表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
しあわせ荘の日常  作者: 五月蓬
第一部『春、しあわせ荘のひとびと』
17/48

その17『しあわせ荘の新しい日常』

☆注意!☆

以下略




 しあわせ荘に新しい朝がやってきた。

 新しい入居者を迎え入れ、いつものようでいつもと違う日々が始まる。


 朝、喧しい騒音によって真は叩き起こされた。


「真さん、ごはん! ごはん! ごはんー!」


 まだ冴えない目を擦り、真は身を起こす。

 部屋の中には死装束姿の女幽霊。

 時計を見れば午前五時。


 お隣206号室の地縛霊(?)、レイは箸をぱちぱち開いて閉じて騒いでいる。


「お腹空きましたよぅ! ご飯にしましょう!」


 真の視線がレイを向いた。

 その顔を見て、ぎょっとしてレイが身を引く。


「鬼の形相っ! 怖い! 何で怒ってるんですか!? 私、何かしましたか!?」

『寝起きの真は洒落にならないレベルで怖いからな。幽霊の俺が怖いと思うくらいにな』


 真の守護霊、ヒカルが物陰から顔を出す。


「そうなんですか!? 眠いからって八つ当たりされたらたまったもんじゃないんですけど!」

『いや、それはお前が不法侵入してコイツを起こそうとしたからであってな』


 はっ、としてレイがヒカルに顔を向けた。

 ようやく気付いたか、とやや面倒臭そうにヒカルが思ったその瞬間であった。


「う、うわあああああああああああ! お化けだああああああああ! 怖いいいいいいいいいいいいい!」

『残念だったな。俺は突っ込まんぞ』

「あ、私もお化けだったああああああああああああ! ドジったああああああああああああ!」

『こいつうるさすぎるんだが』

 

 『女ならば揺り籠から墓場まで』という圧倒的守備範囲を持つヒカルでもあからさまに嫌そうな顔である。

 そして当然、205号室の主である真も黙っていない。


「黙れ……」

「はい」


 レイが姿勢を正した。

 その位今の真は怖いのである。

 お見せできないような顔の真が、ゆらりと布団から立ち上がる。

 そして、レイを一瞥し、口を開く。


「……殺す」

「ストレート過ぎる殺意ッ!? 助けて! 殺される! って私もう死んでるし! そう! 私は死んでる! だから殺されることなど怖くない! ふはっはっはー! 真さん! 私は怖くないですよ! おらあああ! かかってこいやあああ!」

『こいつ初登場から三話目にして喋りすぎだろ!』


 思わずメタ発言が飛び出すレベルのうるささなのである。


「ぎゃあああああああああ! 殺されるううううううう! チョキはやめて! チョキはグーよりいけない! せめて、パーで! パーで!」

『真落ち着け! お前の怒りはごもっともだが流石に落ち着け!』 


 ヒカルが止めに入るレベルの真による除霊(殺害)が執行されようとしたその時であった。


「どうしたんですか! ころされるって、今っ!」

「朝からうるせえぞ! 寝てられねぇだろうが!」

「いや、あんたは昼でも寝れるんだから寝なくていいでしょ無職」


 205号室を開けて現れる三人。

 管理人の座敷童子、きっこさん。

 無職の鬼火、リンさん。

 リンさんと喧嘩を始める雪女、雪江さん。

 部屋に雪崩れ込んでくる三人を前にして、騒ぎの元凶、レイがぎょっとして叫ぶ。


「な、何ですか! ずかずかと人様の家に上がり込んで! 妖怪には常識がないんですか!?」


 お前が言うな。

 

「そんな事よりご飯にしようぞ」


 真白さんが卓袱台の前でそう言った。


「う、うわあああ! 不法侵入者!」

『だからお前が言うなと地縛霊』


 朝食臨戦態勢の真白さんに、吸血鬼のシャルルも同調する。


「おうイエス! いいデスネー! 日本の朝食!」

「エセ外人まで! 全くもう!」


 エセではなく本物の外人である。

 あと、「全くもう」なのは地縛霊も同様である。


「これはもう、展開的に住人全員出てくる流れですかね!?」

『展開的にとか言うな』


 展開的に住人全員出てくる流れである。


 声は発していないものの、既に205号室の前からこそっと覗くシャイな二人。

 同級生の天邪鬼、瓜子さんと下級生のダイダラボッチ、大くん。

 どうやら騒ぎを聞きつけ顔を出したものの、このうるさい面々の中に入っていく度胸がなかったらしい。




 205号室の新しい住人、真。


 彼の部屋に集まって、しあわせ荘の住人は、楽しく、愉快にはしゃいでいる。

 今までと同じようで、ほんの少しだけ違う日常が、また始まる。

 騒ぐ妖怪達を眺めながら、布団の上に立ち尽くす真の後ろに立った守護霊ヒカルが、ふうと深く溜め息をついた。


『全く……喧しい奴らだな』

 

 しかし、嫌そうな顔はしていない。

 苦笑を浮かべて、ヒカルは真に問い掛ける。

 

『でもまぁ、退屈はしなさそうだな。俺はこういうの嫌いじゃないぜ?』


 賑やかな日常。

 妖怪達との新しい日常。

 これから始まる日常。


『真、お前も悪くないと思わないか?』




 真は後ろのヒカルの方を向く。

 そして、ふっと微笑む。


 彼の答えは決まりきっていた。










「……悪いわっ!」


 そりゃ、よろしいわけがないのである。

 朝から勝手に侵入されて、起床時間でもないのに騒がれてよろしいわけがないのである。

 

『……ですよねー』


 ヒカルなりに綺麗に終わらせようとしたけれど、そう上手くはいかなかった。


 とりあえず、あとで元凶の地縛霊に制裁が改めて加えられたのは言うまでもない。







   * * * *




 事前に実家に届いていた制服は、袖を通すのは二度目である。

 鏡の前に立ち、身だしなみを確認しつつ、背後の守護霊に問い掛ける。


「どうかな?」

『おー。いいんじゃねーの?』


 乱れがないかを確認し、ふむと頷くヒカル。

 その目はお父さんのようであった。


『しかし、制服姿……感慨深いねぇ。子を見送る親の気分だぜ』


 真の生まれたその時から憑きまと……彼を見守ってきたヒカルの感慨深げな目を見て、真は言う。


「……いや、中学も制服だったけど」

『そういうこっちゃねんだよ。趣ってもんを理解してないなお前は』


 そういうものなのか、と納得してもう一度きゅっとネクタイを締め直す真。

 

 今日は入学式。

 真がこちらに越してきた目的である、越戸こしと高校への登校が今日から始まるのである。

 別に妖怪と馬鹿騒ぎする為に東京に出てきた訳ではない。そもそも東京に妖怪がいるとか思ってもみなかったのである。


「よし、じゃあ行くか」

『戸締まり忘れんなよ』

「分かった」


 鞄を持ち、玄関の革靴に足を突っ込む。

 準備は整った。

 真は205号室の扉を押した。


「お、おは、おおは……」


 その瞬間に、耳に飛び込む震え声。

 見れば扉のすぐ脇には、隣の住人、瓜子さん。

 真と同じ越戸高校の女子制服を着ている。

 

「おはよう。もしかして、待っててくれた?」

「べ、別に待ってないけど!」

「ごめん」

「あ、謝る事じゃないけど! ……いや、別に、あの、学校の場所分かるかな……と思って……」


 天邪鬼な逆らいっぷりで、瓜子さんが目を逸らす。

 真はそれを理解しながら、言葉を選んで尋ねた。


「じゃあ、嫌じゃなかったら、一緒に行ってくれるかな?」

「別に嫌とかじゃないから!」


 強く一言言い放ち、背を向けつかつか瓜子さんが歩き出す。

 その後ろに続き、真も歩き出した。


「あれー? 今日から学校ですかー? 気をつけていってらっしゃいー」

「い、行ってきます」

「行ってきます」


 庭先で花壇と睨めっこしていたきっこさんのお見送り。


 今日からまた、少し違った日常が始まる。




「しあわせ荘への入居、つまりは導入部分は終わり、遂に学校生活が始まるという訳ですね」

「いきなり何を言ってるんですか。お家賃払ってくれないならせめてお手伝いして下さい」


 掃き掃除をしながら、真と瓜子を見送る半透明の女、地縛霊のレイさん。

 朝、部屋から出たところをきっこさんに捕まり、お手伝いの途中である。

 

「果たして、どんな学園生活が待っているのか……そして、しあわせ荘ではどんな事件が起こるのか?」

「事件とかそうそう起きませんから。あと、誰に向かって話してるんですか?」


 虚空を見上げて語り出すレイの顔を見上げながらきっこさんが怪訝な表情で問う。この人がこんな表情するのは珍しいのである。


「花の学園生活編、遂に……スタートです!」

「お手伝いしてくれないなら、部屋に塩撒きますよ?」

「やめて! 幽霊に塩って、殺す気ですか!? あ、もう死んでますけど!」


 別に塩は幽霊抹殺の道具ではない。


「じゃあ、ぶちますよ?」

「ストレートな暴力! 分かりました! 働きます! 馬車馬のように働きますから!」


 グーを掲げるきっこさんに、とうとう、というかそろそろこれ以上怒らせると本気で閉め出されかねないので、レイが掃除に戻る。


「あ、でも最後に一つだけ」





 レイは叫ぶ。


「第一部、完!」


 第一部、これにて完結。





☆今回のあらすじ☆

幽霊はメタ発言する。

レイはウザキャラ。




   * * * *




第一部、これにて完結。

次回からは第二部スタート!?


越戸高校での学園生活が始まり、真のしあわせ荘での日常も、また変化を見せていく。

学校に潜む魔の者達!

通学路に待ち受ける恐怖体験!

しあわせ荘を訪れる新たな妖怪!

一番怖いのは実は人間!?


波乱の幕開け、第二部「春、学校生活」につづく!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ