その44 『しあわせ荘の外の日常いろいろ』
ショートショート回
その44.1 『死神のひみつ』
小柄な体躯とどんよりとした目を持つ闇背負う少女、『氏神魂』は『死神』である。
彼女の正体は、実は秘密で、知っているのはごく一部。
その数少ない一人である『見えちゃう系女子』、人間の原石ゆうこはふと気になって魂に尋ねた。
「そういえば、漫画とかでは死神って大分イメージ違うけど、どれが近いの? それともやっぱり全く違うものなの?」
魂が億劫そうにゆうこを見上げた。
「……漫画とか読まないから、どれとか言われても、困る」
そっか、とゆうこ。考えつく限りで、死神要素をあげてみる。
「うーん、たとえば……鎌を持ってるとか、ノートを持ってるとか、刀を持ってるとか……なんかそんな感じ?」
「……間違ってはいない、かも」
魂はぽん、と手に刀を持った。手品のように出現した刀に、ゆうこがわっ、と声を上げる。
「ほい、ほい、ほい」
ぽんぽんと、次から次へと鎌やらノートやらを出していく魂。
最初は驚き目を輝かせたゆうこが次第に困惑していく。
「え? え? ちょ、何コレ」
「死神はノートに名前を書くだけで人を殺せる。そして、鎌とか刀で魂的なものを切り取って殺す事もできる。他にも見るだけで殺すこともできれば、言霊で操り殺す事もできる。死神が人を殺すのに用いるのは、そういった能力や道具じゃない。死神は人を……」
珍しく流暢に喋る魂が結論を溜めると、ごくりとゆうこが息を呑む。
果たして、死神は、何で人を殺すのか?
ドヤ顔で魂は言った。
「ノリで殺す」
「タチが悪い!」
最悪の神さまである。
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その44.2 『青行燈の青安藤さん』
―――『青行燈』。
―――それは百物語の最後に現れるという妖怪である。
―――その青行燈もまた、現代妖怪として社会に溶け込んでいた……
夏休み。
成績不良の真と瓜子のクラスメート、普通……ではない人間、自称『萌の求道者』の『清湖萌』が、ふらりと真の家を訪ねた。
成績不良で補習中である筈の彼女だったが、基本補習は午前中のみのようで、午後には自由になれるとの事である。
「で、なんで来たんだよ」
「実はまこちんに相談があってさ!」
どうせロクな事じゃないと思いつつ、話を聞かなきゃ帰らないので、はいはい、と適当に真は聞く。
「実は、うりりんにキャーキャー言わせたい作戦を考えてて……」
「いや、懲りろよ」
「それで今度、企画してるイベントがあって……」
「いや、聞けよ」
お構いなしに萌が、ドヤ顔で言った。
「その名も……『ドキドキ! 真夏の夜の百物語大会!』」
「待たせたな!」
バン!と真の部屋のドアが勢いよく開かれる!
青い髪をなで上げて、現れた彼は……
青行燈の青安藤さんだ!
「誰!?」
「誰!?」
「百物語と聞いて!」
百話どころか一話を待たずにすぐ登場!
忙しい現代社会の青行燈は、大分せっかちなのである!
ちなみにこの後、青安藤さんは警察のご厄介になった。
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その44.3 『貧乏神の金欠さん』
姓は『貧乏神』、名は『金欠』。
薄幸系少女、貧乏神金欠はその名の通り貧乏神である。
貧乏神とは一概に、不幸をもたらす神ではなく、幸福を司る神でもある。
そんな彼女の家は結構な大きさで、彼女の家に誘われたゆうこは目を丸くした。
「も、もしかして、金ちゃんってお金持ち?」
「……貧乏神一族は、日本経済を裏から牛耳る黒幕だから」
「ちょっと魂ちゃん人聞きの悪い事言わないでよ」
貧乏神一族はお金持ちである。
しかし、そうなると若干気になる事のあるゆうこ。
「でも金ちゃん、確か学校だと結構ボロ……じゃなくて、古い制服を着てるよね?」
普段は繕った後のある古い、というよりボロい制服を着ている金欠。
貧乏神という名の通り、てっきり貧乏なのかと思っていたゆうこ。
魂がたまに金欠を財布扱いしたり、集ろうとするブラックジョーク(ジョークだよね、魂ちゃん?)もあったが、まさか本当にお金持ちだったとは思っていなかったのだ。
うーん、と少し悩ましげに唸って、金欠が口を開いた。
「結構うちの家族倹約家で、持ってる衣類は大体お古だったりするんだ」
「へぇ、そうなんだ」
やはりそういう所に気を使える人が豊かになるものなのかな、と感心してゆうこが頷いた。
すると、にやりと不敵な笑みを浮かべる小さな死神、魂。
「嘘はいけない金ちゃん。金ちゃんがボロを纏う理由は他にあるでしょ」
「た、魂ちゃん?」
金欠が焦る。どうやら話せない理由があるらしい。
聞かれたくない事情があるのか。しかし気になって、ゆうこはそのまま耳を傾けた。
「金ちゃんがボロを待とう理由、それは……」
「魂ちゃん、ちょっと待っ……!」
止めに入ろうとする金欠だったが、時既に遅し。
その慌てぶりから、それは間違いなく真実である事が分かった。
「キャラ付け」
割とどうでもいい理由だった。
しあわせ荘と関係ない人達のお話でした。