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リクエスト短編

一人では寂しいから、

作者: 文月 郁

「ねえ、一緒に死なない?」

 目の前の女から、誘われた。真っ赤なルージュを塗って、胸元を大きく開けたドレスを着た女。

「そりゃまた、どうして?」

 カクテルグラスを口元へ運びながら、問いかける。女は私の腕に絡みついて、大きな目で見上げてきた。

「だってこんな世の中だもの。いっそぱっと死んじゃったほうが、ましじゃない?」

「そうかもな」

 カラン、とドアベルがなる。

「マスター、いるー? 歌いに来たよー」

「やあ、<歌姫>。存分に歌っていってくれ」

 <歌姫>の言葉に顔を向ければ、入り口の辺りに少女が一人立っていた。服はあちこちが破れ、身体に巻きつく大蛇の刺青がのぞいている。ショートヘアからロングヘアへと変わる金髪には、左右にそれぞれ一房ずつ、ピンクと緑の髪が混じる。

 すたすたとステージに足を向ける<歌姫>。マイクを簡単に調節すると、何の前触れもなく歌い始めた。

 バーの中は一気に静まりかえる。全員が聞き惚れているのだろう。

「ねえ、<歌姫>さん。アンタは寂しくならないの?」

 女が<歌姫>に声をかける。

「寂しく? どうして?」

 首をかしげる<歌姫>。歌い終えて、出て行くかと思いきや、私の前に腰をかける。

「マスター、ジンジャーエールちょうだい。辛いの」

 まもなく、ジンジャーエールが運ばれてきた。

「そんで、お姉さんはどうしたの?」

 ふふふ、と女は赤い唇を歪ませる。

「アタシねえ、死のうと思ってんの。このお兄さんと」

 死、の言葉を聞いても、<歌姫>の表情は変わらない。当然か。

 ここは無法都市。名の通り、どこの法も通用しない場所。そして、人の命が、そこらのごみと同程度の場所。

「お兄さんは死ぬの?」

 ふいに矛先が私に向く。カクテルを口に含み、少し考える。

「さあ、どうかな」

「なんでお姉さんは、お兄さんと死ぬの?」

「だぁって、一人だと、寂しいじゃない?」

 ふうん、とうなずき、<歌姫>はジンジャーエールを飲みほした。そしてふらりとバーから出て行く。

「それで、お兄さんは、アタシと死んでくれるの?」

「そうだな。どうしようか」

「さっきから、そればっかり」

 女は唇を笑みの形にして、私の耳元にささやいた。

 一人では寂しいから、一緒に死んでよ。お兄さん。

 女は私に絡みつく。まるで蛇のように。

 私は、その艶やかな蛇の耳元に、そっと返事を囁いた。


Twitterで日向葵さんからリクエストをいただいて書いた作品です。

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