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しあわせ荘の日常  作者: 五月蓬
第二部『新学期、新しいせいかつ』
20/48

その20『神様ロード(後編)』

☆注意!☆

このお話に登場する神様を本当の神様と思ったら神様に失礼!




 早くも意気消沈する原石ゆうこに声を掛けてきたのは、綺麗な金色の瞳だった。


「原石さん、一緒に帰ろ?」




   ~~~~




 一言で言うと幸薄そう、名前だけでなく風貌からもそんな空気を漂わせる少女は、校門を通り抜けた辺りで自然と話を切り出した。


「改めて自己紹介。私、貧乏神金欠びんぼうがみきんけつです。凄い名前でしょ? 正直、私もどうかと思うから、きんちゃんとか呼んでくれると嬉しいな」


 フレンドリーな笑顔と共に、金欠は灰色の髪を揺らした。

 名前の割には言動は明るく、活発な印象を与える。

 ゆうこにとって唯一気掛かりな、彼女の持つ『気配』を除けば。


「ほら。魂ちゃんも」


 促されるままに、小柄な闇を背負う真っ黒少女も見上げるようにゆうこの目を見た。


氏神魂しのかみたま。死神」

「ちょっと魂ちゃん!」

「大丈夫。この見えちゃう系、滑ってはいるけど本当に見えてる」


 かっ、とゆうこの顔が紅潮する。


「見えちゃう系はもう忘れて!」


 ふん、と鼻で笑う魂。小生意気で嫌みったらしい笑みからは、魂という少女のキャラクターが容易に見て取れる。こちらは金欠とは対照的に、背中に背負う闇に似合った見た目通りの性格のようだ。

 トラウマを掘り返され、ブルーな(顔は赤い)ゆうこを気遣ってか、純粋な反応なのか、金欠が魂の顔を覗き込んだ。


「見えてるって……」

「私の背中の影を視線が追えてる。幽霊なんて居る訳ないけど、私達の正体なんてとっくにばれてる」


 「でしょ?」と魂が再びゆうこの顔を見上げた。

 ゆうこも何とか気を取り直し、軽く頷く。


「……人間じゃないっていうのは」


 すると、「そっか」と諦めた様に、金欠が歩調を早めて前に立ち、後ろ向きに歩きながらゆうこと目を合わせた。


「じゃあ、本当の自己紹介。私は貧乏神金欠。魂ちゃんと同じく所謂神様、貧乏神です」


 まぁ、名前からそうだろうとは思っていました。

 とは言わないゆうこ。

 

「貧乏神と死神、って縁起の悪い響きと思う人が多いから、なるべく正体は隠せって言われてたけど……早速見抜かれちゃったなぁ。でも、安心して。私達は人間社会に慣れる為に通学してるから、在学中は人間らしく生活してくつもり。迷惑は掛けないようにするよ」


 いや、名前からバレバレだし、一人は聞かれるまでもなく自ら名乗ってたけど。

 とは突っ込まないゆうこ。

 彼女は空気が読める女なのである。

 空気が読めすぎた結果、一生もののトラウマを抱えたのだが。


「人間社会に慣れる……ってどういう事? 神様にそんな事必要なの?」

「今の時代、神様も人間達と共存しないと食べてけないんだよ」


 苦笑しながら金欠が言った。

 神様の世界も世知辛いらしい。正直知りたくなかった真実である。

 

「だから、早い内から人間社会のお勉強。そういう訳で、人間のお友達が欲しかったから、今日から早速ゆうこちゃんに声を掛けたんだ」

「金ちゃんは優しい嘘が上手いなぁ……クラスから浮きそうで気の毒だからって声を掛け」

「わーーーっ! わーーーっ!」


 必死の形相で魂の口を塞ぎにかかる金欠。

 泣きそうな顔で、ゆうこがにこりと笑った。


「うん……ありがとう。誤魔化さなくて平気だよ金ちゃん」

「ち、違うよっ!? 別に同情とかそういうので……」


 優しさが余計に痛い。

 最早笑っているのか泣いているのか分からない表情のゆうこを流石に気遣ったのか、少し優しげな表情でゆうこの顔を覗き込み、魂がゆうこの背中をとんと叩いた。

 

「ゆうこ……あなたついてる。日本の経済を裏から牛耳る貧乏神一族と友達になれるんだから……今の内に媚びを売っとけば将来安泰……何を隠そう私も将来の為にこうして……」

「魂ちゃん!?」


 歯が素っ裸な魂の発言に今度は金欠が大ダメージである。

 流石は闇を背負う少女である。

 早速三者の友情に亀裂をいれ始めた。


「……た、魂ちゃんは正直なところがいいところだからね」


 金欠が半泣きでフォローを入れる。

 あ、このかみさま絶対良い人だ。

 何だか妙にゆうこも安心した。


「と、とにかく今日からよろしくね、ゆうこちゃん」

「こ、こちらこそ、金ちゃん……あと、魂ちゃん」

「……まぁ、よろしく……ゆうこ」

 

 こうして、『見えちゃう系女子』原石ゆうこの高校デビュー初めての友達は、二人の神様という奇想天外な、正直別に望んじゃいなかった事態に陥ることになる。

 

「……あ、そうだ。忘れてた。ねぇ、ゆうこちゃん。一緒に帰ろうって誘ったところ悪いんだけど……ちょっと私達、用事があって寄り道しなきゃいけなかったんだ」

「……ああ、あの大食い狐の」

「魂ちゃん!?」


 先に帰れと言う事だろうか。

 なんだかこれじゃ本当に同情で接触されただけみたいである。

 神様友達なんて望んでないけど、それはそれで寂しいというか孤立コースまっしぐらな気がして……ゆうこは勇気を出して一歩踏み出した。


「お、お邪魔じゃなければ付き合うよ?」

「え? 本当? ありがとう!」


 意外にも金欠は嬉しそうに手を打った。嫌そうな顔をされたら本気で立ち直れないと思っていたゆうこもほっと一息。

 

「じゃあ、まずはお供え物を買って……」


 神様がお供え物?

 と、ゆうこが首を傾げた。


「用事って何なの?」


 金欠が、屈託のない笑顔で答えた。


「神社にちょっとね」




   ~~~~




「この御方は、この土地を取り仕切る大昔からの有力者、金剛真白様。私達貧乏神一族も死神一族もずっとお世話になっているの」

「は、初めまして。原石ゆうこと申します」

「そう堅くなるな。気を張らずともよいよい」


 満足げに近所のコンビニで買ってきたアイスを頬張りながら、ひらひらと真白さんが手を振った。

 お供え物、それでいいのかと思ったが、真もゆうこも突っ込まない。

 正直神様連中や妖怪連中は突っ込み所が多すぎるので、いちいち突っ込んでいられないのだ。

 取り敢えず気になった事を口にする真。


「それにしても、真白さんって神様だったんですか?」

「そう呼ばれた時代もあったかの。今は妖怪で十分よ」


 凄いようかいだとは何となく知っていたが、神様という二人が敬う程の大物だっとは、と真も少し驚いた。

 ちなみに、真白の知り合いという事で、瓜子さんも真も既に金欠と魂の正体を暴露されている。


「何なら、もっと畏れ敬ってくれてもよいがの?」


 しかし、アイス食いながらだと威厳がない。


「また改めてしあわせ荘の方にも伺いますので」


 深くぺこりと頭を下げて、金欠は今度は真と瓜子さんの方に向き直った。


「遠野君。天野さん。また明日、学校でね。じゃあ、ゆうこちゃん、魂ちゃん、帰ろっか」


 もう一度、その場に残る者達に頭を下げて、金欠はゆうこと魂とを連れて神社を後にした。

 その後ろ姿を見送り、真白がふむふむと満足げに頷いた。


「真。瓜子。どうじゃ、いい子じゃろ」

「そうですね」

「……はい」


 真白さんが人を素直に褒めるのは珍しい。というよりこの人食べ物の事か、適当な事しか言ってない。

 そんな彼女が素直に褒める貧乏神金欠。


「ただ、ひとつだけ欠点をあげるとするならば……」


 ん? と真。

 今見た限りでは欠点らしい欠点は見当たらなかった。

 真白さんは一体彼女に何を見出しているのだろう。


 真白さんは深刻な表情で口を開いた。


「いい子過ぎてオチが付かない」


 やっぱり落ちませんでした。





~本日の現代神様辞典~

【貧乏神】

何かと縁起が悪そうな名前だけれど、実は幸福もたらす良い神様。

世界中の経済を影から牛耳るすごいやつだよ!



※これは現代神様辞典です。実在の神様とは何ら関係はありません。本当の貧乏神はこんなんじゃないよ! 神様、ごめんなさい。



貧乏神金欠ちゃんは貧乏神(直球)

誰とでも仲良くできる良いかみさまです。人間社会を勉強中だとか。

ちなみに、神友しんゆうの魂ちゃんは、本当に打算で友達やってる訳じゃないよ。本当だよ。本当だよね魂ちゃん?

魂ちゃん!?

ちなみに祖母の名前は貧乏神赤字です。

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