始まり
初投稿です。
どうなるか作者もわかりませんが、よろしくお願いします。
日野有紗は、ずっと違和感を感じながら生きてきた。息を吸っただけで、この世界の空気に体が悲鳴を上げる。動けないわけではない。だが、重く澱んだ空気を体が拒絶する。
それは、有紗の周囲の大人たちも気づいていたようで、そのことに有紗は申し訳なく思っていた。生まれた環境も、周囲の人たちにもなにも不満はない。むしろ、恵まれた環境だった。でも、身体ではなく、心が叫ぶ。ここは自分のいるべき世界ではないと。
朝、鏡を見ると、漆黒の髪と目を持つ自分が移る。有紗はその自分の姿すら違和感しか持たない。
「…私の髪と目」
この色は、日本という国において普通にどこにでもいる人間の持つ色彩だ。それなのに、有紗には、違和感しか与えない。
「私ってなに?」
毎日、自分が誰なのかわからなくなる。日野 有紗、それは変わりようもないはずなのに、毎日確認してしまう。
「有紗。朝だよ」
自分とうり二つの双子の姉・清香が顔を出す。
「うん。おはよう」
有紗は短く挨拶を交わすと、今日から転校する制服のセーラー服に腕を通した。
台所に顔を出すと、母親・沙綾が朝食の準備をしていた。まもなく35になるとは感じさせない美貌を誇る彼女は、有紗を見ると優しく微笑んだ。
「有紗ちゃんおはよう。…どうしたの?不安そうな顔をして」
彼女もまた、有紗がこの世界に対して違和感を感じながら生きていることを、初期の段階で気づいていた一人だ。
「不安そうな顔をしてる?そんなはずはないんだけど?」
うつむく私に、沙綾は困ったように笑いながら、目の前に温めた牛乳を置いた。
「大丈夫。そんなに不安にならなくても、あなたのそばには清香ちゃんがいるじゃない。だから、胸を張って、学校行ってきなさい」
「うん」
不安はない訳ではない。でも、このつきまとう違和感は生まれてきてから抱き続けてきたものだ。
有紗は、新しい学校に通うべく、玄関の扉を開けた。