

「それはなにより」

 絶叫系をこれだけ乗って、そんな感想がでる奴はそうはいない。レナとは気が合いそうだ。俺も久々にテンション上がった。すっかり昼飯のこととか忘れてたからな。

 遅めの昼飯に『ユルユルポテト』と『ユルユルバーガー』を食べながら、時間を確認。フリーパスの時間切れまで、まだ一時間ぐらいあるけど、絶叫系は全部制覇したし、後は瑠璃が喜びそうなのんびり系のアトラクションしかない。どうするかな。

「レナ。他に行きたそうな所ある?」

「えっと……」

 パンフレットを見て、アトラクションを吟味するレナ。でも、興味を引く物がなかったのか、最終的には、

「葉介のおすすめはどこですか?」

 俺に投げられた。

 おすすめ……って言っても、おすすめはもう全部行ったからな。後はどっかあったかなぁ……。

「……あ。そうだ」

 そういえばもう一つ、俺がけっこう好きな所があったな。



★☆★☆★☆



「……ここですか?」

 やってきたのは『ユルユルホラーハウス』。まぁ定番中の定番、お化け屋敷ってこと。

 俺は小さい頃からけっこうこの系統も好きだ。ここのお化け屋敷は道も長くて、お化けの出来もかなりの物。前に瑠璃と入ったときは、泣きすぎて進めなくなったから途中で非常口から出してもらったほどだ。

「レナはお化け平気か?」

「……」

 あれ? レナの表情がどことなく硬い気がする。こんな顔は珍しい。

「レナ?」

「え? は、はい。平気ですよ」

 ……? 外見が不気味だから呆気に取られてたのかな? まぁ絶叫があれだけ平気なら、お化けもなんてことないだろう。俺も来るのは久々だからな。中は相当変わってるだろう。楽しみだ。

 血まみれの白衣を来た案内人に入口を開けてもらい、いざ、中へと入る。

「……レナ。近いぞ」

 入ってすぐ、レナが俺にぴったりとくっついて来た。

「ご、ごめんなさい……」

 謝りながらも、離れようとはしないレナ。言ってることとやってることが違うとはこのことだ。

 おかしいな。さっきは平気だって言ってたのに。怖がってるようにしか見えない。俺の腕を握る力がだんだん強くなる。ちょっと気にかけておいたほうがいいかもな。

 さぁて、最初はなにが来るかな。前は定番の「恨めしや~」って言いながら出てくる白装束に白頭巾のお化けだったけど。メイクがかなりリアルだった。

 ワクワクしながら歩いて……数十メートル。なにも出てこなくてちょっと拍子抜けしてたところに……ゴトっと音がしたかと思うと、俺たちの目の前になにかが降ってきた。

 ロープで吊られた、生首が(もちろん作り物)。

「きゃあぁぁぁぁぁぁ!?」

「うおぉぉぉぉぉっ!?」

 レナの盛大な悲鳴。

 ちなみに、俺の悲鳴は生首に驚いたんじゃない。レナの悲鳴に驚いたんだ。

 俺の腕にしがみついて、体をブルブルと震わせるレナ。これは……完全に怖がってるよな?

「……レナ。お化け苦手なのか?」

 絶叫は全然平気なのに、お化けが怖いとか……可愛すぎない?

「う……あの……その……」

「苦手ならそう言ってくれればよかったのに」

「で、でも……せっかく葉介と遊びに来てるんですから……入ってみようと思って……」

 それは嬉しい限りだけど、ここまで怖がられるとなんか罪悪感が。瑠璃と良い勝負だ。

「今からでも戻るか?」

「い、いえ! 行きます!」

 キリッと顔を整えるレナ。でも、体は震えたまま。

 仕方ない。このまま行くか。正直、しがみつかれてて、レナの胸が腕に当たってて心地良いし。ごめんなさい。俺も男の子なんです。

 再び歩き出して数十メートル。レナにくっつかれてるから歩きづらい。でも腕は気持ちいい。密着されてると心臓がバクバクと音を立ててくる。ぶっちゃけ俺、お化けどころじゃない。レナは本気で怖がってるのに、俺はなにやってんだ? と自分自身を罵倒していると、

「きゃあぁぁぁぁっ!?」

「ぐあっ!?」

 腕にしがみついてただけだったレナが、全力で俺の体に抱きついてきた。ち、力強い……幸せだけど痛い。も、もっと密着し……じゃない。

「ど、どうした?」

 なんか出た様子はなかったけど。なにに驚いたんだ?

「あ、足になにか当たりましたぁぁぁ!」

 軽く発狂してるレナ。ここまで大声で叫ぶレナは初めてだ。

 足? 足元になにか出たのか? 暗い照明の中で足元を確認すると。

「……ああ、レナ大丈夫だ」

 なんだなんだ。こんなことか。

「え?」

「ただの地面から生えてる腕だ」

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 悲鳴がでかくなった。

「逃げましょう葉介ぇ!」

「ぐえっ!?」

 レナに引っ張られて勢いのまま走る。お化け屋敷で走るのって危険なんだけど……走らないでくださいって禁止事項にあるし。だって走ると、

「きゃあっ!?」

 なにか出たときに対応が取りづらいからな。今のレナみたいに。

 走ってたレナがぶつかったのは、ボロボロの着物を着た女の人。後ろ向きだったその女の人が振り返ると、

「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!?」

 顔がなかった。定番ののっぺらぼう。レナ大絶叫。

「だ、大丈夫だレナ! ただ顔がないだけだ!」

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 駄目だ。顔がないのが怖いらしい。いや、のっぺらぼうはそういうもんか。ここで「なぁんだ。顔がないだけか」とか言われたらのっぺらぼう涙目だ。

 こ、このままじゃ進めない。とりあえず、通路の端っこに移動してレナが落ち着くのを待とう。

「レ、レナ……とにかく落ち着――」

 ぎゅっと、俺の胸に顔をうずめてくるレナ。

 本気で怖がってる。可哀想なぐらい体が震えてるのがわかる。さすがの俺も、抱きつかれてラッキーなんてことは思えず、レナの頭を撫でで落ち着かせる。

「……やっぱり出るか?」

「……」

 半泣き。というか泣いてる。このまま無理に進む必要はないと思う。

「だ、大丈夫です……せっかく葉介と一緒に……」

「レナ」

 どうも、せっかく俺と、みたいなことを気にしてるみたいだけど。

「そんなの気にする必要はないぞ。また一緒に来てやるから」

「……」

「俺はレナが泣いてるほうが百倍嫌だからな」

 俺の顔を見上げるレナ。俺はできる限りの優しい笑みを見せる。

 やがてレナは目を擦り、小さく笑みを浮かべて頷いた。



★☆★☆★☆



「落ち着いたか?」

「はい」

 フリーパスも時間切れで、ベンチに座ってのんびりと休憩。

 すっかり落ち着いたみたいで一安心だ。

「……」

 と、思ったら、レナはぼーっと、周りに目線をあちこち移動させてる。なにを見てるんだ?

「どうしたんだ? なんか面白いもんでもある?」

「あ、いえ……人を見てたんです」

「人?」

 歩いてる人を見てたってこと? 見てても面白いもんでもないと思うけどな。

「……笑ってますね。みんな」

 感慨深い表情。あまりそんな表情をすることのないレナだから、余計に強くそう思う。

「まぁ行楽地だからな。そりゃみんな笑顔だよな。それがどうしたんだ?」

「思うんですよね。人の笑顔を見てると」

 俺に向かって、柔らかい笑みを見せてくる。いつもと違う笑顔に、ドキッとする。

 可愛い……いや、綺麗だな。なんて見惚れる。

「神子は……私は、こういう笑顔を作るために、願いを叶えてあげるんだなって」

 神子が人の願いを叶える。

 それは確かに、願いが叶えば笑顔になるだろう。嬉しいに決まってる。

 人の願いを叶えること。それが神子にとっての栄誉。喜び。

 なるほど。だから人の笑顔を見てると思う所があるんだろう。

「……うん。今は本気でそう思えます」

 ……今は?

 前はそうじゃなかったってこと?

 一瞬だけ……レナの表情に寂しさが混じった気がした。

 でも、なんだか聞いちゃいけないことのような気がして、俺はなにも言えなかった。

「……あ」

 携帯がブルった。メールだ。

 メール送信相手は……雫だ。俺はその内容を見て、


『Kill You(お前を殺す)』


 血の気が引いた。

 わ す れ て た ! ?

 雫が英語を使うときは本気で怒ってるときだ! やっべぇ!

「どうしたんですか?」

「……レナ。帰ったらまず、雫に抱きついてくれ」

「え? どうしてですか?」

「そうしないと今日が俺の命日になる」

 雫のご機嫌を取らないと、マジだ。これはガチで殺られる。瑠璃にもお願いしよう。俺の命を全力で守ってくれと。

「わかりました~。おもいっきり抱きつきますよ!」

 またいつもと同じ笑顔に戻ったレナ。

 その顔には、さっき一瞬感じた寂しさは消えていた。


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