第99話 音のある学院
鐘が鳴って、休み時間に。
椅子が引かれる音。
ノートを閉じる音。
誰かが息を吐いた。
(休み時間だ)
ボクはペンを置いた。
急ぐ理由はない。
「ね」
ロランスが話しかけた。
「なに?」
「疲れてない?」
「大丈夫」
「そっか」
ロランスはそれだけだった。
彼女は立ち上がって、後ろの席の令嬢と少し話し始める。
何を話しているんだろうって、盗み聞きしたいけれども、それはやめておいた。
アデリナ様は、ノートを閉じてから一拍置いた。
ブランカ様が何も言わず、席に立つ。
二人はそのまま廊下へ出ていった。
(静かだ)
教室の前の方。
ゼナイド様はまだ席にいる。
姿勢は崩さない。
ノートを一度見直してから、丁寧に閉じる。
ペンを揃える。
立ち上がる。
ボクは誰とも視線を合わせず、教室を出ていった。
意味は、ない。
ただの動作。
窓の外。
風で木の葉が揺れる。
誰かが笑っている声。
廊下を走る足音。
教授の注意。
いつもの学院。
ボクは立ち上がる。
席を離れる。
特別な事は、何もない。
(それでいいかな)
次の鐘まで、まだ少しある。
ただ、それだけの休み時間だった。
「始まったね」
次の教室へ行って、授業を受ける準備をする。
アデリナ様が隣に座っていた。
ロランスが反対側に。
「そうだね」
鐘が鳴って授業が始まっていく。
次も順調に授業を受けていた。
アデリナ様が隣で受けていたんだけれども、普通な感じ。
さっきと同じ席。
違和感は全く感じなかった。
「お昼だね」
この授業が終わったので、ボクは食堂へ。
ロランスは、近くにいたゼナイド様の取り巻き令嬢と会話したので、ボクだけで。
メニューの載ったトレイで近くの座席へ。
「いただきます」
ボクはいつものように食べていく。
美味しい。
「ここ、いいかしら」
「ゼナイド様、は、はい……!」
ボクの隣にゼナイド様が座った。扇子で口元を隠しながら。
当然だけれども、頷く。
ちょっと緊張しちゃうね。
(ロランスがいたら良かったんだけど……)
タイミングが合わなかったのか、ロランスは別の席へ。
別の令嬢と一緒に。
ゼナイド様は平然とご飯を食べていく。
「きょ、今日は隣で食べるんだね」
「ええ。取り巻きである貴女とでしたら、食べやすいと思いましてね」
こっちは緊張するけれどね。
でもゼナイド様は気にしてはいなかった。
「ポラリス、ロランスはピアノを弾けるって、聞いたことがあるかしら?」
「昔、何かをやっていたくらい」
昨日会話の中で言われたっけ。
「そうなのね。まあ、それくらいに留めるわね。彼女も」
「だからボクも、それ以上は聞かないでいたんだけど」
ゼナイド様は扇子で口元を隠しながら話していく。
「まあ、彼女も教養として学院へ入学前に弾いていたくらいだから」
令嬢の教養って、色々にわたるよね。
「だから昨日の音楽会でも、感覚は持っていたはずよ」
「へぇ~。聞いてみたいけれど、難しいよね」
ずっとやっていないから。
弾き方を忘れているかも。
「あら、貴女にならするかもしれないわ」
「ぼ、ボクに?」
(どうして、ボクなんだろう。ロランスは、他にも友達がいるのに)
微笑みながら、扇子を半開きでゆるやかに仰いでいる。
ボクになら演奏してくれるって。
素人なんだけれど。
「貴女を信頼しているから、酷いことを言わないでしょうし」
「そうだけどね」
言えるとすれば、上手かったねくらい。
複雑な気持ちは伝えられないかな。
「それに人の目がある場所では、彼女は弾かないでしょう?」
多分そうだろうね。
放課後の音楽室とかになるかな。
「だから言ってみなさいな。今日くらいは出来るかも知れないわよ」
「分かった」
ゼナイド様に言われてっていうのは、受け身すぎるけれどね。
でも、そこまで言われたら聴いてみたいかも。
「さてとポラリス、食べなさいな。この後の授業に遅れるわよ」
「う、うん」
ボクは残りのパンと魚のソテーも食べていく。
ゼナイド様はその間に食べ終わっていって、席を立ち上がっていた。
少しして食べ終わったから、ボクも立ち上がることに。




