その45 『人間・遠野真の謎! その1』
遂に来た主人公回。
しあわせ荘の104号室に集められた一風変わった顔ぶれ。
ぎゅうぎゅう詰めの一室で、夜子さんは静かに話を切り出した。
「今日、皆様にお集まりいただいたのは他でもありません。相談したい事があるのです」
夜子さんが、ごくりと息を呑み、本日の主題を切り出した。
「遠野さんって、何者なんです?」
まず手を上げたのは、座敷童子のきっこさん。
「人間さんですよー」
すると今度は薔薇蔵さんが手を上げた。
「にしては怖くないか? 私、真くん大好きだが、一方でめっちゃ怖いんだが」
夜子さんが同調したように何度も頷く。
「そう、怖いんです。普段は穏やかなんですけど、時折鬼に見えるんです。本当にあれは人間なんでしょうか?」
結構失礼な事を言っているが、むん、と唸ってリンさんが顎をさすった。
「確かに。私は割とアイツのこと知らないな」
うーん、と今度は雪江さん。
「言われてみれば、私も真くんの事そこまで知らないかも。いや、良い子だとは思ってるんだけど」
雪江さんの言葉にはその場にいた全員が納得したようである。
彼ら彼女らは、実は遠野真の事をそこまで知らない。
彼は結構謎の多い人間なのである。
「そこで、今日は彼の情報を出し合って、彼を知る会を開こうと思いました。司会は私、夜子婦人でお送りします」
今更聞けない事もある。
今日はしあわせ荘の住人、プラスエトセトラによる遠野真というキャラを知る会なのである。
「はい。皆さんには順番に、遠野さんの情報を出していって貰おうと思います。事前にお渡ししたメモに、彼について知っている情報を書いて戴けましたか」
「はーい」
テーブルにぞろぞろと紙を並べていく住人達。
それをにょろにょろと黒い蛇を伸ばして集めて、夜子さんがばっと開いた大きな紙につらつらと文字を書いていく。そして、意外に早く全てを書き終え、ばっとテーブルにそれを広げた。
「わっ、達筆!」
きっこさんの賞賛にえへへ、と照れる夜子さん。割と手先も器用らしい。
それはともかく、住人達は興味深そうに揃って紙を覗き込んだ。
・呪いとかかけてくる。怖い。良いお尻。(薔薇蔵)
・怖い(夜子)
・つよい。怖い。でも、割と好き。(レイ)
・なんでもできそう(金欠)
・多分あれは鬼の類い。天然ジゴロ。(魂)
・霊感が強い。拝み屋の家系ではないか。(ゆうこ)
・飯が美味い(真白)
・エグイ(萌)
・割とモテる(忠)
・私を舐めてる(リン)
・人当たりが良いイメージ。時折性格が別人の変わるような感じがする?(雪江)
・良い人(大)
・ブランコがじょうず(きっこ)
・オンミョウジ(シャルル)
「多いな!」
「知ってる顔に声をかけましたので。ただ、天野さんには私、嫌われてますので逃げられちゃいました」
およよ、と泣き真似夜子さん。リアクションが面白いからといって、事あるごとに脅かしているせいで、瓜子さんには嫌われている。その他の知り合いは大体部屋に集めている。
「呪いってなんだよ薔薇蔵」
「知らないのかリン。真くん、呪いとかかけてくるぞ。最初は足の小指をタンスに必ず打ち付ける呪いで、最近は風が吹く度目にゴミが入る呪いもかけられた。もしかしたらお前が駄目人間なのも……」
「お前の頭がおかしいのも呪いのせいなのか」
そのいち。遠野真は呪いをかけてくる。
割と馬が合わないリンさんと薔薇蔵さんが取っ組み合いを始めているのを無視して、雪江さんが怪訝な表情を見せる。
「『怖い』がやたら多くない? 怖いかな?」
「そりゃ怖いですよ! 出会い頭に顔面パンチしてくるんですよ!」
「私は出会い頭にアームロックかけられました……」
「私は便器に叩き込まれた!」
「うん、素行に問題ある人はそうなるのね」
レイ、夜子さん、薔薇蔵さんをさらっと見渡し、納得したように雪江さんも頷いた。
エグイ、とか書いてる人間・清湖萌(何故か既にしあわせ荘の住人に馴染んでいる)も、早くも『素行に問題のある人』と認識されているため、まず間違いないだろうと全員が頷く。
そのに。遠野真は素行に問題のある人間には台風並に風当たりが強い。
雪江さんは続けて、おっ、と気になる一文を拾い出す。
「真くんモテるの? えっと……忠くんだっけ?」
「はい、割とモテますよ。ウチのクラスは変なのばっかりなんであんまりですけど、他所のクラスでは結構人気とか。なんか、なんでもできるし、人当たり良いし、成績とかも確か上位だったっけ」
「そうだよね。私も書いたけど、びっくりするくらいなんでもできるよね。運動でも勉強でも」
「まこちん料理もできるん!? まっしろさん!?」
「うむ。なかなか美味いぞ真の料理は」
大きいのに肩身が狭そうに縮こまっている大が、さりげなく忠が言った「変なのばっかり」という一言を聞いて、真のクラスメートらしい女子四人から距離を取った。
気付いていないあたり、自覚がありそうな。
そのさん。遠野真はなんでもできて割とモテる。
「私の事を舐めてる」
「それはみんなだから安心しろ」
またリンさんと薔薇蔵さんが取っ組み合いを始める。
バカ二人は放っておいて、という感じで違う意見を見始めるその他。
自分も話に入りたい、と「はいはい!」と手を上げるきっこさん。
「真くんはブランコがじょうずなんですよ! びゅーってやって、ぐおーんってやって、ぐるぐるーってやって!」
「うわあああああああああ! きっこさん可愛いよぉぉぉ! なでなでなでなで!」
「ヤバイ! きよしを止めろ!」
比較的真面目な金欠と忠で、歯止めがきかなくなって、愛玩動物のようにきっこさんを抱え込みに掛かる萌を止めに入る。
割と非情な……ではなく、変人に囲まれる事になれたゆうこが、普通に非情な魂に尋ねた。
「『鬼の類い』って何さ魂ちゃん。天然ジゴロは若干分かるけど」
「……アレは、ちょっとおかしい。近付くと私の使い魔が怯える」
「え、使い魔ってなに? 魂ちゃんそんなの持ってるの?」
「……それよりゆうこ……まだ『見えちゃう系』キャラ引っ張るんだ……」
「別にキャラ付けでやってるわけじゃないよ! 信じて貰わなくて結構ですぅ! ……ただ、『見えてる』と思うんだよね。何となく、だけど。あ、ほら! シャルルさんが『陰陽師』って!」
突然、ゆうこに話を振られたシャルルが、待ってましたと浴衣の袖を捲り上げる。
良いとこ見せたる!
そんな気合いを入れて話し出す。
「ハーイ! マコト、この前御札持ってたネ! 何だか虚空に向かって放している事もありマスシ、絶対陰陽師デス!」
「……ん? そういや……アイツの部屋物色した時に、確か心霊写真があったような」
薔薇蔵さんとの取っ組み合いをやめて、リンさんが話に入ってくる。
すると今度は思い当たる節があるようにレイが「あっ」と声を漏らした。
「そう言えば、地縛霊の私を見た時もそれ程驚かなかったような……まるで慣れてるみたいに対処されましたし……」
「私もです! 少なからず人間は私を見るとびっくりするのに、遠野さんは全く反応しませんでした!」
夜子さんの言葉に、薔薇蔵さんもハッとする。
「そう言えば、私の書いた『良い尻』に誰も反応してないんだが」
「もうお前黙ってろ」
ハッとしただけで全然関係無かった。
そのよん。遠野真は『見えない何か』が見えている?
そのご。遠野真は良いし……それは要らない。
「しっかし、改めてあいつの事考えてみると、マジで何なんだか分からなくなるな」
「雪江サンの書いてる事が気になりマース! 『時折別人のように』ッテ!」
雪江さんにお近づきになろうと、話を振ってドヤ顔シャルル。
しかし、雪江さんにその想いは届かなかったようで。
「うーん……基本良い子だと思うんだけど。たまーに、雰囲気違うような気がするのよね。この前話した時もなんかこう……普段より軽い感じがしたような……普段はもっと大人しくておっとりした感じの真面目君って印象だったんだけど」
「私にはそんな事ないぞ。やたらと辛辣だ」
「それは真くんに限らずみんなだから当てにならない」
またまたまた取っ組み合うリンさんと薔薇蔵さん。いい加減懲りろ。
「ま、真さんは良い人ですよ!」
大がそこでようやく声を発した。
ざわめいていた一同も、意外な発現者にぴたりと止まる。
まぁ、そうなんだけど。
どうやら全員悪くは思っていない、らしい。
ただ、妙に得体が知れないだけ。
「……一度、探ってみませんか?」
そこで口火を切ったのは、無謀な地縛霊であった。
「真さんの正体を」
どうやら、全員気にはなっているらしい。
誰も否定の言葉を発しない。
少し困惑したように顔を見合わせ、やがてしあわせ荘の住人プラスエトセトラは、静かにこくりと頷いた。
こうして、妖怪と神さま、地縛霊に普通の人間を含めた、ひとつの大きな計画が立ち上がったのである。
『遠野真の正体を探ろう大作戦』。
遂に、謎多き『見えちゃう系男子高校生』の真実が明かされる!
なんやかんやで妖怪達と馴染んでるクラスメートの人間たちには誰も突っ込み無し。
そして、何気に一番謎の多かった主人公、遠野真の謎が明かされる?




