その39 『吸血鬼、頑張(からまわ)り物語』
前話からの続き
真(INヒカル)曰く。
「今回プリンを差し入れてお礼をしたのは俺だ。本来なら一番お礼しなければいけないお前が何もしていない」
そして、本題。
「お礼と称して雪江を映画に誘え。つまり、デートだ」
「そ、そんな事が可能なのか!?」
真(INヒカル)が頷く。
「前に真……じゃなく、俺と瓜子、その他大勢で映画を見に行ってな。瓜子がはしゃいで話してたのを聞いた雪江が、自分も映画見に行きたいかもと言ってたんだよ。部屋を見て確信した。雪江は映画好きだ。誘う口実がある、丁度雪江の気が向いている、そうなったらもう今しかチャンスはねぇだろうがよ」
「そ、そんな事までも布石に……!?」
シャルルの表情に明かりが灯る。
どうやらようやく希望を見出せたようである。
「映画に誘って、その後食事にも誘え。男は甲斐性だ。お前のとっておきの店に案内しろ。そして最後にプレゼントだ。今日、お前が学んだ事を最大限に活かして、雪江を最高に喜ばせてみろ。今日のはその『本番』の為の下準備だ」
「ま、真……貴殿は……そこまで……!」
男と男はがしっと手を取り合った!
「雪江を射止めて見せろよシャルル!」
「……ありがとう……ありがとう……真! 心の友よ!」
ここに、熱い友情が生まれたのである!
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『いや、本当は面白そうだから煽っただけなんだけどな』
「この悪霊め」
物陰からシャルルの様子を窺いながら、真はじろりと背後霊を睨んだ。
そう、別に友情が芽生えた訳ではない。
ヒカルは質が悪い守護霊なのである。
「しっかし、面白そうなイベントだな! こんなの仕込むとか、やるじゃねーの真!」
「そして何であんたがついてきてるのか」
赤いジャージに赤髪揺らす、サンダル一丁鬼火のリンさんである。
物陰から一緒にシャルルの様子を窺っている。
面白そうな匂いを嗅ぎ付けてやってきた妖怪である。
真はというと、話についていけずにヒカルに全て任せたせいで、シャルルが悲惨な目に遭いそうな気がして、心配して見守りに来たのである。
真はシャルルが好きではないが、嫌いでもないので、苛められたらちょっと可哀想だと思うのである。
結局、雪江さんを映画に誘ったシャルルだったが、雪江さんは割と簡単にOKを出した。
だからこうして彼は待っているのだが……
「しかし……」
真はシャルルの姿を改めて見て、ハラハラした。
何故か白いスーツで胸ポケットに薔薇を刺し、髪もバチバチに固めて、いつになくキメている。
キメ過ぎである。
デートとは言ったが、一緒に映画を見に行くくらいなのに、気合い入り過ぎである。
雪江さんが先に用事があるとの事で、駅前で待ち合わせしているのだが、シャルルは二時間前から待っている。
早すぎである。気合いは入り過ぎである。
『しっかし、あいつ気合い入り過ぎだろ……俺でも引くぞ』
「しっかし、あいつ気合い入り過ぎだな……笑いにきたのに若干引くわ」
ヒカルとリンさんも同様の感想である。
雪江さんは果たしてどんなリアクションを見せるのか。
そわそわしながら様子を見張る二人と悪霊一人は、駅から出てきた女に気付いて息を殺す。
雪江さんである。
「ごめんねシャルル君! 待っ……」
オフショルダーのトップスに短めのスカートと、白い肌の目立つ雪江さん。
待ち構えるシャルルの格好を見て凍り付く(雪女だけに)。
あれは引いたな。
真は思わず合掌し、シャルルの冥福を祈った。
「待ってマセーン! さっき来たトコデース!」
エセ外国人の道化を演じている。その格好で。
これは終わったな。真とヒカルがそう確信したその時。
「……あっはは! シャルル君気合い入れすぎ! 何その格好!」
おや、と真とヒカルが顔を見合わせる。
引かれていない。むしろ好感触にも見える。
「え……雪江さん、あれOKなんですか」
雪江さんをよく知るリンさんに聞いてみる。
「あいつ結構懐が深いからな。誰かを嫌な目で見るって事は殆どないと思うぞ」
「リンさん以外は」
「そうそう、私以外は」
ナチュラルに肯定するリンさん。慣れたものである。
「お。移動するぞ。よし、追うぞ!」
リンさんがウキウキで後を追う。
どうやら二人は映画館に向かったらしい。
真がふと気になる。
「リンさん、映画館入れるんですか」
「え。何で」
「お金お金」
「お前馬鹿にすんな。いくら私でもな、映画見るくらいの金は」
ポケットに手を入れて、リンさんが小銭を取り出す。
それをしばらく無言で見つめて、真に手を合わせた。
「……すまん」
「もう帰ってくれませんか」
「後で返す! 後で返すから!」
「……借用書書いて貰いますよ」
「そこまで私は信用ないのか……?」
「はい」
リンさんに映画を見る分のお金を貸して、真はリンさんがついてくると決まった時から用意していた借用書に名前を書かせる。
そして、再び二人を追跡し、映画館に乗り込んだ。
二人の買うチケットを注意深く観察する。
「マジか……」
『マジか……』
「マジか……」
真とヒカルとリンさんが口を揃えて絶句する。
シャルルが選んだ映画は、『無双サムライ伝』という映画である。
血塗れの刀を構えた物々しいごついおっさんがポスターに書かれている。
「シャルルのやつ……完全に自分の趣味に走りやがった……」
『わざわざ好みのジャンルを聞き出したってのに!』
「おいおい大丈夫か……雪江、流血ものとか苦手だぞ……? 前に包丁で指切った時に、血見ただけで貧血で倒れたくらいに」
シャルルのエセ外国人はキャラ作りだが、日本好きは本当なのである!
リンさんの補足情報を聞いて、真とヒカルは戦慄する。
遠目にも雪江さんの顔が青白くなっているのが分かる。
しかし、柔和な笑みを浮かべている(心なしか引き攣って見えるが)。
「雪江さん何で断らないんだ……」
「あいつ付き合いいいからな。嫌だとは言えないタイプなんだよ」
「リンさん以外には?」
「そうそう、私以外には」
慣れたものである。
しかし、本格的にヤバい。
人が良いから雪江さんは笑顔でいるが、シャルルは此処まで駄目要素しか見せられていない。
正直、映画チョイスだけでも帰られてもおかしくないレベルである。
「と、取り敢えず様子見ます?」
「ああ。……あー! ったく、何でこう断れねぇかなあいつ!」
リンさんがハラハラするレベルである。
ひとまず同じ『無双サムライ伝』のチケットを買い、真とリンさんは二人の後をつける。
映画館に入った後も、緊張気味に話すシャルルと、自然な笑みを浮かべる雪江さん。
何を話しているかまでは聞こえないが、遠目からは良い雰囲気に見える。
「リンさん、コーラ買ってきました。ポップコーンも」
「え? あ、おう。悪いな」
珍しくリンさんに気を遣う真。
というのも、笑いに来たというリンさんだったが、さっきからそわそわしていて何だか殺気立っている。
どうやら彼女、雪江さんを心配しているようである。
下手したら飛び込んでいきそうなので、真は気を紛らわせようとしているのだ。
リンさんの隣に腰掛け、真が心中で囁いた。
「おい、ヒカル。何話してた」
『シャルルのサムライ愛トークを、雪江が相づち打ちながら聞いてた』
「最悪だ……」
見えないヒカルを送り込み、会話を盗み聞きした真だったが状況は最悪である。
シャルルの空気の読めなさは、キャラ作りではなくデフォルトのようだ。
ハラハラしながら二人を見る真の視界が暗くなる。
「お、始まるみたいだな。本当に雪江大丈夫だろうな……」
「ま、まぁ、実際見たら面白いかも知れませんよ」
映画が始まった。
真、顔面蒼白である。
取り敢えず血しぶきあげとけばいいや、みたいな内容である。
ふわりと真の傍に飛んできたヒカルが耳打ちした。
『シャルル超ウッキウキで、雪江顔面蒼白で涙目だ』
「もう駄目だ……」
駄目過ぎる、あのエセ外国人。
リンさん、カンカンではないだろうか?
そう思い、真が恐る恐る横を向く。
「うっひょぉぉ……五郎丸カッケー……!」
普通に楽しんでいた。
そんなこんなで疲れる映画鑑賞を終えて、先に外にでたシャルルと雪江を追い掛けて、真とヒカル、リンさんが外に出る。
「いやぁ! 意外と面白かったな!」
「絶対お金返して下さいよ。絶対ですからね」
「おし! 追跡再開だ!」
ウッキウキのリンさんが、先に進む。
ヒカルの仕込み通りであれば、次は二人は食事に向かう筈である。
嫌な予感しかしない。
案の定だった。
リンさんが丼をかっ込みながらぼそりと呟く。
「牛丼とかマジか……あいつら、デートしてるんだよな?」
真に耳打ちするヒカル。
『安くて美味い、とか言ってるぞ』
「アイツ紅ショウガ盛りすぎだろ……肉が見えてないぞ……」
「そういうお前はどれだけ七味かけてんだ」
テーブル席についたシャルルと雪江さんを、カウンター席にサングラスを装着して見張る真とリンさん。
割とがっつり食事しつつ、もうどうでもよくなり始めてたりする。
あの吸血鬼駄目だわ。
「でもリンさん、雪江さんの事悪く言ってるけど、心配してるんですね」
とうとう普通に話し出す始末である。
「あ? 心配なんて……」
「滅茶苦茶挙動不審でしたよ。雪江さんの様子見てる時」
雪江さんと犬猿の仲のリンさん。
てっきり否定するものかと思ったら、湯飲みに口をつけ、少し考える素振りを見せる。
「……いや。あいつ、そこそこ器量よしの癖に、男を見る目が絶望的になくてな。割とモテる癖に駄目男ばっか捕まえるんだよ」
「割とモテそうなのにどうして恋愛関係でナーバスな事が多いのかと思ったらそういうことだったんですか」
「悲恋は雪女の性らしい」
「どんな性ですか」
雪江さんの新事実。
「むしろ駄目な奴を放っておけないみたいでな。そういう奴ばっか構うんだ。それで、あいつ人の面倒見るのがうまくてな。付き合いだすと相手はみるみるうちに更正してくんだよ。この前無職の男をどっかの一流企業に就職するまで持ってったな」
「何それすごい」
「あいつと付き合った男は大体成功するんだよ不思議と」
「リンさん以外は?」
「そうそう」
そこは否定しとけよ。
「んで、成功した男はモテてモテて……それで雪江は飽きられるって訳だ」
「何それ酷い。最低じゃないですかその男」
「そう、そういう最低なのばっか見繕ってくるんだあの馬鹿」
ふっ、と少し物憂げな珍しい表情でリンさんが溜め息。
「見てらんねーんだよな。私でも泣かせらんねぇクソ生意気なあいつがワンワン泣いてんの。だから、目の届く範囲でくらいは、悪い虫は払っとかねーと」
意外なリンさんの一面。
もしかして、リンさんと雪江さんは割と仲良しなのではないか?
「つまり、リンさんは雪江さん泣かせる程は駄目男じゃないって事ですか」
「そうそう。ってオイ。奢りに免じて見過ごして来たがそろそろ聞き流さねぇぞ? 駄目でもないし、男でもないからな」
「え。奢り? 後で返して貰いますよ、牛丼代も」
「……たかだか牛丼じゃねぇか! せこい事言うなよ!」
「特盛りに卵、豚汁まで付けといて何を。たかだか言うならせこい事言わずに払って下さいよ」
割とがっつりリンさんは食っていた。
「しっかし、アレだな。流石の雪江もあそこまで駄目な奴には落とされないだろ。むしろ、私達のほうがデートしてるっぽくね?」
けらけらと笑うリンさん。
ちらりと真を見る。
「そのゴミ見るみたいな目やめろ」
冗談ではない、というスタンスの真。
その目は正直であった。
リンさんは引き攣った笑みで話を切り替える。
「で、でもまぁ、大丈夫だろ。むしろ此処まで滑ってくれたらこっちも安心……」
「あ、移動しますよ」
曇った表情の雪江さん(既に笑顔はない)と満面の笑みのシャルルが店を出る。
普通に割り勘で払ってるように見えたのは気のせいだと思いたい。
『次でとどめだな』
ヒカルがぼそりと呟いた。
ヒカル伝授のデートプランによれば、最後にシャルルがプレゼントをして終了という流れである。
つまり、次でフィニッシュの筈、である。
夕暮れ時、しあわせ荘への帰り道を歩くシャルルと雪江さん。
その二人の背中を遠巻きに眺める真とリンさん、そしてヒカル。
年季を感じさせる地蔵の前で、シャルルはぴたりと足を止めた。
「オイ馬鹿、お地蔵さんの前で告白する気か」
する気のようである。
「雪江サン」
シャルルの声が聞こえるくらいの距離。
二人は耳を澄ませる。
雪江さんは呼び止められ、足を止めて振り返った。
「なに? シャルル君」
ヒカルが興味深そうに呟いた。
『さて。雪江の趣味は割り出してやったが……シャルルはどう外してくるかね?』
「失敗前提かよ」
『まぁな。急ごしらえで用意できるものじゃないしな」
雪江さんの趣味。
部屋を訪ねた際に、ヒカルはきちんとシャルルに成功への道筋を示した。
今までそれを拾い損ねてきたシャルル。果たして最後はどうなるのか。
「今日はお付き合い頂きありがとうございました」
「え? なぁに? 急にかしこまっちゃって」
「今日のお礼にプレゼントを用意してます」
やだもう、と雪江さんはくすりと笑う。
そんなのいいのに。
そう言い掛けたようだったが、真面目な口調になったシャルルに合わせて、少し笑いに冗談味を抜いて、首を少し傾げた。
「どうしたの?」
「少し待って頂けますか」
待てとは一体どういう事か。
真とリンさんが首を傾げて顔を見合わせる。
プレゼントを渡すのではないのか。それに何のタイミングがあるのか。
その答えは割とすぐに判明した。
ぱたぱたぱた。
黒い何かが飛んでくる。
わっ、と驚く雪江さんに、「大丈夫です」と囁いて、シャルルは掌を広げた。
そこに降り立つ黒い影。キィ、と鳴いたそれは、丸っこい身体をくるりと雪江さんの方へと向けた。
「わ、可愛い」
それは蝙蝠であった。ようやく吸血鬼っぽい要素の登場である。
「その子はなぁに?」
「本当はもっと早くに戻る筈でしたが、少し時間が掛かって……今日戻る事になってしまいました」
「戻る?」
「こいつにはお使いをお願いしていました」
雪江さんに一礼すると、ぱたぱたと蝙蝠は飛び去る。
蝙蝠を乗せていたシャルルの手には、代わりに何かが残っていた。
フランスパンを抱えた、小さなウサギのフィギュア。
手品のような演出に、わぁ、と雪江さんは驚いた。
「レジャーラビット。お好きだと聞いたので。私の故郷、フランス限定のものを、買いに行かせていました」
掌をすっと差し出し、シャルルは照れ臭そうに目を逸らす。
「受け取って、頂けますか」
驚き目を丸くしていた雪江さん。
手を伸ばし、ウサギのフィギュアを取って、目の前で眺める。
『おいおい……まさか此処に来て……!?」
「好感触か……!?」
「オイマジか。何でシャルルの奴が雪江の趣味抑えてんだ。割と近付いてんのかあいつ」
ごくりと全員息を呑む。今までに無い様子にハラハラドキドキである。
そして、まじまじとウサギのフィギュアを眺めた雪江さんが、やがてぽつりと呟いた。
「シャルル君。これ、パチモノの『ラジャーラビット』……」
衝撃の事実!
よくよく見れば、黒目がちだった本物と違って、白目多めのギョロ目である。
モロ偽物である。
『あいつ、最後の最後までやらかしやがった……!」
「笑えねえ……」
「終わったな……」
三人揃って頭を抱えるレベルの失態。
遂に最後まで残念な結果しかシャルルは残せなかったのである!
シャルルもようやくやっちまった事に気付いたようで、ぞっと青ざめている(今更)。
雪江さんが顔を伏せてぷるぷると震えている。
ヤバイ! キレる!
真達が目を覆ったその時!
「……うっ、うっくく……! あははははははは! ラジャーラビットって! そこ間違えちゃうかぁ! 可愛いなぁ、シャルル君は!」
雪江さん、お腹を抱えて大笑いである。
「もう……面白いなぁ。あ、そうそう。手出してシャルル君」
「え? あ? へ?」
言われるがままに、手を出すシャルル。
その掌に、バッグから取り出した何かをぽんとぶっきらぼうにおいて、ひいひい良いながら雪江さんは下がった。
手に置かれたものは、ウサギのフィギュア。パチモノではないレジャーラビットである。
刀を携えてちょんまげを生やしている。
「こ、これは?」
「東京駅限定『侍ラビット』。シャルル君、侍とかそういうの好きでしょう?」
こくこくと無言で頷くシャルル。
にかっと今まで見せていた大人の表情とは一転、子供の様な無邪気な笑顔を見せて、雪江さんはピースした。
「侍以外にも、『忍者ラビット』、『芸者ラビット』、その他色々、レジャーラビットにはたくさんの仲間がございますっ、と布教してみたり! ……いやぁ、真君は既にレジャラビ知ってるみたいだったけど、シャルル君は知らないみたいだったから。どう? 今後集めてみない?」
何かキャピキャピしてる雪江さんを遠巻きに唖然として真が見ていると、あー、とリンさんが頬を掻く。
「アイツ相当なレジャラビファンだからな。それに関しちゃテンションが子供だ」
「……あの様子を見るにシャルルと前に部屋を尋ねた時は大分セーブしてたんですね」
「ああ、興味ない奴に熱く語らないように配慮はしてるからな。ただ、下手に知ってるとか言うとテンションが若干ウザい」
「リンさんも絡まれるんですか」
「昔ヤンチャしてた頃は遠出する機会が多かったからな。ついでに買ってこいと命令された」
意外な一面を知った一方、あのリンさんがウザイという程のテンションに今後自分が巻き込まれる可能性に真が若干ぞっとする。リンさんみたいにあしらいづらい分、相当厄介である。
それはともかく、結局気分を害した様子もない雪江さんは、シャルルからもらったパチモノを頬に寄せて、ウインクした。
「これ、大事にするよ。ありがと」
「わ、私もこれを家宝にするであります!」
「大袈裟だなぁ」
くすりと笑って雪江さんが再び歩き出す。
「また誘ってね」
「は、はい!」
二人は肩を並べてしあわせ荘に向けて歩き出す。
真とヒカルが顔を見合わせ、ざわめく。
『おいおい、まさか……こりゃ脈有りか!?』
「そういえば雪江さん、駄目男好きだって……」
「いや、ありゃ脈なしだ」
そんな真に対して、リンさんが真顔で言った。
え、どうして。
そんな問いを投げ掛ける前に、雪江さんがはっきりと聞こえる声で言う。
「でも、今度はちゃんとプランは練った方がいいと思うよ? 今回は予行演習って事でいいけど、好きな女の子とのデートの時は気をつけてね」
「えっ」
シャルルが凍り付いたのが目に見えて分かった。
「駄目男云々以前に、そもそも眼中にない」
『脈なしだな』
「脈なしだ」
脈なしだった。
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