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しあわせ荘の日常  作者: 五月蓬
第一部『春、しあわせ荘のひとびと』
16/48

その16 『ネタバレになるから前話の後書き参照とのことです!』

「本当のタイトルは、『その16『地縛霊のレイさん』』ですよー! 分からない人は前話を参照との事です!」




 206号室に住み憑いていた地縛霊、レイ。

 なんやかんやの手違いでしあわせ荘に来てしまっていたものの、なんやかんやで目的地に行く事もできないので、なんやかんやで206号室に住み憑く事になった!


「ならねぇよ」

「あ痛」


 びしっと後頭部に水平チョップを食らってレイが階段から転げ落ちる。

 涙目である。


「何故か真ちゃんからの風当たりが強い!」

「黙れ悪霊。あと真ちゃん言うな」

『相変わらず霊に対しては風当たり強いなお前』


 真は基本的には霊に対して、特に悪霊に対しては厳しい態度で接するスタンスなのである。しかも、関係ない場所に取り憑いた迷惑極まりない悪霊認定のレイには、より一層風当たりが厳しいのである。

 後頭部を擦りながら目に涙を浮かべ、レイはすくっと立ち上がった。足はないのだけれど。

 大が背後からその様子を見て、ぼそりと呟く。


「あの……流石に女の子相手にそういう暴力的な事はよろしくないんじゃないですかね」

「いや、いいんだ。この手の奴は優しくするとつけあがる」


 場数を踏んでいる真には分かる。

 こいつはすぐ調子にのるタイプの悪霊である。

 怖がれば怖がる程、調子に乗って脅かしてくるし、同情するとやたらと要求が多くなる。


「私がそんなタイプの悪霊に見えますかっ!?」

「見える」

「酷いっ! あんまりだーっ! 確かに結構私は可愛い女の子だけど、そんな男の人をたぶらかす様な悪い悪霊じゃないっていうのにーっ! 美しいって罪なんですねーっ! うわーんっ!」

「もう、お前少し黙れ」


 基本的に喧しい。騒霊ポルターガイストとかいうレベルを通り越して騒がしい。だって、目に見えて耳に聞こえて普通の人間と変わらないレベルの存在感なのだもの。

 なんやかんやで階段から降りた(落ちた)レイは、とうとうしあわせ荘の住人達の前にその姿を現した。


「というわけで……私です! 地縛霊のレイさんです! 以後お見知りおきを!」

「どういう訳だオイ!」


 事態を飲み込めない待機組の住人達の中で、リンさんが的確な突っ込みを入れた。

 レイは言い返す。


「前話を参照したら分かるでしょうが!」

「何言ってんだコイツ!? それにさっき地縛霊って……」


 意味の分からない事を口走るレイに、住人達が戸惑いを隠しきれない。ここはメタ発言をしていい世界観ではないのである。

 ただ、『地縛霊』というキーワードを掘り当て、住人達は突然206号室から出てきた見知らぬ女の正体に気付いたようで……


「……きゅう」

「う、瓜子が倒れた!」


 瓜子さんの意識は飛んだ。

 目を白黒させながらきっこさんがぱくぱくしている。


「お、おばっ……おばばばば」

「誰がおばさんですかぁ! まだまだ新鮮ピッチピチですよ!」

「いや、死んでるから。新鮮じゃないから。それに別におばさんって言おうとした訳じゃないだ……」

「誰がおばかさんですかぁ!」

「いや、馬鹿だろ」


 ドジというよりただただウザイ。事情説明を一番すべき立場にも関わらず、事情説明の間を与えないレイ。真の冷静な突っ込みを受け取ってくれない。言葉のドッヂボールである。

 劣悪なコントのような応酬を繰り広げる事情把握組の一方で、待機組はパニック状態である。


「幽霊だぁぁぁ! うわああああああああああ! 悪霊退散! 悪霊退散!」


 絶叫するリンさん。なんやかんやでオカルトが苦手らしい。自分自身もオカルトに近いのに。


「……ふっ」


 涼しい顔でうっすら微笑む雪江さん。流石は雪女と言った所か。

 しかしその時、彼女は人知れず立ったまま気絶していた。

 

「だ、だい、だだだい……」


 大はパニック状態を沈めようと努めている。

 しかし、声が出ない。


「オーウ! コレが『お祭り騒ぎ』という奴デースか! ワッショイ!」


 論外な吸血鬼。


「せっかく新入りの私が挨拶をしてるのに、何を騒いでるんですかこの人達は!」

「お前のせいだよ」

「どうして真さんは私にやたらと風当たりが強いんですか!」

「お前の態度が悪いんだよ」

「もう! 我が儘だなぁ! あ、ぶたないで! グーでぶたないで!」

『落ち着け真。鬼のような顔してるぞ』


 真は戦慄していた。

 かつてないほどに鬱陶しい悪霊の登場。彼が霊相手に此処まで苛立ちを募らせるのは初めてのことだった。

 もう、本当にこいつ除霊してやろうか、と真が考え出すレベルである。


「何なんですかもう! せっかく私の歓迎パーティーだというのに! 台無しじゃないですか! 皆さんそろそろ大人になりま……」


 お前のじゃねぇよ、と真が拳骨を食らわそうとしたその時だった。

 

「悪霊退散!」


 一人暑苦しくパニックに陥っていたリンさんが、火の玉を放り投げた。流石は鬼火である。火の玉は綺麗に弧を描き、レイの頭に直撃した。

 ぼっ、という音と共に、真は思わず「あっ」と声を漏らした。


「熱ッ!? あ、あっつ~~~~~~~~~ッ!?」


 レイの頭の三角が燃える! 断末魔をあげながらもがき苦しむレイ!

 真は知っていた。

 霊は火に弱いのである!


「熱い熱い熱い熱い! 死ぬっ! 死んでしまうっ! ぎゃああああああああああ!」

「いけるっ……!」


 このまま行けば除霊できるかもしれない。真はガッツポーズした。

 更に追い風が吹く。

 リンさんは叫び暴れ回るレイを見て、はっと落ち着きを取り戻した。


「お、おい雪江! きっこ! 見ろ! 攻撃が効いてるぞ! やるなら今だ!」

「……え? え? あ。 よ、よし今回だけは協力してあげる!」


 立ったままの気絶状態から復帰した雪江さんは、本能的に状況を察知し、リンさんと共にレイに駆け寄った。うわあん、とべそをかきながら、きっこさんも参戦する。


「熱っ! 熱っ! あ、痛いっ! 痛ッ! やめっ! やめてっ! どうして叩くんですか!? あ痛っ! 踏まないで! 痛い! 熱い! 死ぬぅ!」


 タ コ 殴 り で あ る 。

 

「死んでしまう! 本当に死んでしまう!」

「効いてる! 効いてるぞ!」

「おらぁ! あの世に行けやぁ!」

「おばけおばけおばけおばけ!」

「死ぬうううううううううううううううううううっ!」


 三人の妖怪による滅多打ち。

 本当にレイは此処で死んでしまうのか!?


「……って、そう言えば私、とっくに死んでたぁぁぁぁぁぁぁ! ドジったぁぁぁぁぁぁ!」


 うおおおおおお、と雄叫びと共に立ち上がるレイ。やたらとタフである。

 その迫力に気圧されて、というより恐れている幽霊という存在の反撃に、妖怪三人はきゃーきゃー悲鳴を上げながら退却する。


「ちょっと落ち着いて下さいよあなた達! 私は悪い悪霊じゃないよ!」


 三人の滅多打ちにより、頭の炎は消化され、何とか持ち直したレイが訴えた。

 一人、騒ぎに乗じてパーティーの料理を平らげていた真白さんと、未だに気を失っている瓜子さんを除いた全員が思った。


 自分で悪霊って言ってるじゃねぇか。




「なんやかんやで落ち着いてから、事情説明をし、なんやかんやでレイは206号室の住人となった!」

「ならねぇよ」




 なった。





~本日の現代××幽霊辞典~

【地縛霊】

土地に縛られた霊。土地自体に取り憑いているから、土地に近寄らないのが関わらないコツ。え? 勝手に入ってきて取り憑いてきたって? 燃やせばいいんじゃないかな?




※これは現代××幽霊辞典です。実在の××幽霊とは何ら関係はありません。本当の地縛霊のレイさんは、キュートでお茶目なプリチーガールだからこんなんじゃないし、燃やしちゃ駄目だよ!




地縛霊のレイさんは、ちょっぴりウザイ。いや、結構ウザイ。いや、相当ウザイ。ポルターガイストでは右に出る者がいないくらいの騒がしさ。炎でもお札でも十字架でも聖水でもお経でも追っ払えない厄介過ぎる悪霊だよ。実体化もするよ。最早ただの喧しい人だよ。でも悪い悪霊じゃないよ。でも、悪いのと嫌いなのとは全く別問題だよ。ちなみに、好きな食べ物は、人の金で食う飯だよ。

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