その18『越戸高校1年4組』
☆注意!☆
こんなクラスは実在しないので、安心してね!
こんにちは!
私、原石ゆうこっていいます!
今日からこの越戸高校に通う事になる高校一年生です!
普通の女子高生にしか見えない私ですが、実はひとつ、他の人とは違うところがあるんです!
私、所謂、『見えちゃう系女子』なんです!
幽霊が見えちゃったり、悪魔や妖怪なんかの気配を感じ取れちゃったり、この世の者ではないもの、魔の者なんかをなんとなーく知覚できちゃうんです!
どうやらこれは私の母方の家系の特徴らしいです!
何はともあれ、そんな私も今年で高校生!
果たしてどんな高校生活が待ち受けているのか?
どんなクラスメート達がいるのか?
ワクワクしながら今日を迎えました!
「えー、入学式お疲れ様でした。今日から皆さんは1年4組の仲間です」
入学式前、校舎前の掲示板に貼られていたクラス分け表。
私の名前は1年4組の欄に書かれていました。
中学までのクラスメートがまるで居ないクラス、ちょっぴり不安だったけれど、新しい友達と沢山出会えるかもと期待に胸を膨らませていました。
入学式を終え、教室に戻った私達に気怠げな、がりがりの骨のような先生が挨拶をしています。
「どうも、担任の柏屋です。こう見えて大食いです」
どうでもいい情報です。
そんな事より、私は戦慄していました。
妙な気配を感じて、私はクラス内で神経を研ぎ澄ませました。
そして衝撃の事実に気付いてしまったのです。
「それじゃ、これからクラスメート同士の親睦を深める為、自己紹介をしてもらいます。名前と、あとなんか適当な情報を。掴みは大事ですから、とびっきり面白いやつお願いしますね」
このクラス、8割方魔の者です。
嘘でしょう? と思いましたよ。
いやね、学校っていう場所には多少なりとも魔の者はいるんですけどね?
そうそう。入学式の時はさほど気配を感じなかったので、この学校にはそこまでそういった類いのものは居ないと思ってましたよ。
でもね、クラスに入った瞬間気付きましたよ。
やばそうな奴から些細なものまで、このクラス魔の者だらけです。
こんな所で私の『見えちゃう系女子』の設定が活きてくるとは思いませんでしたよ。
しかも何より厄介なのが、その8割が、クラスにひっそり潜んでいる訳じゃなく……なんか人間の姿して生徒として紛れ込んでることです。
人間社会に溶け込む魔の者なんて一握りしかいませんよ?
しかも東京なんて、言うほど魔の者いませんよ?
なのにこの密集率!
私の新生活、早速良からぬ気配が漂い始めています。
緊張しながら、誰が魔の者かを探る私を他所に、クラス内自己紹介大会は始まりました。
「我、明野明星……悪魔門の導きにより、現世に顕現した魔界神也……」
はい、いきなりすごいのがきました。
明野昭雄くん。
クラス表にはどう見ても「あけのあきお」と書いてあります。
多分魔の者じゃありません。ただの痛い人です。
クラス中の人々が、一発目の予想外の自己紹介に戦慄しています。
「馬鹿な……魔界神……? そんな……こんな学校に、主以外の勢力が……?」
なんか隣の席の眼鏡をかけたいい感じの美人がよく分からない事を呟いてます。
熊取谷さんというそうです。
既に頭が痛いです。
次に自己紹介する天野さんのハードルが上がりすぎて可哀想です。
「あ、あま、あああ、天野、う、瓜子です……よ、よろ、よろよろよろ……」
滅茶苦茶緊張していらっしゃる。
緊張しいなのに目の前であの自己紹介……可哀想な。
比較的普通の子みたいなので、是非とも天野さんとは仲良くしたい所です。
「洗井のら」
一方かなり無愛想な女の子。名前だけ名乗って座りました。
凄い仏頂面。
若干怖そうな子ですが、やっぱり割と普通の子のようです。
「大宜見清文って言います、へへ……趣味は、読書、とか。本の事とか話せたら嬉しいっす……よろしくお願いします」
少し気の弱そうな眼鏡男子。しかし、割と普通。
良かった、と正直安堵。
魔の者が8割いるのに、残る2割の人間が変人揃いだったらどうしようかと……
「清湖萌、雑食です! 男でも女でも、どんな属性でもいけます! 『萌の求道者』とよんでくれてもいいよ! ハァ、ハァ……!」
変人1割5分あるでこれ。
ハァハァの息づかいがなんかもう冗談抜きでヤバイこの女子。
もうやだこのクラス。嫌な予感しかしない。
「釘打笑です。頭に五寸釘が刺さってますが、正真正銘人間です。よろしくお願いします」
「九鳳院雛もこ、じゃ。大して売り込む事などありゃせぬが、よろしく頼むぞ者共」
「久地崎散。年がら年中風邪引いてるのでマスクが欠かせない。マスクの下を覗いた奴は殺す。八つ裂きにして殺す。くけ、くけけけけ、くけけけけけけけ!」
カ行が濃すぎる……!
「甲賀伊賀丸。拙者も顔に火傷を負っていて覆面が欠かせないのでご承知願いたい。ニンニン」
なんだこのあからさまな忍者は……!
あと、甲賀忍者なのかそれとも伊賀忍者なのかはっきりしろ……!
あと、やっぱりカ行が濃すぎる……!
明らかな魔の者がいるっぽいのも問題だけど、この中に人間が雑じってるのも逆に問題な気もする……!
「佐々木忠っす。ちょっと今までのみんなみたいな自己紹介できないけど、映画とか見るの好きかな。話せる相手募集中っす。よろしく」
良心再び!
恐怖のカ行を切り抜けて、安堵のサ行にようやく移った!
「氏神……魂……死神……です……」
はい。安堵のサ行終了しました。
背中に闇を纏っている不気味な小柄な女の子がとんでもない事言い出しました。
尋常ならざる瘴気を発しています。
「魂ちゃん! 正体バラしたら不味いって!」
私の斜め後ろの貧乏神金欠さんが慌てて声を上げました。
正体バラしたらとか言っちゃったらフォローできていません。あと、あなたの正体も大体分かります。名前がストレート過ぎます。
もうなんかいちいちリアクションするのも疲れてきた。
というか何故誰も突っ込まない?
全員頭どうかしてるんじゃないだろうか。
なんやかんや自己紹介も進み、次第に私の方へと順番が迫ってくる。
「遠野真です。東京には今年から引っ越してきました。座右の銘は『刹那に生きろ』です」
なんか背後霊憑いてる人もいる。
さっきこの人、後ろの霊と会話してたし、もしかして私と同じ見える系?
キャラ被ってる……!
ただでさえ、濃いメンツの中にいるのに、まさかの霊感キャラ被り……!
しかも、なんか独特な座右の銘とか持ってる……!
あれ? もしかして、逆に私、浮いてない?
やばい。
私は焦った。
周りが全員おかしいのばかりで浮いてると思ったら、私だけキャラ立ってなくて浮いていた……何を言ってるのか自分でも分からないけど、これはクラス内で孤立する危機なのでは!?
私の学園生活が早速崩壊しようとしている……!?
まずい。
なんとかしなければ。
突如、柏屋先生の言葉が頭に浮かぶ。
「掴みは大事ですから、とびっきり面白いやつお願いしますね」
そういうことか……!
みんな、自分のキャラ立てる為に、わざとボケてきたのか……!
そりゃそうだ。
こんなふざけたメンツが、そうそう揃う訳がないでしょ!
みんな、独自のキャラを立てて、クラスに馴染もうとしてるんだ!
となるとやっぱりヤバイ……!
私も何かキャラを立てないと……!
どうする? 『見えちゃう系』以外は極々普通の女子高生だぞ私は!
しかもその『見えちゃう系』も、既に遠野君と被ってる!
……いや、待て。
遠野君は、確か『見えちゃう系』だとは名乗っていない……?
これはチャンスだ……!
私が先に名乗ってしまえば、私が先にキャラを立てられるっ!
私が1年4組の、『見えちゃう系』に、君臨する……!
私は決心した。
「橋本姫路です。冗談みたいですけど、趣味は橋巡りだったりします。別に橋本だからって、って訳ではないんですけど。……あ、滑った。よろしくお願いします」
目の前の橋本さんがいそいそと座りだしたタイミング。
私は勢いよく立ち上がる!
これが、勝負の、時……!
私は息を吸い、全身全霊の、キャラ立て自己紹介をぶちかます!
「はらいシェッ……」
噛んだ。
「はっ、原石っ、ゆうこ……ですっ☆ 霊感が強い、所謂『見えちゃう系女子』ですっ☆」
……。
噛んだ上に、テンパってすっごく痛い自己紹介しちゃったーーー!
ウィンクとかノリでしちゃったーーー!
「え…………霊感とか……なにそれは……」
氏神さんがすっごい残念そうな顔で見てるーーー!
死神とか名乗った人に、霊感とか、とか言われてるーーー!
「オ、オカルト方面の方ですか?」
釘打くんが引いてるーーー!
頭に釘刺さってて、しかも気配的には魔の者っぽい人に、オカルト方面なの?とか聞かれてるーーー!
よく見たら一番私がどん引きされてるーーー!
「あ、じゃあ次の人」
先生がフォローしてくれないーーー!
終わったーーー!
「ナ、ナイスファイトだよ……ゆうこちゃん……!」
斜め後ろの貧乏神さんがフォローしてくれてるーーー!
色物かと思ったら意外といい人ーーー! いや、神ーーー!
泣きそうーーー!
「山田永礼です。趣味は釣り。よろしくお願いします」
最後の山田くんの自己紹介が終わったーーー!
なんか私以外無難に終わったーーー!
「……うん。じゃあ、まぁ。これからクラスの仲間という事で。仲良くやっていきましょう」
先生がやっぱりフォローとかしてくれないーーー!
こうして、私の学園生活は、最悪のスタートを切ったのだった……
☆捕捉☆
私の学園生活が早速崩壊しようとしている……!?
← もうしてる
よく見たら一番私がどん引きされてるーーー!
← 妖怪さん達は幽霊とか怖いので信じない
越戸高校1年4組38名。
ちょっぴり特別なメンツを詰め込んだクラスです。
次回からはまた、霊感女子原石さんから、霊感男子真くん中心のお話に戻ります。