その46.5 『襲来! 過去からの刺客!』
次回以降の繋ぎ回。
金色の髪を靡かせて、黒いマントを翻し、黒い日傘を差した少女が通る。
透き通るような白い肌、すらりとした抜群のスタイル。
その浮き世離れした美しさに、擦れ違う人々全てが思わず振り返った。
細めた瞼から除く血のように赤いルビーを思わせる瞳が、その視線を疎ましそうに受け流す。
「……ふん」
「随分とご機嫌斜めだね。懐かしの再会が差し迫っているってのに」
少女の背後から歩いてくる黒いスーツの男が、大きなトラベルバッグをガラガラと引きながら少女に声をかける。周りからすれば異国語であるその言葉に対して、同じ国の言葉で少女は答えた。
「当然です。このような低俗な島国に足を踏み入れているのです。汚らわしい」
「まぁまぁお嬢様。そうかっかしなさんな。前日まではあんなに楽しそうに準備してたじゃないですか」
「していませんし。冗談よせし。マジざけんなし」
「お嬢様、動揺してる動揺してる。言葉使い言葉使い」
おほん、と静かに咳払いし、少女が振り向くことなく後ろに手を伸ばす。
「ぎゃあ」
間抜けな悲鳴を上げて、男がぼんと数匹の蝙蝠に変わった。
数匹の蝙蝠がトラベルバッグの取っ手に纏わり付いたまま、ぐぐぐと少女に寄っていく。そして少女の手に取っ手を収めると、黒い日傘の影にばさばさと潜り込んでいく。
「酷いですよお嬢様。変化を解くなんて」
「黙りなさい。耳障りです。あなたは道だけ案内すれば良い」
「はいはい。少しは落ち着きましたか。でも、すぐに向かう訳ではありませんよ。土地の主に挨拶しないと。人間は違い、我々は無遠慮に他所の土地に踏み込むわけには行きませんから」
鬱陶しそうに少女は唇の端をつり上げた。
鋭い針のような牙が覗く。
「……とっとと済ませます」
「はいお嬢様。では、そこの道を右に曲がって下さい」
曲がり角を曲がるとき、少女は別の少女と擦れ違う。
何事もなかったかのように通り過ぎた二人だったが、金髪少女は足を止めた。
既に曲がり角に消えていったもう一人の黒髪の少女。
ほんの少しだけ、『自分と似たにおい』を感じて、金髪少女は眉をひそめた。
「……気のせいか」
金髪少女は再び歩き出す。
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曲がり角を曲がり、足を止めた大きなリュックを背負う黒髪少女は、手にしたメモから視線を離し、後ろを振り返った。
「……綺麗な子だったなぁ。それに、土地の主様にご挨拶しないといけないなんて初耳。困ったなぁ、どうしよう。ただでさえ迷子になってるっていうのに」
きょろきょろと周囲を見渡し、少女は考え込む。
「土地の主様の挨拶は、まぁ後で瓜ちゃんに聞けばいっかぁ……まずは瓜ちゃんち探さないと。うー……『しあわせ荘』ってどこなのぉ……地図はほんと駄目だよぉ……」
泣きそうな声で少女は再び歩き出す。
そしてそのまま耳を澄まし、潤む目を閉じた。
「ううう……何か良い声……何か良い声……あっ……」
澄ました耳に何か声がはいった様子で、少女は突然明後日の方向を振り返った。
そこにいるのはにこやかに奥様方と井戸端会議に乗じる、エコバッグをぶら下げた小さな女の子がいた。
耳を澄ませて、少女は聞く。
そして、一気に頬を安堵に緩ませた。
「良かったぁ……しあわせ荘に住んでる子かな? お使い中なのかな? なんにせよこれでやっと会える……!」
少女は小さな女の子に駆け寄る。
すると、小さな女の子は少女に気付いて、明るい笑顔で挨拶した。
「こんにちは!」
「こんにちは」
そして、少女は名を名乗る。
「はじめまして。私、覚正耶麻子って言います」
聞き慣れない名に首を傾げる小さな女の子に、続けて少女、覚正耶麻子は用件を告げた。
「天野瓜子さんに会いに来ました」
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過去からやってきた懐かしき人。
それはあともう一人。
駅に降り立ち、少女は大きな麦わら帽子を押さえながら「っは~」と大きく息を吐いた。
「疲れたっ! ようやく窮屈な電車ともおさらばだよっ! この開放感、言うなれば……」
きらんと目を光らせ、少女はニヤリと笑ってキメ顔で言う。
「春の訪れ芽吹き時、恋の決まり手上手投げ、ってところかなっ!」
何言ってるんだこいつ、という目で見る周囲の人々。
そんな視線などお構いなしに、少女はキャリーバッグを引き、目的の土地に踏み行った。
「夏休みっ! 真は元気にやってるかなっ!? 友達百人できたかなっ!? うーん、会うのが楽しみっ!」
謎多き人間・遠野真を知る数少ない人間。
ひっそり、というより騒がしく来襲した彼女が夏に巻き起こす波乱とは?
一夏限りの来訪者。
しあわせ荘に迫り来る?
ちょっぴり怪しい三人がしあわせ荘にやってくるようです。