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しあわせ荘の日常  作者: 五月蓬
第一部『春、しあわせ荘のひとびと』
9/48

その9 『真のしあわせ荘暮らし(春)』

☆注意☆

この物語はフィクションですよ!実際の東京はこんな場所じゃないですから間に受けないでね♪





 真がしあわせ荘にやってきて数日が経った。


 初めての東京。初めての妖怪との接触。慣れない環境かと思いきや、馴染むのはそう難しくなかったらしい。


 真の朝は早い。


「ふう」


 朝六時、真起床。

 昔から『夜はあの世の時間』ということを無意識に学びながら生きてきた真は完全朝方の人間である。日が昇っている内は、この世の人間がのさばっているのだから、日が沈めばあの世の住人が羽を広げる。それが当然だと真は信じて疑わない。

 真っ先に洗面所へと向かい、朝の恒例行事。


 歯を磨き、さっぱりと顔も洗う。僅かに残った眠気を洗い流し、次は玄関に向かう。

 朝の日差しを直接浴びて、初めて真は完全に目を覚ますのだ。


「はぁ。今日もいい天気だな」

『だなぁ』


 背後霊、でなく守護霊のヒカルも同様に起床する。基本的には真を守護する守護霊なので、彼も生活リズムは真と同じである。というより、真からそう離れられないので合わせざるを得ないのが実状である。お陰で真は守護霊が他所の女の子にちょっかいをかけにいくのを見張る必要もなく、安眠することが出来るのだ。


 二階から下を見下ろすと、真もすっかり慣れた小さい姿。


「おはようございます、きっこさん」

「え? あ、おはよう真くん。相変わらず早いですねー」


 庭先で花壇に水をやる子供……でなく三十路の管理人さん、きっこさん。きっこさんは毎朝この時間帯から花壇に水をやるのが日課なようで。得体の知れない花を毎日パジャマ姿で眺めながらほっこりしている。

 挨拶を済ませると、きっこさんは再び花壇に夢中になる。その頃、タイミングよく下の方で扉が開くがちゃりという音。大体いつもと同じくらいのタイミングだ。


「おはようございます、雪江さん」

「あら、おはよう。真くんも相変わらず早いのね。隣の無職にも見習って欲しいわ」


 雪江さんも毎朝このくらいの時間に家を出る。

 ちなみに、隣の無職のリンさんは現在も就寝中である。

 まだまだ登場はこの先、起床は昼を過ぎた頃だである。酷いときには夕方くらいかも。

 ふんと鼻を鳴らして嘲笑ひとつ、雪江さんはすぐに普段の落ち着いた笑顔に戻り、真を見上げて手を軽く振る。「行ってきます」の一言に「いってらっしゃい」と返す真。ちなみに後ろではヒカルも『いってら~』と手を振るが、当然雪江さんには見えていない。

 きっこさんからも見送りを受けて、雪江さんは仕事へ。

 初日の出会いが特徴的過ぎたせいで、真は変な人だと思っていたが、通常時はかなりまともな人(雪女)である。リンさんと恋愛事情が絡まなければ。


「よいしょっと」


 真はもたれ掛かる手すりから離れ、一旦自室へ。朝食の準備に戻る。


 ご飯はもう炊けている。味噌汁は、今日に限ってインスタント。おかずは焼き鮭。どちらかと言うと和食好きの真である。

 ぱぱっとある程度の準備が出来た頃、インターホンがぴんぽんと鳴った。


 これも最早恒例行事。真が受話器を取って応じると、予想通りの女性の声。


『おはよう』

「おはようございます、真白さん。今開けますんで」


 ある意味一番厄介な人(狐)、真白さん。

 迷惑なたかりと思っていたら、案の定。結構な頻度で朝食を食べに来るようになってしまった。実際、話していると悪い人ではないのは分かった。しかし人も食うらしいので、断るに断れない状況である。

 玄関に向かい、扉を開くと既に茶碗にマイ箸をスタンバっている真白さん。相変わらずの巫女服姿である。


「くんくん。成る程。今日は焼き鮭か。よいぞ、よいぞ。わしゃ、お魚大好きじゃ」

「食べてきます?」

「ぬ? ほほ、悪いの」


 とぼけるのも恒例行事である。茶碗と箸を構えて扉の前で待っておきながら、「悪いの」はないだろう。最初から食う気満々である。

 ひとまず真白さんを家に通す。毎度おなじみちゃぶ台に迷わずついて、ちょこんと正座をしながら待つ真白さんに、なるべく早く朝食を持って行く。


「朝に和食なのはぬししかおらんでな。どうしてもここに来てしまうのじゃ」

「昨日うちでトースト食ったでしょう」


 真白さんは別に和食派でもなんでもない。食えりゃそれでいいのである。初日から毎日来ているので、今日から二人分の朝ご飯を真が用意し始めたところである。

 食卓につき、二人揃って「いただきます」のご挨拶。

 真白さんから受け取った茶碗に、持ってきてた炊飯器からご飯をよそる。

 早速がつがつ食べ始める真白さんは、満足げにうんうん頷く。


「うまうま。毎朝きちんと朝食を用意して、感心な若者じゃの」

「今まではどうやって朝食にありついてたんですか?」

「瓜子ときっこの所を回っておったわ。まともに朝食を用意してるのはあの二人くらいだったしの。リンは言わずとも知れておるし、雪江はああ見えて料理はからっきしじゃ」

「そうなんですか。他の人は?」

「ん? シャルルと大かの? あやつらも大概じゃ。料理とかせんよ」

「へえ。ちゃんと食べてるんですかねぇ。それより、なんで他にもごちそうになれる場所があるのにうちに来るんですか」

「ここ最近はぬしのれぱーとりを知るために頻繁に訪ねておるのじゃ」


 食べることに関する話ばっかりである。


 きっちりとご飯を二杯おかわりして、真白さんはようやく部屋を立ち去る。食うのはかなり早い。

 真は食器諸々を片付けて、一息つく。


 高校はまだ始まっていない。まだまだ長期休暇中。色々準備をするつもりだが、焦ることも特にない。

 なので真はここ最近、ちょっとした勉強だったりの他に、この辺りに慣れる為に近所を散歩したり、高校まで歩いてみたりしている。


 今日も支度を調えて、扉の鍵を閉めて家を出る。

 丁度そこで出くわすのが、珍しく髪に飾り気のない瓜子さん。セミロングヘアをそのまま垂らしてお出ましである。


「あ、おはよう」

「ふぁっ!?」


 突然出くわすといつでも驚く。これが天邪鬼の……というより瓜子さんの修正らしい。何故か慌てて髪の毛をぐしぐしと押さえ付け、一言。


「何よっ!?」

「な、何って。おはようって言っただけだけど」

「え? お、おはよう? 私もおはようって言えばいいわけ!?」

「別に強制はしてないけど」

「ふん! そのくらい言ってやるわよ! おはようございますっ!」


 何故かそのまま顔を真っ赤にしながら帰って行った。

 どうにもあの態度には真も慣れない。

 きっこさん曰く、「恥ずかしがり屋なだけですよ~」

 取りあえず、真は特に深く考えずに階段へと向かう。


 ぎぃ。


 一瞬だけ、203号室から扉が開きそうになる音が聞こえる。

 真はいつもそれを気にしながらも、深くは立ち入らない。そういえば、203号室の山越大やまごえまさるくんにはなかなか会っていないような気がする真。

 というより、彼からはどうも避けられているような気がする。

 まあ、彼も妖怪のようだし、何か特別な事情があるのだろうと真はその点については気にしない。避けられようと、結構細かいことは気にしないタイプなのである。


 かつかつ階段を降りて、「お散歩ですか~」と箒を走らせながら尋ねるきっこさんに軽い挨拶をひとつ。真は散歩に出かける。


 ある程度慣れた、東京の景色に、真は今日も踏み出した。





今回は新しい登場人物はなし。203号室の少年はもう少し後に登場予定。


真の何気ない新生活が今回のお話。結構妖怪アパートでの生活にも慣れ始めています。




次回もちょっぴり視点を変えた、しあわせ荘の何気ない日常をお送りします。一応主人公は真ですが、他の住人にもスポットが当たるかも?

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