幼馴染「告白断ったらいじめられた!」 結果俺と仲良くしていたら隣のクラスは嫉妬の嵐でざまぁすぎるんだが
今日もいつものように、夕暮れの通学路を下校する。
平和だ。
今日は水曜日で授業が少なかったからな。俺の高校生活は特別変わったことが無く、こんな毎日を送る。極めて平和だった。
うん、平和だった。
「翔真ー! 聞いてくれない?」
静かな畦道を考え事でもしながらゆったりと帰ろうとした時、後ろから例の声がしてきた。
こいつは俺の幼馴染、渡辺涼花。
幼馴染ということもあって、帰り道がほとんど同じだからよく遭遇する。
「なんだよ、急に」
と言ってもほぼ毎日こんな遭遇の仕方だから驚くほどでもなかった。
今日もいつも通り軽く聞く程度で……。
と思っていたが、改めて涼花の顔を見ると、突然堰を切ったように涙が溢れ始めた。
ど、どうしたんだ? 俺が冷たい対応をし過ぎたからか?
「ごめんって。お、おい泣くなよ。俺が悪かったから。ちゃんと話聞くからさ」
「違うの……」
「え?」
「あのね、実はね、先月くらいに、クラスメイトの男子から告白されちゃったの」
あまりにも予想していなかった話の始まりに、思わず息が止まる。
「その時ちゃんと断ったんだけどね、それから、私が断ったことが嫌だったのか、脅してくるようになっちゃって」
「脅してくる?」
「私の悪い所を晒しあげるみたいな感じでさ、断った事がクラス中にも広まっちゃって……」
なんてダサい男子なんだ、というのが最初の感想である。
女の子にフラれたくらいで、周りを巻き込んでまでして引きずるなんて。
「だから実は今、凄くいじめられてるの」
「は?」
「その子は色んな人と仲良いから、男女関係なく皆で私を悪者にしてきて、辛いの。助けて」
涼花のクラスメイトの男子と言うと、隣のクラスの俺からしたらあまり詳しくない。
ただ、誰であれどんな理由であれ、たかがフラれたくらいで人を傷つけることは、許せないことだ。
ましてや俺の幼馴染に対してだなんて。
幼馴染の涼花は小さい頃から、他の子と違う空気を纏っていたために一目置かれていた。
まあ、単に可愛くて、周りからよく親しまれていたからだと思う。
だが、俺自身小さい頃よく遊んでいた幼馴染としか思っていなかったからか、ずっと、彼女に恋愛的な感情を抱いたことはなかった。
今になって無邪気な涼花はどこかへ行き、彼女は大人びて非常にモテるようになった。
運動神経は依然として良いままだし、勤勉で引け目がない。
同級生達はそんな完璧な涼花の幼馴染が俺であることは知っているくらいで意識したことはないらしい。
それほど、隣に並ぶのが不釣り合いなのかと卑屈することもしばしばある。
そう。
先程、恋愛的な感情を抱いたことはないと言ったが、本当は凄く気になっていた。
小学校、中学校の初期までは何ともなかったただの幼馴染だったのに、歳を重ねるにつれてわんぱくで無邪気だった涼花が、心も身体も大人びていくことに、日々ドキッとしていた。
幼馴染であることがひとつのコンプレックスであるかのように、運命に感謝した日もあった気がする。
度々、脳みそピンクな他クラスの男子から涼花の連絡先やら諸々を聞かれるのだが、全員ぶっ飛ばしてやりたいくらいだった。
結果的に、周りにはただの幼馴染だと誤魔化しながら、ずっと気になる目で追うことになっていたのかもしれない。
「その涼花がフった男子は、俺の知ってる人?」
「多分。タクミって人」
心の中で「あー、あいつか」という声が流れる。
タクミは、対して気になるとかいった感情を抱くことのない奴だった。
「一人で暴れるんじゃなくて、周りを巻き込むのがタチ悪いんだよな」
「うん。特に、私と仲が良かった女の子達も私を責めてくるのが辛いよ」
「クラスに助けてくれる人はいないの?」
「いないから翔真を頼ってるんだよ……!」
すると涼花は、俺に身体を預けるように、ゆっくりとハグをしてきた。
そしてまた、ぽろぽろと涙を流して、上目遣いでこちらを見てくる。
子供の頃の風格はどこかへ行ってしまったのか、あの時とは全くの別のベクトルの可愛さがあった。
そんな彼女が今俺の身体を頼りすがっているという事実に、ドキドキが止まらない。彼女の頬に鼓動が伝わっているのが自分でも分かった。
こんなの全く慣れていなかった俺は、彼女を優しく受け入れることしか出来なかった。
「涼花。正直言って、そのいじめ集団はダサい。決して、ちゃんとした理由があれば良いという訳ではないが、そんなしょうもない理由のいじめは相手にしない方が良い。それでも辛かったら、隣の、俺の教室来ても全然良いから」
「うん……ありがとう」
「俺のクラスの女子にも、知り合い居るだろ?」
「……いる」
「じゃあ、大丈夫だ。俺のクラスは、男子も良い奴ばっかりだしな。いつでも来ていいし連絡していいからな」
「うん、ありがとう……! じゃあ、またね」
いつも涼花と帰る時に別れる交差点で、夕陽を背に手を振る彼女の姿は、初めて見るような新鮮さがあった。
少しは、笑顔を取り戻せたかなと小さく安心する。
家に帰って椅子に座り、再び考え直す。
そして、LINEで親友の武斗に、隣のクラスのことを、涼花の件も併せて相談してみた。
するとすぐに既読が着いて、それな、と返信してくる。
人との交流の輪が俺よりも二回りほど大きい武斗でさえ、隣のクラスのメンバーには魅力を感じないみたいだ。
『この際だから言うわ。実はな、あっちのクラスのいじめ集団の中にいる女が、お前に告白しようとしてるんよ』
「いやお前それ、先に言うんだな」
『でも、もう良いだろ? お前、今の調子じゃ断るだろうし』
「そりゃあな。そんな害悪集団の一味には興味ないよ」
『ちなみに明日らしいぞ』
なんでこいつはそんなに詳しい情報を握っているのか不思議だったが、今は気にしないで話を続けた。
「明日かよ。まあ盛大に断るよ。いじめられるかもしれないけど」
『はは、皮肉だな。まあでもお前、たとえどのクラスの女子に告られても断るだろ』
「そんな女嫌いなタイプって思われているのか? 俺って」
『いやそういう訳じゃなくて。もう、普通にバレてるぞ』
えっ、とLINEでメッセージを送り合っているのに声が出た。
「どういう意味?」
『お前、涼花と付き合うんだろ』
俺はただの涼花の幼馴染――――と思いかけたところで思考が止まった。
慌てて今日のことを思い出す。そして、ポッという音が鳴ったかのように、瞬時に顔が赤くなる。
「まさか、見たのか」
『ん? 見た? 知らないなあ。お前、それ以上言うともっと状況が悪くなるって予想が着くけど大丈夫かな?』
こいつ。
俺はただの幼馴染だ、と何度も伝えてきているのに。
当たり前のように距離を近付けようとしてくる。
……だが、俺の中でも明らかな矛盾に気付いていた。
あんなこと、ただの幼馴染にはできないよなあ、と。
思い出してはまた、頬が紅潮する。
「と、とりあえず、涼花の話は後にしてくれよ。明日俺告られるんだろ? どうすりゃいいんだよ」
『まあまた今度ゆっくり話聞くよ。明日はお前のしたいようにすれば良い。頑張れ』
武斗はそう言ってから、ふざけたスタンプだけ送って返信しなくなった。
スマホを机の上に無造作に置いて、ハァと小さくため息をつく。
目を閉じて椅子に深く座ると、瞼の裏に武斗の顔と涼花の顔が同時に浮かび上がった。
涼花の、傷の入った笑顔が脳内で再生される。
俺が彼女にしてあげられることは何か、小さく考える。
幼馴染として――――。
それで良いのか?
答えはもっと、身近にあるもののはずなんだ。
恐らくこの気持ちは、ただの幼馴染だなんて言葉では片付かない。
俺の正直な気持ち。
それはきっと、武斗も察していたことなのだろう。
涼花は何をしたい、何を求める。
俺が本当にしたいと思う気持ちは――――――
翌日の昼休み――――。
「〜〜だから、私と、付き合ってもらえませんか」
前半から後半まで、ほとんど聞いていなかった。
聞きたくなかった。
無駄に長く話すこの女に、面倒はおろか、うっとうしさまで込み上げてくる。
「ごめん。俺は、俺にとって大事な人を大切にしたいから」
手を出したまま真っ直ぐ下を向いていた彼女はすぐに顔を上げ、今にも泣きそうな顔で抗議してきた。
「なんで……? 私は大事じゃないってこと? LINEでもリアルでも沢山話したじゃん!」
「自分のクラスメイトを大事にできない人を、誰が大事にしようと思うんだよ……! お前らのクラスで好き勝手やってればいいじゃねえか! …………悪いが、俺にはもう関わろうとしないでほしい」
彼女は膝から崩れ落ちて泣き喚いたが、俺はそんなのお構い無しにその場を離れる。
彼女は、惨めよりも醜いが強かった。
足早に階段を降りて教室へ戻る。
俺は普段、人に怒るようなタイプの人間ではなかった。
けれど、今回の件で逆に勇気が出た。
俺は、大事な人のためなら怒れる。
武斗の言う通りに、俺はしたいことをした。
だから今、心も身体も正直だ。
正直な足は、自教室の前を通過してひとつ隣の教室へ進む。
「涼花!」
「ふふっ。いつでも来ていい、って言ってたくせに、教室まで迎えに来るんだね、翔真」
俺が来ることを待っていたかのように、入口に温かい眼差しを送る涼花の顔は、昨日よりも一段と明るかった。
その笑顔はもう、傷がついているようには見えなかった。
宝石のような笑顔が、俺の心をドクンと動かす。
俺の想いは、ただひとつに固まった。
「まさか本当に付き合うとはな」
「お前に、したいようにやれって言われたから」
武斗は頭の後ろで手を組み、満足そうな表情を見せた。
「いやー、あの時から応援しておいて良かったなー」
いかにも、後ろから腕を組んで見ていたみたいな言い分である。
「まあただ、やり過ぎかな。お前に告った女の子、あの後結構メンタルに来たらしく、隣のクラスで問題になったらしいぞ」
「……マジか。って、またもやお前はなんでそんなに詳しいんだよ」
「そんでお前、その直後にノンタイムで教室に飛び込んでさ、涼花と付き合っちまうって。あっちのクラスじゃ凄いことになってるみたいだぜ」
「そんな大袈裟な」
身近に二つの告白があってから一週間が経った昼休み。
いつもは騒がしいくらい人がいるフリースペースが、今日は人が少なく静かだった。
武斗は紙パックのジュースを飲み干すと、腕に提げていたコンビニの袋に投げ入れた。
何気ないように言っているけれど、武斗の言葉に背中を押されたのは確かなのである。
まあ、それを言葉にするのも照れくさかったから、心の中で小さく礼を言った。
「よし、戻ろうぜ、教室」
「あぁ」
すると、涼花が入口のドアからひょこっと顔を出した。
「やっぱり俺だけ先に戻ろうかな」
「おい武斗。一緒に居てくれよ」
「翔真ーー!」
涼花は俺に気付いて、何も気にせず飛び付いてくる。ペットか何かか。
だが、昔の無邪気な彼女が少し帰ってきたかな、と思うと悪くはなかった。
「教室に居なかったから怖かったんだよ。私のせいで、翔真までいじめの標的になってたらどうしよう、ってさ」
「いいよ別に。いじめられても無視してりゃ良いんだし」
正直、集団でないと価値を見い出せないような輩にはほとんど興味がなかった。
そんな話にならない集団を相手にするより、目の前の大事なものを眺めている方がよっぽど快く過ごすことができる。
「まあ、涼花の言う通り、翔真も一応気をつけた方がいいぞ。今や、お前に対しての恨みをもって戦いを起こそうとしてるやつも居るみたいだしな」
「つまらん。嫉妬だろ」
聞き慣れたチャイムが鳴り響く。
「行こう」
涼花は今日も、笑顔でいてくれる。
だから俺も、自然とポジティブになれる。
二人で前向きになれる。
俺にとってまた新しい平和が、始まった。
お読みいただきありがとうございました!!
モチベになりますので、星、ブクマ、感想など、ぜひぜひお待ちしております!




