第95話 音楽会の余韻
それから数曲、演奏が行われて音楽会は終わった。
曲はどれもこっちの世界で聴いたことがあるもの。
当然だけれども、元の世界で聴いたクラシックは演奏されないし、楽譜にも存在しないと思う。
拍手が完全に収まって、ざわめきが戻り始める。
「……ね」
ロランスが話しかける。
落ち着いた感じで。
「なに?」
「今、喋りたくない感じでしょ」
「うん。まだ音が残ってる」
頭の中で今日演奏された曲が、何度も繰り返していた。
美しいからかな。
「だよね」
それからボク達は立ち上がるけれども、急がなかった。
他の生徒達が出ていってから、少しして出ていく形で。
扉を出ると、空気が一段軽くなる。
少しだけ涼しい空気を感じた。
「外、静かだね」
ロランスと一緒に廊下を歩いていく。
ゼナイド様やアデリナ様は、ボク達よりも先に出ていっている。
「中より落ち着くかも」
徐々に落ち着いたけれども、中では緊張していたから。
今は完全に気持ちが楽になっている。
「音楽家の後って、こんな感じになるんだ」
「非日常の出口、みたい」
「いい表現だね」
ロランスはにっこりとしながら、ゆっくりと歩いていく。
「あっ」
「殿下!」
曲がり角のタイミングで、リュカ殿下と出会った。
偶然だったけれど、驚いてしまう。
殿下は微笑みながら、ボク達を見ていた。
「ポラリス嬢達も音楽会に行っていたんだね?」
「は、はい」
突然だったからボクは緊張した感じで、話していく。
「良い音だったね」
「そうですね」
「では、また」
こっちは、ロランスが答えた。
でもそれ以上会話が進展しないで、殿下は通り過ぎちゃった。
殿下の足音が遠ざかるのを聞いてから、ボクはようやく息を吐いた。
「偶然だよね?」
「多分、そうだよ」
それ以外にないよね。
こんな場所だし。
「今の、ちょっとだけびっくりした」
ロランスも同じだったんだ。
「うん」
ボクは頷きながら、ロランスが言ったことを肯定する。
「でも、何も起きなかったね」
「だよね」
「それでいいよね」
はにかみながら少し笑うロランス。
「ポラリス嬢にロランス嬢、お疲れ様」
すると後ろから声をかけられた。
振り返ってみると、エーベルト様が立っていた。
「お疲れ様です」
「演奏、良かったです」
音楽会で演奏していたけれど、疲れた表情は見せていなかった。
にっこりとしながら話していた。
「来てくれたんだね」
「うん!」
「あたしもポラリスさんも後ろの方ですけれど」
ロランス、言っちゃうんだ。
確かに嘘じゃ無いけれどね。
「いや、来てくれて嬉しいよ」
「エーベルト様って、演奏が上手いんですね」
「そうだね。趣味が高じて、今回の音楽会になったみたいなものだよ」
「へぇ~」
形になるってすごいね。
ボクはそこまでじゃないから。
「礼拝堂、響きが良かったと思ってるがどうだい?」
「音が逃げなかったです」
「ありがとう。礼拝堂にして良かったよ」
エーベルト様の問いに対して、ボクは自分が思った感想を伝える。
すると頷きながら喜んでいた。
「じゃあ、また明日」
「はい!」
エーベルト様はそう言って行っちゃった。
行ったら、ボクもロランスも寄宿舎の方向を見た。
「ね、夕食は戻ったら、すぐ食べる?」
「うん」
「だよね」
ボク達は、まだ耳の奥に音を残したまま、寄宿舎へ向かってまた歩き出した。




