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しあわせ荘の日常  作者: 五月蓬
第三部『夏、おもいおもいで』
46/48

その46 『人間・遠野真の謎! その2』

前回からの続き




 謎多き高校生・遠野真。

 彼の日常とは如何なるものか。


 そんな禁断の謎に挑むのは、この面子。


 クラスメートの清湖萌、佐々木忠、原石ゆうこに貧乏神金欠。同じアパートの寄生虫……ではなく、住人の地縛霊のレイさん、そして鬼火の鬼灯リンさんである。


 そう! 真っ昼間から高校生を尾行する程、大人は暇じゃないのだ!


「暇なのおりんさん?」

「やめろきよし……聞いちゃいけない」

「おう、高校生二人。無遠慮な質問と変な気遣いはやめろや」


 リンさんは暇なのである!

 ちなみに、大は部活があり、魂はさほど興味がないという事で帰った。

 仕事があるので他の大人たちは当然参加できない。


「何が悲しくて平日の朝からまこっちゃん尾行してるんだろう」

「やめてチュウ。虚しくなるから」


 此処まで来たら引けない、という謎のプライドで、割とこの微妙なイベントを始めてしまった事を後悔している者が大半の中、ぐだぐだと暇な尾行が始まった。

 

 真は特に誰かと約束がなければ、普段ふらりと外に出る。

 何が目的で外を歩いているのか、誰も知らない。

 彼が歩いてきたのは、近所の公園。

 ブランコにゆっくりと歩み寄っていく。


「お、ブランコに乗るみたい」

「そういえばきっこさんがブランコが上手って言ってましたよね。一体どんな技を……!?」


 レイが一人ウッキウキで様子を眺める。正直どうでもいい、とその他全員。

 ブランコにゆっくりと腰掛けた真。

 そして……


「…………漕がないのかよ!」


 思わずリンさんも突っ込む。

 真は座ったと思ったらそのままぼんやりと空を眺め始めた。

 何やってるんだろう、としばらく眺めていても何もしない。ただ、ブランコで黄昏れている。


「と、遠野くん暇なのかな……」

「……遊びに誘った方がいいのかな」


 ゆうこと金欠が何だか気の毒そうに見ている。

 休みの朝から公園のブランコに腰掛けて黄昏れる。アレは果たして高校生なのか。くたびれたおじさんとかではないのか。

 段々とみんな真が心配になってきた頃、ようやく真は立ち上がった。


「お、移動するぞ」

「追い掛けましょう!」


 相変わらずテンション高めのレイ。何だか見てはいけないものを見ているような気がしてきて、テンションが下がってきているゆうこと金欠と忠。普通に飽きてきた萌。

 そして、真っ昼間から高校生に混じって何やってるんだ。とか考えると虚無に囚われそうなので、何も考えないようにして一応ついていくリンさん。


 続いて真が移動したのは商店街。

 真は一軒のお肉屋さんの前で立ち止まった。


「あ! あそこ! 肉のまるきゅう! あそこのコロッケが美味しいんですよ!」


 最近、きっこさんとのお出かけが多いため、何かとご近所事情に詳しいレイ。へぇ、と興味深そうに、既に真よりもコロッケに惹かれている一同。


「真さんもコロッケ買うんですかね?」


 真は意味深な表情で店先を見ている。

 そして、再び歩き出した。


「何今の」


 萌の真顔の質問に、誰も答えられない。

 本当に何故立ち止まったのか。そして、そのまま彼は何処に行くのか。

 レイがすぐさま飛び出していった。


「よし、後を追いましょう!」


 しかし、返事がない。

 レイが「ん?」と後ろを振り向く。


「あー! お財布忘れた! 誰かお金貸して!」

「後でちゃんと返してね」

「金ちゃんサンキュー! ヘイ美人さんヘイヘイ!」


 肉屋に張り付いている萌と金欠。

 どうやら真への興味よりも、完全に食欲が勝っているらしい。


「ちょ、ちょっとちょっと! そんな事してたら真さんを見失っちゃ……」

「おう金欠! 私にも金貸せや!」

「えぇ……リンさん前に貸したお金も返してくれてないじゃないですか……」

「まぁ、固いこと言うなよ!」

「もう……前のも含めて絶対返して下さいよ!」


 後輩にお金を借りている駄目な大人リンさん。

 コロッケ買う気満々である。

 既にほくほく顔でコロッケを堪能している萌に続き、リンさんもコロッケの魔の手に落ちた。

 そして、ナチュラルにお金を貸した流れから、財布から小銭を取り出し自身もコロッケを購入する金欠。

 三人目の犠牲者である。


「ちょ、ちょっと! 何して……」


 レイが残る真面目そうな二人の方を向けば、時既に遅し。


「……美味い!」

「うぅ……間食は控えないとなのに……」


 既に犠牲者は五人だった。

 普通に味わっている忠と、自己嫌悪に陥りながらもしっかり食すゆうこ。

 レイを除き全滅。レイは戦慄した。


「わ、私は諦めませんよ! 私だけでも真さんの謎を解き明かしてやる!」


 既に真の姿は見えなくなっていたが、地面を蹴って、レイが飛ぶ!

 地縛霊のレイは、宙に浮かぶ事ができるのだ!

 空を飛んで、真を上空から探すレイ。何とか離れた位置に歩く真の後ろ姿が見えた。


「見つけた!」


 今のところ真の謎が分かるどころか謎が増え続けている。

 このまま終わっては、本当に貴重な時間を意味不明な散歩に費したことになってしまう!

 真はどうやら商店街を抜けた後、道を曲がって駅の方向に向かって歩いているらしい。

 ばれないように、後方に身体を降ろして、身体をすっと透き通らせて(こんな事もできる)、レイが木陰に身を潜ませる。


「ここで私が尾行をやめたら、真さんが割と誰にも興味を持たれない、どうでも良い感じの人になってしまうんです!」

「誰がどうでも良い感じの人だって?」

「真さんに決まってるじゃないですか、真さん!」


 背後に真が立っていた。


「殺される!」

「物騒な事言うな」


 尾行がばれた。真がいつの間にか、隠れていたレイの背後を取っている。

 絶対に怒られる、と思い身構えたレイだったが、真は意外と気にした様子はない。


「何で後を付けてた?」

「え? いや、真さんの謎を解こうと……」

「謎ってなんだよ。聞きたいことあるなら直接聞けよ。みんなして暇だな」


 みんな、という辺りしっかり他の五人も尾行していた事がばれているらしい。

 どうして気付くんだろう、と驚くのは一瞬で、すぐさまレイは真の言葉を聞き返した。


「直接聞けって、聞いたら答えてくれるんですか?」

「答えられることなら」

「真さんは何者ですか!?」

「……哲学的な質問か?」

「え? いや、哲学とかそういうのじゃないです。私が知りたいのは……あれ?」


 そこでレイがふと気付く。


「……さして、聞きたいこともありませんでした」

「……何だそれ」


 呆れた様子で真が溜め息をつき、レイに背を向け歩き出した。

 おっ、とレイが後を追う。


「何処行くんですか? そういえばさっきから公園で止まったり、肉屋の前で止まったり何してるんですか?」

「時間潰してた」

「何かこの後用事があるんですか?」

「ああ。ちょっとな」

「お供しますよ」

「やめとけ、危ないから」

「危ない事するんですか?」

「いや。お前にとっては危ないかも知れないけど」

「やっぱり危ない事なんじゃないですか。お供しますって」


 はぁ、と再び深く溜め息つく真。


「ならいいけど。結構お節介なんだなお前」

「私は世話焼きですからね! ぼっちの真さんを放っておくような非情な真似はしませんよ!」

「ぼっちは余計だ悪霊」


 そして、ふと思い出したように呟いた。


「……なんか、やっぱり似てるんだよな。騒がしいところとか、やたらと絡んでくるところとか」

「似てる? 誰にです?」

「……いや、やっぱり何でもない」

「誰にです!? なんの話です!? 勘違いでもいいから何勘違いしたのか教えて下さい! ねぇねぇ、ねぇねぇ、ねぇねぇ!」

「ああ、もううっさい! 成仏さすぞ!」

「へっへ~ん! できませーん! 今まで幾度となく除霊攻撃に耐えてきましたからね! どうやら私の未練は半端じゃないみたいです!」

「どんだけ北京ダックに執着してるんだ」

「北京ダック? なんです、それ?」

「……お前、マジか」


 最早最初の登場時の事も覚えていない様子の地縛霊。

 色んな意味で驚愕しながら真は思わずレイの方を振り向いた。


「そんな事より! 誰に似てるんです!? 誰に似てるんです!?」

「……言うんじゃなかった。でも、本当に似てる。今確信した。その野次馬根性も、重要な事を平気で忘れる辺りも」


 観念したように真は言った。


「……俺の幼馴染」

「……幼馴染?」


 キラン、とレイの目が光った。


「どんな子です!?」

「うるさい。しつこい。面倒臭い。あと、言ってる事が意味不明」

「悪口ばっかり!? そんなのと同類にされてるんですか、私!?」

「割とそうだろ実際」

「ひどい! どうして私にばっかり真さんは辛辣なんですか! 瓜子さんとか、他の人にはあんなに外面いいのに! ……ん? 私にばっかり?」


 何かを察した様にレイが黙る。

 あ、これは面倒臭いと察した真が嫌な顔をした。


「もしかして、真さん、私の事好きなんですか!?」

「別にお前にだけ辛辣じゃないだろ。相応の扱いしてるだけだ」

「もう、照れちゃって! なんだ、そうだったんですか! うふ、うふふふふ!」

「……一発記憶飛ばすか」

「だいじょーぶだいじょーぶ! 怯えなくてもだいじょーぶですよ!」


 グーパンチが迫っていることにも気付かずに、天を仰いでレイが誇らしげに言う。


「私も真さんの事好きですから!」


 ぴたりと、寸前で拳が止まる。

 思わぬ一言。

 流石の真も驚愕したらしい。

 しばらく目をぱちくりさせて、拳を下ろす。


 純粋な好意の言葉。

 どう扱ってよいものか。真も流石に困り果てる。

 どんな表情をしていたのだろう。

 真が逸らした顔をレイに戻すと、レイが既に真の方を向いていた。

 そして、本当に、本当に申し訳なさそうに眉をハの字に垂らして、手を合わせていた。


「まぁ、恋愛対象とは見れませんが。ごめんなさい」


 収めた拳の代わりに、ダイナミックなドロップキックが飛び出した。





上から目線は基本。

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