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【第六話】つけびして煙喜ぶ火薬たち

「司祭様は、貴方を疎ましく思っておられるようでした」



大聖堂の一室

祭服に身を包んだ少年──シアンがそう告げると、歳経た神父は人生の総てを喪失したかのように表情を失い、その場に力無く膝を突いた

その横を芝居がかった歩き方でシアンが通り過ぎ、神父に背を向けたまま、続ける



「教会は、権謀術数の世界……」


「友好的に視えても、誰が貴方に牙を剥いて居るか、実は僕にさえ解らないというのが実情です」


そう言うと、シアンは子を慈しむ母のように優しい笑みで、崩折れた神父の頭を抱いた



「ですから、僕を上手く使って下さい」


「僕は、教会のしがらみからは解き放たれた存在です」



「誠に善なる者の、少しでもお役に立ちたいのです」


老神父は涙を流すと、幾度も少年に「ありがとうございます」と言った



「ありがとうございます、聖少年様」


神父がハンカチで涙を拭き終える頃、部屋の扉を開く者が居た

長身の若者で、神父達に劣らず美しい衣を纏って居たが、その表情はヘラヘラとしながらも、今日に限っては何か複雑そうにも視えた



「僕の数少ない協力者です」


「商人をされている方で、ハイジさんと言います」


ハイジが困った様な笑いを浮かべる

多少の不審さがそこには在ったが、生涯最大の窮地を救われたと信じて疑わない神父は、それをおかしいとは思わなかった



─────



「またこんな金にもならない遊びをして居る訳なの?主君」


「それとも……」


聖堂の廊下を歩きながらハイジは、隣を歩くシアンに言いかけて──言葉を途中で飲み込んだ


盗み聞きを恐れた訳では無い

まさに『権謀術数』の徒であるハイジは、そんな失敗は犯さない

それよりも、眷者である自らの上位存在への不敬を恐れての沈黙だった



「──『魔族はそれが仕事なのか』とでも、言いたげだね」


「いや、オレはそんな事は……!」


「…………仕事だよ」


ハイジの予想に反し、シアンは暗い表情を視せた

こんな事は初めてだった



「僕たち帰死人は、その身体能力から強大な存在と思われているけど」


「この世の人間総てが、一斉に僕らを滅ぼすつもりになった場合、実は数日と保たない計算なんだ」



「なるべく、人間総てが細かい派閥に分かれて、互いに疑ったり、争っててくれないと………」


「僕ら少数派は、直ぐ生きる権利すら無くなっちゃうんだよね」



─────



「こんなに教会勢力の意識が低いとは思わなかった!」


緋色が、どすどすと聖堂の廊下を外へ向けて歩いていく


教会勢力への提案は失敗に終わった

帰死人討伐の助力を得る為、二人の少年──アオイと緋色はこの場所を訪れた筈だったが、返ってきた返事は「緊急性が低い」の一言で、そこから先は例外なく中身の無い、結論ありきの言い訳の連続だった



「私の故郷は──」


「信じられない数の帰死人に攻め込まれて、滅ぼされたんでしょ?」


うんざりした様子でアオイが遮る



「その言い方だよ」


「この街は、別に数百数千の帰死人になんて攻め込まれてない」


「『まだ無事』というだけだ!」


緋色は怒りの限界を迎えたらしく、ついに周囲も気にせず声を上げた


平素なら緋色は、その長く艷やかな髪から女人と間違われる事も多い

事実、彼自身も過去に負った心の傷から、男として扱われる事を嫌う

しかしながら、彼は根本的には傭兵であり、武骨で粗暴な精神の持ち主でも在った



「物事には、やり方ってものが有ってね……耳を貸して」


苛立ちながらではあるが、アオイより背の高い緋色は屈んで耳を貸す



「言ってみろ」


「簡単だよ……」



「『帰死人になりすまして、無辜の市民を殺して回るんだ』………!」



────



最初に騎士さまに保護された時、ぼくは精神の、言語を司る部分すら崩壊して、浮浪者になって居たそうです


そのせいか、過去の記憶はあまり有りません


「切っ掛けがあれば思い出せる」と、お医者様は仰います

しかし、その手掛かりすらも無いのです


数少ない判明して居る事として、ぼくは糖蜜種の産まれで、貴族さまに仕える身分の存在だったようです

確かにぼくの躰は粘液質で、甘い香りもします


騎士さまは、ぼくに「過去は思い出さなくて良い」「お前にはこれからを生きて欲しい」といつも仰います

でも、本当はぼくは自分の過去について、知りたい気持ちもあるのです


今日は手掛かりを探して、聖堂に来ました

聖堂は、僕のような身寄りの無い平民にも、自由に開かれて居て………



「そういう事だったのですね、シアン」


聖堂の往来は絶えず相当数の人間を生き来させているが、隣を通り過ぎた二人組の名前に、ぼくは『何か』を感じて、急に振り向いた


ぼくの事など当然気にも留めず、小柄な少年が身なりの綺麗な、長身の従者と思しき若者と通り過ぎていく


シアン………?

そして、あの二人……




そして、ぼくは記憶を取り戻しました


騎士さま、ぼくは行かなくてはなりません

あの二人に『ご主人さまにしたのと同じ事をしてあげる為に』です

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