その19『神様ロード(前編)』
☆注意!☆
神社に来るならお供え物を持ってこい!
特に学校の面々と絡む事なく直帰する真。
あんなのと関わっていたら話数が足りないのだ。
学校編とは言いつつも、学校生活とかあまり描かれないのが、このお話のポイントである。
「知り合いがクラスにいて良かったよ」
「べ、別に私はそうは思わないけどっ!」
相変わらずの瓜子さんリアクションにもすっかり慣れた真。
学校初日も終わり、二人は帰路に就いていた。
自己紹介噛み噛みで、そそくさと教室を抜けてきた瓜子さんに、真が続いた形である。
どうやら落ち込んでいる様子だった瓜子さんだったが、真が追い掛け声を掛けると若干嬉しそうになった。
「別に嬉しくなんかないけどっ!」
「え? 何が?」
「……別に」
変わってるよなぁ、と真。
取り敢えず反対の事を言おうとする妖怪だという事は、真も薄々分かってきた。
それさえ分かれば瓜子さんは悪い子ではない。
しかし、それでも話しづらいのは確かである。
上手くつなげられそうな話題を考えながら、真はふと視線を流した。
「……神社」
「ん?」
ふと脇道に見えたのは、急な石段と赤い鳥居。
朝は気付かなかった。
それもそのはず。
朝はそんなに人がいなかった。
「繁盛してるなぁ」
石段を登っていく人の数は、意外なまでに多かった。その人の多さが真の目を引いたのだ。
真の地元でも、神社に参る人の数はそうは多くなかった。
流石東京、とまたも間違えた東京知識を身につけた真はふらりと石段に寄っていく。
「寄り道?」
「うん。ちょっと」
瓜子さんもそわそわしながらついてくる。
少し昇るのが大変な石段をたったとあがり、真は鳥居を潜った。
そして、驚く。
見慣れた顔に。
「あれ?」
「ん? おお、真か。神社なんぞに何用じゃ」
艶やかな金髪。玉のような白い肌。そして、神社に馴染む巫女装束。
しあわせ荘の住人がそこにはいた。
「真白さんこそ」
「仕事じゃ。仕事」
袖をふりふりと振り、真白さんは怪しく微笑んだ。
見れば彼女の周りには、多くの人集りができている。
何故か写真とか撮られている。
「巫女さんやってるんですか?」
「まさか。わしが神に遜るとでも思うたか」
ふふん、と得意気に笑う真白さん。
「巫女の格好して神社に立ってるだけの仕事じゃ。看板娘というやつよ」
人差し指と親指で「まる」を作って一言。
「ぼろい商売じゃろ?」
悪い狐のようだ、と真の素直な感想。
実際問題悪い狐なのだから失礼な感想ではない。
「さて、わしの『べっぴん』さが改めて分かったら、団子の一つでも奢ってくれてよいぞ?」
「むしろ働いてる事が分かったんだから奢って欲しいです」
「嫌じゃ」
「でしょうね」
何処のガキ大将だ、と呆れるよりむしろ真も感心する。
そんな事などつゆ知らず、真白さんは尚も得意気に笑う。
「ふふん。真よ。お前がわしをただのタダ飯食らいだと思っていた事などとうに見抜いておるわ」
「え」
見抜いていたなら、そう思われない努力をするべきなのである。
「だが今日で分かったじゃろ。わしはもっちもちの高嶺の花だったのじゃ」
「もっちもち……?」
『モッテモテと間違えてるんじゃね? まぁ、確かにもっちもちでも間違いじゃないが』
いつの間にか真白さんの胸元に顔を寄せている真の背後霊……でなく守護霊ヒカル。
セクハラ悪霊の首根っこを掴んで引き戻しつつ、真は溜め息をついた。
「じゃあ、お仕事の邪魔しちゃ悪いんで帰ります」
そろそろギャラリーの視線が痛い。
瓜子さんも人の視線に緊張しきっている事もあり、何よりこれ以上この面倒臭い人(妖怪)に付き合うのも疲れたので、とっとと背を向け真は立ち去ろうとする。
すると切羽詰まった表情で、真白さんが一言。
「待て! 団子は!?」
買うとは言ってない。
返事すらせずに鳥居の前に差し掛かった真。
ところが彼を邪魔する思わぬ障害が目の前に立ちはだかる。
「真白様! お疲れ様です!」
「……久々に差し入れ……持ってきた……」
「魂ちゃん! 敬語敬語!」
「……持ってきてやりました」
見覚えのある二人。
そう。今日見たばかりの顔である。そして、同じ学校の制服である。
二人もどうやら真と瓜子さんに気付いたようである。
「あれ? 確かあなたは……」
金色の瞳がじっと真を見つめる。
色素の薄い灰色のような髪を無造作に垂らし、制服こそ新品なものの、所々ほつれた靴下に修繕が大量に施されたぼろぼろの手提げ鞄。
金色の瞳は綺麗だが、その周りの顔のパーツは、限りなく特徴を感じさせない地味さがあった。
簡単に言うと「幸薄そう」である(失礼)。
「……座右刹那君」
「魂ちゃん。盛大に間違えてる。遠野真君と、天野瓜子さんでしょ」
もう一人は、かなり小柄な、きっこさんよりは少し大きい程度の女の子。
黒い瞳と長めの黒い髪は日本人らしいものだが、どこかその色はもっと深いものに見える。
死人のように青白い顔のせいで、黒が際立っているのだろうか。
やはり同じ新品の制服に身を包む。抱える荷物は何故か唐草模様の風呂敷ひとつ。そして背中に何やら黒々とした巨大な闇を背負っている。意味が分からないが、本当に真っ黒な闇を背負っている。
真は覚えている二人の名前を口にした。
「貧乏神金欠さんと、氏神魂さん、だっけ?」
「わ! 覚えていて下さったんですか! 嬉しいなあ!」
「……金ちゃんは、すぐに建前が出てきて……凄いなあ」
「魂ちゃん!」
貧乏神金欠。そして氏神魂。どちらも越戸高校1年4組、遠野真と天野瓜子のクラスメートである。
クラスでも仲が良い(?)事は分かっていたが、やはり一緒に下校するような仲のようだ。
二人はどんな妖怪なんだろう(失礼)、そんな事を考えて真が二人をじっと見ていると、はっはという息づかいが聞こえてきた。
「ま、待ってよ二人とも!」
どうやら石段を駆け上って誰かが二人を追い掛けてきたようだ。
やはり聞き覚えのある声だった。
しかし、この二人といるのは、意外な顔だった。
「か、階段昇るの……は、速すぎだって!」
「あ! ご、ごめんゆうこちゃん!」
「……ゆうこ……頭だけじゃなくて足まで……」
「か、可哀想な子みたいに見ないで魂ちゃん!」
息を切らした女の子。
やはり越戸高校の制服に、真と瓜子さんと同じ普通の学生鞄。綺麗に整えた黒のショートヘア。それ以外には特に言う事はない。金欠と魂に比べれば、大分地味……でなく普通の女の子だ。
1年4組自己紹介で、一番滑った子だ。
「確か……はらいシェ……見えちゃう系の……」
「原石! 原石ゆうこ! あと、見えちゃう系はもう忘れて!」
真も正直唖然としていたので、名前とか色々と聞き逃していたのである。
何だか突っ込みで忙しそうな普通の女の子(?)。
「……あれ? あなたは確か……遠野君?」
原石ゆうこ。
自称『見えちゃう系女子(苦笑)』。
彼女を見て、ヒカルはぼそりと真の耳元で囁いた。
『おい。この子、本当に「見えてる」ぞ』
真が驚き、耳元のヒカルを振り向く。
「……やっぱり、見えるんだ」
呆けた声に真は振り向く。
ゆうこもまた、ぽかんと口を開いていた。
場に静寂が訪れる。
真とゆうこ、二人の視線が交わる先を、瓜子さんと、金欠、魂が見つめる。
静寂を破ったのは、ギャラリーを追い払い、いつの間にか金欠の前に立っていた真白さんだった。
「取り敢えず、差し入れを出せ金欠」
まさかの前後編!
出会ってしまった二人の『見えちゃう系』!
二人の出会いが何を引き起こすのか!(何も引き起こさない)
真白さんへの金欠さん達の差し入れとは何なのか!(割とどうてもいい)
そろそろアパートに帰らないと、タイトル詐欺になってしまう