ビーフシチューの美味しい食べ方
小さな頃から小説を読むのが好きだった。
母子家庭で育った俺は、小さい頃から一人で過ごすことが多かったせいもあって、暇さえあれば小説を読んでいた。
母さんは化学系の大学教授なのだが、活字中毒でもあるので読む小説には困らなかった。
谷崎潤一郎の『刺青』や谷崎潤一郎の『母を恋ふる記』、そして谷崎潤一郎の『神童』などなど。
ちょっとジャンルが偏っているのが難点だったけども。
そんな俺が自分で小説を書くようになるのは、ある意味当然のことだったのかもしれない。
俺は小説を書くことにのめり込んだ。
そして書いた小説を小説家になろうに投稿していた。
休日はもちろん、平日も学校から帰ってきた後はずっと小説を書く生活を続けた。
それでも毎日定時に更新するのは大変だった。
しかし、どこが悪いのかわからないが、俺の小説の総合評価はいつまでたってもゼロポイントのままだった。
いや、誤魔化すのはやめよう。
本当は自分でもわかっているんだ。
俺の小説がどうしようもないほどつまらないから、誰もお気に入り登録してくれないのだということくらいは。
それでも俺は連載を続けた。
小説家になるという夢を諦めたくなかったからだ。
誰も読んでくれなくても、俺は書くことが好きだから書き続けられた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
そんなある日、俺の小説のお気に入り登録数が一になって、総合評価が二ポイントになった。
四十二九十六十八さんという、ちょっと変わったユーザーネームの人がお気に入りに入れてくれたのだ。
たった一人でも読者がいてくれるというだけで、小説を書くことが今までの何倍も楽しくなった。
読者さんは最新話を読んでどう思ったんだろう?
そんなことを想像すると、自然と顔がニヤついてしまった。
俺はさらに小説にのめり込んだ。
そして、ついに小説を最終話まで書き終えることが出来た。
最終話を予約投稿し、俺は学校に向かった。
小説を完結させた興奮で、授業は上の空で何も手がつかなかった。
いつの間にか学校が終わっていたので俺は急いで帰宅した。
帰宅途中に電車から見た風景も、どこか昨日までよりも輝いているような気がした。
家に帰って来た俺は、さっそくPCを起動して小説家になろうにログインし――そして、自分の目を疑った。
俺の小説に四十二九十六十八さんが感想を書いてくれたのだ。
内心非常にビクビクしながら感想を読んだ。
「完結おめでとうございます。毎日、更新時刻が楽しみでした。次回作を楽しみに待っています」
嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて涙が止まらなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
その日の夕食はビーフシチューだった。
母さんの作るビーフシチューは俺の大好物なのだが、作るのに手間がかかるようで母さんは滅多に作らない。
「母さん、今日はなにかいいことでもあったの?」
「内緒。ところで、学校の勉強でわからないところはない? 今日は母さんが教えてあげるわ」
その日母さんはずっと上機嫌で、ニコニコしながら化学と英語を教えてくれた。
◇◆◇◆◇◆◇◆