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小学生男子だった僕、悪役令嬢の取り巻きに転生したのに、舞踏会で料理を食べてただけで王子様に選ばれました  作者: 奈香乃屋載叶(東都新宮)


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第98話 朝の景色

 校舎の中はいつも通りだった。


「ポラリス、おはよう!」


「ゲオルギ様」


 教室に向かう途中に、ゲオルギ様とばったり出会った。

 元気そうな感じだから、ボクも嬉しくなった。


「ごきげんよう」


「ロランス嬢も元気だね」


 一緒に歩いていたから、ロランスも挨拶する。


「君って昨日の音楽会に行ったんだっけ?」


 当然その話題になるよね。


「そうだよ」


「どうだった?」


「良かったよ」


 ゲオルギ様に訊かれるけれど、ボクにとってはそれしか出てこない。

 ロランスだったら、もうちょっと出てくるけれど。


「俺も見に行ったけれど、エーベルトが演奏するからね」


 確か食事会で一緒だったから、仲が良いんだね。


「やっぱり上手いなって思ったよ」


「あたしもそう思いました」


 ロランスが付け加えるように言う。


「じゃあ、俺は向こうの教室だから」


 簡単に会話は終わって、それぞれの教室へ。

 鐘が鳴って、朝の授業が始まった。

 教室はいつも通りで、椅子を引く音。

 ノートを開く音。

 誰かの小さな咳。


(静かだね)


 前の席では、ゼナイド様が姿勢を正して座っている。

 背筋がまっすぐで、視線は黒板へ。

 余計な動きは一切無い。

 その後ろ、ボクの隣にロランス。

 反対側にアデリナ様。アデリナ様の隣にはブランカ様。


(この並び、もう普通になってきた)


 アデリナ様は、ノートを丁寧に取っている。

 時々、ペンが止まる。

 でも、顔は落ち着いている。


「ね」


 小さく、ロランス。


「なに?」


「今日の、教室の空気、揃ってる」


 確かに。

 誰も浮いていないし、誰も騒いでいない。

 カルモナ教授の声が、淡々と響く。


「この文章であるが、初夏の雰囲気を出しながらーー」


 黒板に文字が書かれる。

 チョークの音。


(頭に入ってくる)


 集中している、というより。

 邪魔がない。

 ペン先が、ほんの一瞬だけ止まった。

 ただ何事もなかったように、書き続ける。

 ふと、前を見ると。

 ゼナイド様が、軽く頷いていた。


(何に?)


 教授の説明に、か。

 それとも、教室全体に?

 分からないけれど。

 その動きひとつで、空気がさらに整った気がした。

 アデリナ様が、指名される。


「ではアデリナ嬢、分かるか?」


「はい」


 声は澄んでいた。

 震えはない。


「この部分において主人公の心情をーー」


 教室が静まる。

 聞く空気になる。


(ちゃんとしてる)


 ブランカ様がいるけれども。

 ゼナイド様が前にいても。

 アデリナ様は、崩れていない。

 回答が終わる。


「よろしい」


 教授が頷く。

 その瞬間。

 ゼナイド様が、ほんの少しだけ微笑んだ。


(見てる)


 評価じゃない。

 賞賛でもない。

 ”予定通り”という顔。

 ノートに視線を戻す。

 ペンが動く。

 ロランスが、行を指で示してくれる。


「そこ、次の段落になるよ」


「ありがとう」


 それだけ。

 椅子に座り直して、授業をそのまま受ける。

 授業は、何事もなく進む。

 誰も注意されない。誰も取り残されない。


(事件、ゼロ)


 なのに。

 不思議と、目が離せない。

 ゼナイド様の背中から。

 ーー朝の授業は、静かに終わった。

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