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しあわせ荘の日常  作者: 五月蓬
第三部『夏、おもいおもいで』
41/48

その41 『秘密の花園』

後編




 前回までの、しあわせ荘の日常!


 薔薇蔵さんの仕事がやっぱりいかがわしかった。


「いやいや、全くいかがわしくないよ」


 白々しく薔薇蔵さんが首を横に振る。


「男子中学生のコスプレをして、疲れた女性に奉仕するだけのお仕事だよ」

「いかがわしいな」

「失礼だな君は」


 ふう、と額に手を当てやれやれと首を横に振る薔薇蔵さん。

 今は休憩という事で、店の裏側に真と真白さんの二人を入れて、話をしている。

 その所作にいちいちイラッとする。


「いいかい? このお店は合法なんだ。何かそこら辺店長が色々と配慮してるからね」

「胡散臭すぎる……そもそもわざわざ合法と念を押すところが怪しい……」

「君みたいな人が疑うからだよ、全く」


 ふう、と溜め息をつきつつ、薔薇蔵さんはティーカップを運んできた。

 先程お店でも出されたハーブティーである。


「本当に君が思う店じゃないよ。ただ、童顔妖怪ばかり集めて、少年を演じつつ接客するってだけさ。メイド喫茶や執事喫茶ならぬ、『少年喫茶』というやつだ」

「怪しい響きだな」

「いやいや。純粋に子供が好きなお客様が多いよ」


 ソファに足を組んで薔薇蔵さんが座る。

 そして、この上ないドヤ顔で顎に手を添えた。


「そして、私はここでエースを張っている」

「エースって何だ」


 ハッ、と薔薇蔵さんが笑う。


「一番の人気店員という事さ」


 じろりと真が一瞥する。それを鼻で笑って、薔薇蔵さんはにやりと口の端をつり上げる。


「いいかい、真くん。別に怪しいお店じゃなくても、イケメンやら美女がいる店は客が寄ってくるもんなんだ。そしてそういう店員が人気が出るのも当然だろう?」


 何かまともっぽいことを言ってる薔薇蔵さん。


「従業員の私が言うのも何だが値段も良心的だし、アウトラインを越えたお客様との接触も避けている。あくまで普通の喫茶店に、店長が『少年』というスパイスを添えて、お店の個性を生み出しただけさ」


 確かにメニューはかなり安かった。薔薇蔵さんのエセホスト臭い接客があったが、全体的に普通の接客をしつつ、過度に向こうが寄ってくればひらりと躱している節があった。


「それとも何か? 君はきっこさんがお店で働いていたら、通報するのかい?」


 ぐっ、と言い淀む真。

 確かにきっこさんが同じようなシチュエーションで働いていたら犯罪臭がするが、あの人は立派な大人である。真が割と大人として尊敬するきっこさんを出されると、弱いのである。

 ここぞとばかりに薔薇蔵さんは真白さんの方を向いた。


「ねぇ、真白さん」

「うむ。そうじゃな」


 一番高いローストビーフサンドむしゃむしゃ食いながら真白さんが深く頷いた。

 薔薇蔵さんの奢りにより、真白さんは見事に買収されているのである。

 エースというのは割と本当らしく、意外と稼いでいるらしい。

 

「ちなみに、私だったらきっこさんがお店で働いてたら通報する」

「おい」


 それはさておき、と薔薇蔵さんは顎に手を添えフッと笑った。


「どうだい。私も意外と真面目に働いているだろう」

「自分で意外とか言うのか」


 仕事の内容はともかく、薔薇蔵さんは意外とまともに働いている様子だ。

 確かに真も少し驚かされた。

 方法はともかくお客にも喜ばれていたように見えた。


「少し見直した」

「お、面と向かって褒められると照れるな」


 腕を組んで、珍しく言葉通りに照れ臭そうにへへっ、と笑って薔薇蔵さんは視線を右に流した。


「まぁ、言っても私を拾ってくれた店長のお陰なんだがね。見た目ガキのこんなナリでロクな生き方ができなかったから」

「やっぱ苦労するのか」

「するさ。仕事だって見つからずに、長いこと路頭に迷ってた」


 わざとらしい笑みを零さず薔薇蔵さんは言う。


「皮肉なもんさ。子供の姿を持つ妖怪ほど、ひねた大人になりやすい」

「きっこさんはそうは見えないけど」

「彼女が特殊なんだよ。そして、それは素晴らしい事だと思ってる。尊敬してるよ素直に。私もあそこまで真っ直ぐに生きたかった」


 何だか真面目な雰囲気である。

 越戸高校七不思議、『男子トイレの花子さん』。

 ただの変態に見えた彼女だが、根は割と真面目なようかいなのかも知れない。


「男子トイレに隠れてた時点で大分欲望に真っ直ぐだと思うけどな」

「おいおい、真っ直ぐだったら小便器に向かってる男の子の後ろから襲い掛かってるさ」

「最低だな」


 やっぱり最低な妖怪である。 


「失敬。辛気臭い話は嫌いだ。そろそろ私も仕事に戻るよ」

「あ、じゃあ……」


 襟元を正して、Byeと手を一振り薔薇蔵さんが立ち上がる。

 それに合わせて真が立ち上がると、おっとと前に手をだし薔薇蔵さんはフッと笑った。


「店長にも話は通してるから、ゆっくりしてってくれて構わない。真白さんもお食事中だしね」


 気を利かせた対応に、真がきょとんと立ち尽くす。


「……やっぱお前、照れ隠しに悪ぶってるだけだろ?」

「そう思うならそうなんじゃないかな? 君の中ではね」


 少し顔を伏せて、薔薇蔵さんは歩き出す。

 表情は覗えないが、声が少し高い……気がする。

 やっぱり照れ隠し……なのだろうか?

 薔薇蔵さんが擦れ違う時、真は思わず苦笑した。


 さわっ。


 そして一瞬で表情が変わった。





「照れ隠しだから。今のも照れ隠しだから」

「黙れ」


 照れ隠しでもセクハラは許されないのである。

 鬼の形相の真に壁際まで追い詰められた薔薇蔵さんは、彼の怒りが収まらないと察して、フッ、と苦笑した。


「……分かったよ。分かった。私もマゾヒストじゃないが、君の制裁を受け入れるよ。ただ、ひとつだけお願いがある」

「言ってみろ」


 薔薇蔵さんは頬に手を当て、ふうと息をついた。

 さらっと髪をなで上げ、気障ったらしい笑みを浮かべる。


「顔はやめてくれ。商売道具だ」


 それはそれはイラッとくる表情であった。




 しかし、真も鬼ではないので、一週間タンスの角に小指を打ち続ける呪いをかけるだけで勘弁してやった。





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