『廃村の不知火』
息抜きに、
短編の小説を書きました。
雰囲気は、現代の田舎に近い感じで、廃村探索ホラーと和風ファンタジーです。
登場人物の主人公は、白髪の青年"不知火"。彼は不死身で銃などを所持しています。ヒロインの護衛。
ヒロインは、金髪の少女"燐火"。廃村巡りに置いて重要な結界師。守られる存在。
仲間は、黒髪の成人女性"十"。銃などを所持する付き人。車の運転や組織との連絡役。人狼族で不知火達とは仲間。
この三人の廃村探索の話です。
ーーーー 杉沢村 ーーーー
現代。
青森の山奥に存在したとされる廃村――杉沢村。
そこでは、
“鬼火が増え続ける”という不可解な現象が確認されていた。
調査に向かうのは、三人の異能者。
不死身の青年・不知火。
結界師の少女・燐火。
人狼族の女・十。
山道を走る大型のバンに、その三人の姿があった。
山道は、途中から舗装が剥がれ、ひび割れたアスファルトの隙間から、草が無遠慮に伸びている。
エンジン音だけが、やけに響いた。
「……この先、圏外になります」
ハンドルを握る女――十が、淡々と言う。
バックミラー越しに、後部座席の少女を一瞥した。
「燐火、大丈夫?」
「うん……まだ、平気」
少女は窓の外を見ていた。
金色の髪が、曇天の光を鈍く反射する。
その瞳だけが、明らかに“別のもの”を見ていた。
「……境界が、濃い」
ぽつりと、燐火が呟く。
その瞬間。
助手席の男が、ゆっくりと目を開いた。
「来たか」
白髪の青年――不知火。
眠っていたはずなのに、最初から起きていたような声だった。
「どの程度だ」
「……村の手前から、もう重なってる。普通じゃない」
燐火の声が、ほんのわずかに震える。
不知火はそれを見て、短く息を吐いた。
「なら、降りた時点で“中”だな」
「ええ。今回の記録とも一致してる」
十が補足する。
「三年前、探索に入った民俗学者三名。帰還者なし。
最後の通信記録は――“灯が増える”」
沈黙が落ちる。
やがて、不知火が笑った。
「いいね。分かりやすい」
「笑い事じゃないわよ」
「分かってるさ」
だがその声音には、わずかな“昂り”が混じっていた。
死なない男にとって、危険とは退屈の裏返しだ。
車はやがて、朽ちた鳥居の前で止まった。
──そこが、“入口”だった。
⸻
降りた瞬間、空気が変わる。
湿度でも、温度でもない。
もっと、根本的な“層”が違う。
「……いる」
燐火が、小さく呟く。
鳥居の向こう。
誰もいないはずの廃村に、“気配”だけが満ちている。
風は吹いていない。
だが、軒先の風鈴が鳴った。
──チリン。
「歓迎されてるな」
不知火が銃を抜く。
「それ、冗談に聞こえないのよ」
十も同時に、安全装置を外した。
燐火は、そっと両手を重ねる。
指先に、淡い光が灯る。
「……結界、張るね」
「頼む」
その瞬間だった。
村の奥。
崩れかけた家屋の隙間に、灯が一つ、揺れた。
──いや。
一つじゃない。
二つ。
三つ。
四つ。
増えていく。
「……ねえ」
燐火の声が、かすれる。
「あれ、“灯”じゃない」
「何に見える?」
不知火が問う。
燐火は、ゆっくりと言った。
「……“見てる”」
その瞬間。
全ての灯が、同時にこちらを向いた。
ーーーー 鬼火 ーーーー
──パァンッ!
乾いた銃声が、静寂を裂いた。
銀の弾丸が、灯を貫く。
最初に動いたのは、不知火だった。
「下がれ、燐火!」
撃ち抜いたはずの“それ”は、消えない。
灯は、揺れながら。
ゆっくりと、こちらへ歩いてくる。
「燐火、結界を強化しろ」
燐火は小さく頷き、
再び、両手を前に突き出し、重ねる。
淡い光が三人を優しく包み込む。
「あの灯、人の形をしている」
十の冷静な声。
「だが、顔がない」
不知火の冷静な分析。
「……なるほど」
不知火が呟く。
「“鬼火”ってやつか」
言い終わった直後。
背後の鳥居が、軋んだ。
振り返る。
そこにも、灯。
もう、逃げ道はない。
⸻
「……完全に“中”ね」
十が低く呟く。
燐火は、両手を胸の前で重ねたまま、
動けずにいた。
「……視線が、増えてる」
見られている。
四方八方から。
だが、そこに“顔”はない。
ただ、揺れる灯——鬼火だけがある。
不知火は一歩、前に出た。
「いい。来いよ」
その瞬間。
鬼火が、一斉に動いた。
──パァンッ!
銃声が、乾いた山に響く。
撃ち抜いたはずの鬼火は、
霧のように揺らぎ、形を保ったまま近づいてくる。
「効いてない!」
「分かってる!」
十が応じると同時に、地面を蹴った。
骨が軋み、筋肉が膨れ上がる。
瞳が、獣の色に染まる。
──獣化"人狼"。
跳躍。
一瞬で鬼火の群れの中へ。
「ッ……核、ある!」
嗅ぎ分けた。
血の匂いではない。
もっと古く、粘つくような“殺意の残り香”。
その中心。
家屋の奥。
“それ”がいた。
ーーーー 鬼火の主 ーーーー
人の形をしている。
だが、こちらも顔はない。
首の上には、ただ大きな鬼火が揺れていた。
その周囲を、無数の小さな鬼火が巡っている。
「……これが、主か」
不知火が呟く。
その瞬間。
主の鬼火が、大きく脈打った。
──ズズッ
地面が、軋む。
次の瞬間。
“不知火の身体が、消えた”。
吹き飛ばされたのだ。
壁を突き破り、瓦礫の中へ叩きつけられる。
「不知火ッ!」
燐火が叫ぶ。
だが――
「問題ない」
瓦礫が、動いた。
血を流しながら、不知火は立ち上がる。
折れたはずの腕が、軋みながら戻っていく。
「……なるほどな」
口元に、笑み。
「いいじゃないか」
再び、一歩。
前へ出る。
鬼火が、ざわめく。
“死なないもの”に対する、本能的な違和感。
⸻
「十!」
「分かってる!」
獣の姿のまま、十が主へ突っ込む。
だが――
届かない。
触れる寸前、鬼火が弾け、空間が歪み、
距離が、伸びる。
「チッ……空間干渉……!」
「時間を稼げ!」
不知火が叫ぶ。
その身体が、再び吹き飛ぶ。
だが止まらない。
立つ。
進む。
壊される。
それでも、前へ。
その繰り返し。
やがて、鬼火の動きに“癖”が生まれる。
不知火を優先して狙うようになる。
それは、狙い通りだった。
⸻
「今だ、燐火!」
燐火は、目を閉じる。
深く、息を吸う。
そして――
「……結ぶ」
指先に、光が灯る。
空間に、線が走る。
見えない“境界”を、なぞるように。
だが。
「……ダメ……!」
燐火の声が震える。
「範囲が……広すぎる……!」
村全体。
それを閉じるには、力が足りない。
「なら、中心を固定しろ!」
不知火の声。
「核を縫い止めろ!」
「でも……!」
「いいからやれ!」
その一瞬の迷いを、断ち切るように。
不知火は、自らの胸を撃ち抜いた。
──パァンッ!
血が、噴き出す。
赤黒い、不自然な色。
それはただの血ではない。
“死なないもの”の証。
不知火は、そのまま主へ突っ込んだ。
ーーーー 決着と犠牲 ーーーー
「ッ……!」
鬼火が、揺らぐ。
血が触れた瞬間、歪みが走る。
概念に、ノイズが入る。
殺人鬼の悪霊が、初めて“理解できないもの”に触れた。
「……終われないってのは、怖いだろ?」
不知火が、笑う。
そのまま、両腕で“それ”を抱き締めた。
逃がさない。
離さない。
死なない肉体で、死の塊を拘束する。
⸻
「燐火!!」
十の叫び。
燐火は、目を開く。
震えは、消えていた。
「……分かった」
指が、動く。
空間に、術式が走る。
円が重なり、線が結ばれる。
村の中心。
不知火と、悪霊。
そこを起点に。
「――封」
光が、広がる。
村全体を覆うように。
鬼火が、次々と固定される。
逃げ場は、ない。
出口は、閉じた。
⸻
「……終わった……?」
燐火が、呟く。
「ああ……成功だ」
十が答える。
だが、その視線は――前を見たまま。
不知火は、振り返らない。
「不知火……?」
燐火の声。
届かない。
いや、届いている。
それでも、彼は振り向かない。
「こいつは、報われなかった魂だ」
「昔の俺みたいに…」
不知火の静かな呟き。
「同情してはダメよ」
十の言葉は不知火のは届かない。
「俺は、しばらくこいつといる事にするよ」
ただ優しく、"それ"を見つめる。
「……必ず、迎えに行くから!」
燐火の頬に涙が伝う。
そして。
ただ一言。
「行け」
不知火は、
静かに、そう言った。
⸻
次の瞬間。
燐火と十の身体が、外へ弾き出される。
結界の外。
現実へ。
崩れた鳥居の前。
さっきまでの“気配”は、もうない。
ただの、廃村の入り口。
「……不知火……!」
燐火が振り返る。
だが、そこにはもう何もない。
閉じられた。
完全に。
⸻
静寂。
すべてが、止まる。
鬼火は揺れない。
風も、音もない。
ただ。
不知火だけが、そこに立っていた。
悪霊を抱えたまま。
動かない廃村の世界の中で。
⸻
数日後。
記録は封印された。
杉沢村は、再び“存在しない場所”となる。
誰も近づかない。
誰も知らない。
だが、金髪の少女が一人、
そこに姿を見せるという。
それも、今では数年前の話。
山の奥。
夜になると、時折――
ひとつだけ。
静かな灯が、揺れるという噂がある。
それは鬼火ではない。
恐怖ではない。
消えない意志。
終わらない守護。
名を持つ灯。
その名は、——不知火。




