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地球最後の日

作者: プル―1013


地球最後の日

 今日は地球最後の日だ。テレビやラジオ、インターネットでも数年前から話題になっていた。しかし、どうすることもできないらしい。僕らは死ぬしかないのだ。

意外なことに犯罪はそれほど増えなかった。最後とわかっていても良心というものは消えないようで、悪いやつは相変わらず悪かったし、いいやつは相変わらずいいやつのままだ。生活はあまり大きな変化を見せなかった。

 だから僕は今日が来るまでにしておきたいことをすべてやることができた。いきたいところにも行ったし(最後の日が迫るにつれて値段がどんどんと下がっていった)おいしい物もできるだけ食べた。好きだった女性に告白もした。答えはイエスだったが、最後は家族で過ごしたいからと言って去ってからもう一年がたつ。彼女が実家に帰ってからは不定期にメールや電話が来るだけとなった。

 しかし、改めて思うと自分には欲があまりないことに気付かされる。お金がほしい。僕はそんなコトばかり言っていたのだが、その先のことは考えていなかった。お金があればそれで幸せだったのだ。お金こそが幸せの計りになっていた。

地球最後の日。僕は公園でギターを弾いていた。ちょうど彼女と会わなくなったあたりから毎日こうして過ごしている。僕の他にも何人か楽器を持って歌っている人がいて、自作曲や他人の曲など各々好きな曲を歌っていた。

「やっぱり最後の日はあまり人がいないね」

 そう話しかけてきたのは、僕がここに来る前からずっとギターを弾いているTさんだ。ここで歌っているうちに時々飲みに行くくらいの仲になった。

「みんな自分の家で過ごすんでしょうね」

「そうだろうな」

 最初は誰も信じてなんていなかった。むしろ馬鹿にしていた。地球が滅ぶわけがないし、これまでだってそんな噂は毎年のように出てたじゃないか。そう言って、いつものような生活を送っていた。

そんなある朝、速報が流れる。世界中のトップが同時に地球最後の日まで悔いのないように過ごすようにというコメントを発したということだった。テレビは一斉に画面を切り替え、二十四時間それについてああでもないこうでもないと分けのわからない大学教授が話し合った。

「これが本当かどうかはわからないが、俺の家族がいなくなったことは紛れも無い事実なんだ。家族に会えないなら地球に悔いなんてないよ」とYさんが嘆いた。

「まぁ、もうすぐ終わりますよ」

「君の彼女もいなくなったんだろ? 」

「たぶん、死んだんじゃないでしょうか。ちょうど先月から連絡が途絶えました」

 ちょうど一ヶ月前、突然町内放送が流れた。

「現在、全世界で女性と十八歳以下の子どもが相次いで亡くなっているという情報が入っています。地球滅亡と関係があるとされており、安全のため避難をしていただかなくてはいけなくなりました」

 それからはあっという間だった。がたいのいい男が家の中に入ってきて、女と子どもをさらって行った。なぜかそのことについて抗議が起こることもなく、それが当たり前だったかのように残った人々は生活を続けた。

「俺な、その時そいつに触ったんだよ。そしたら、皮膚が動いたんだ」

「皮膚が? 」

「そう。たぶん、アイツらは人間じゃない。宇宙人かなんかなんだよ」

「宇宙人…… 」

 なにかが頭の中に引っかかっている。なにかが思い出されようとしている。

「そういえば、Yさんなんか痩せましたね」

「ああ、三日くらい前から食欲が無いんだ。最後くらいうまいもんでも食いたかったんだがな」

 どうしても頭の中の引っ掛かりが取れない。でも考えるのも億劫だ。

「なぁ、なんかおかしくないか? 」とYさん。

「なにがですか」

「全部だよ。最初から。そもそもなんで地球が終わるんだよ。どうやって? 」

 そういえば、どうして地球が終わるんだろう。気にしたこともなかった。

「考えてみろよ、俺の家族は誘拐されたんだ。宇宙人に」

「なに言ってるんですか。誘拐なんて。避難したんですよ」

「君はさっき彼女は死んだって言ったよな。どうして避難してる奴が死ぬんだ」

「それは……。いや、でも」

 なんだかぼーっとしてきた。

「最近なんか食べたか? 」

「ここに来る前に、家にあったスナック菓子をひとつ食べました」

「それだ。人間が生きるために必要なもの。いや、生物が生きるために必要なもの。食べ物なんだ。やつら宇宙人がこの世のすべての食べ物に薬を混ぜたんだ。もしかしたら空気中に散布したのかもしれん」

「何を馬鹿なことを言ってるんですか。今日で地球は終わります。絶対に」

「いいか、俺は思い出したんだ。俺はお前の会社で上司だった。薬品会社だ」

「いえ、私は車関係の会社に勤めてました」

「じゃあ、なんていう会社でどんな仕事をしてた」

 そう言われると出てこない。おかしい、つい最近まで働いていたはずなのに。

「まぁいい。とにかく全部話そう」


 地球最後の日という話が世に出る前、僕とYさんはある薬品を作っていた。世界を変える薬品だ。

「この薬は、人間の記憶を好きなように改変できるんだ」

「そうですね。これがうまくいけばいいんですが」

 Yさんと僕はその薬を平和利用のために制作していた。紛争地域に使用し、人々の記憶を改変する。そうすることで戦争を減らそうと考えたのだ。

「これは、国からの要請で作られたものだ。もしかしたら何か裏があるのかもしれない。普通は禁止されている人体実験も初期の段階から許された」

「確かに。これが悪用されたら、大変なことになります。しかし、逆らえば…… 」

「だから、俺たちはこの薬で手に入れたお金でこの薬が無効になる薬を開発するんだ。もし悪用されたら、それが地球全体に分布されるようにするんだ」

 なんとか薬品を開発し、国に売った。大金を手に入れたYさんと僕は国に完成祝いパーティーに誘われ、そこで豪華な食事をした。


「その食事に、俺達の作った薬が入ってたんだよ」

「この研究すべてを忘れさせ、違う会社に就職していることにされたってことですか」

「そうだ」

「そういえば、なんとなくそんな気がしてきました」

 ふと、時計を見るとあと一分で今日が終わることに気がつく。

「やっぱり、嘘だったんですかね。地球滅亡なんて。あと一分で十二時です」

 僕は静かに時計を見つめた。秒針がゆっくりと一周を終えようとしていた。

十二時になった瞬間、目の前が光に包まれた。強いライトを当てられているらしい。

「実験終了だ」

 どこからか声が聴こえる。スピーカーからのようだ。

「どういうことですか。教えてください」僕は叫んだ。

「いいだろう。教えてやろう。これは人体実験だ。ある薬を開発しているんだが、ちょいと特殊な薬でな。脳に様々な記憶を埋め込むことができるんだ。今回は最終実験ということもあって大規模なものだった。地球最後の日という記憶を埋め込み、行動を監視した」

「じゃあ、Yさんの話はなんだったんですか」

「Yさんか。そんなやつはいない」

「何をばかな」

 見ると、確かにとなりにいたYさんがいない。さっきまでの話はなんだったんだ。

「Yさんも君の記憶に過ぎない。間接的に実験のことを伝え、記憶が戻らないことを確認した。それと君はここに二時間しかいない」

「そんな……」

「ここもただの部屋だ。すべて君の脳内で作られたものなんだ」

 僕はただの四畳半の狭い部屋にいることに気づく。公園なんかどこにもなかった。

「じゃあ、僕は誰なんですか。どこからが本当なんですか」

「君は死刑囚。彼女と会社の上司、その家族を殺し、明日死刑が執行される。今日は地球最後の日ではなかったが、君の最後の日だ。悔いのないようにすごせ」





 二人の会話

「この男、このやりとりが二百回続いていることもわかっていない。すごい薬ですね」

「でも、今回は宇宙人という言葉を聞いたとき、この男の脳に反応があった。それと、ギターを弾いていたYさんという記憶もこちらで設定したものではない」

「記憶が戻りつつあるということですか」

「そうかもしれん。我々の奴隷にするにはもう少し実験を重ねる必要があるようだな。次の設定は……」

かなり星新一さんの影響を受けて書いた作品です。

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