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小学生男子だった僕、悪役令嬢の取り巻きに転生したのに、舞踏会で料理を食べてただけで王子様に選ばれました  作者: 奈香乃屋載叶(東都新宮)


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第96話 音の低めの夜

 寄宿舎へ戻ると、もう夜になろうとしていた。

 窓の外は橙色よりも藍色の方が強くて、昼間よりも静か。


「先に着いたね」


「うん」


 食堂は、音楽会の後だからか少し空いていた。

 聴いていない人はもう食べ終わっているのかな。

 皆、声が控えめ。

 いつもより、足音が軽い。

 トレイを取る。

 パンとスープ。

 それに今日は煮込み料理。


(重くない日)


 席に座る。

 向かいではなく、並び。


「いただきます」


 最初は、何も話さない。

 スープを一口。

 温度が、ちょうどいい。


(ちゃんと、お腹が空いてた)


 昨日は、よく分からなかった。

 今日は、分かる。


「音楽会のあとって」


 ロランスが、ぽつり。


「お腹空くよね」


「うん」


 それだけ。

 でも、納得できた。

 パンをちぎって、スープに浸す。

 口に入れる。

 静か。


(音が、まだ残ってる)


 頭の奥で、弦の音。

 オルガンの低音。

 でも、邪魔じゃない。


「眠くなりそう?」


「少し」


「それ、いいやつだね」


 ロランスは笑った。

 小さく。

 やがて食べ終わった。


「ポラリス嬢達は、先に食べたのですね」


 入れ替わるようにやってきたのは、アデリナ様。

 微笑みながら、トレイを置きながら近くの席へ。


「アデリナ様は今からなんだね」


「ええ。余韻を楽しんでいましたので」


 余韻かぁ。

 面白そうだね。


「また明日、ですわね」


「うん」


「おやすみなさい」


 ボク達は席を立ち上がって、お皿を下げる。


「じゃ、部屋戻ろっか」


「うん」


 廊下は静か。

 話す人も少ない。


「ね」


 ロランスがぽつりと話しかける。


「なに?」


「今日の音楽会、良かったよね」


 改めて同じ事だけれども。


「そうだよね」


 ボクも同じ返事をする。

 聴いていて、かつての記憶も思い出しちゃったし。


「あたしもいつか、演奏やってみたいな」


 ちょっと何かを考えながら、ロランスは呟いた。


「ロランスって出来るの?」


「ちょっとは、ね。昔、少しだけ触ったことがあるだけだよ」


「へぇ~、すごいね」


 ボクなんて出来ないから。

 合唱するくらいしか出来ないよ。


「まぁ、あたしは聴く方が良いからね」


「ふうん」


 確かにそっちでも良さそう。


「そういえば、今日はさ」


 ロランスが話題を変えた。

 少しの間が出来る。


「ちゃんと終わった感じする」


 その言葉が、しっくりきた。


「うん」


 本当に、そうだった。

 部屋に戻る。

 扉を閉める。

 制服を脱ぐ。

 いつもの部屋着。

 ベッドに腰掛ける。

 疲れは、ない。


(不思議)


 歩いた。

 聴いた。

 人と話した。

 でも、消耗していない。


(アデリナ様の顔、今日は思い出しても苦しくない)


 布団に入る。

 明かりを落とす。


(今日は、何も考えなくていい)


 目を閉じる。

 音は、もう遠い。

 代わりに残っているのは、安心だけ。


(おやすみ)


 そう思ったところで、意識は静かに沈んでいった。

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