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小学生男子だった僕、悪役令嬢の取り巻きに転生したのに、舞踏会で料理を食べてただけで王子様に選ばれました  作者: 奈香乃屋載叶(東都新宮)


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第88話 静かな王国史

 やがて教室に鐘が鳴って、授業が始まった。

 王国史のゴメス教授が黒板に文字を書いていく。

 教室には椅子が引かれる音や、ページをめくる音が流れていく。

 チョークが黒板を擦る音が、一定のリズムで続いていた。

 ボクもロランスもノートを取っていて、順調に進んでいった。


(今のところは落ちつていているね)


 アデリナ様には視線をそこまで向けずに。奥にはブランカ様もいるから。

 逆にアデリナ様がちょっとだけこっちを見ていたのは、仕方ないかもしれないけれど。

 だけど、距離を取るみたいにアデリナ様の弱さは見ない事にした。

 ブランカ様が見ているから大丈夫だよね。

 見ないというのは、距離を置くことじゃない。

 今は、見なくても大丈夫だと信じることだった。


「そこ、行を変えた方が書きやすいよ」


 ロランスは小声で教えてくれた。

 優しい感じの声がボクを落ち着きつかせる。


「ありがとう」


 それだけ。

 それだけなのにね。


(一昨日だったら、こんな一言でもドキッとしていたかも)


 今日はそこまでじゃないけれど。

 もしかしたら、今のボクは令嬢モードだからかな。


(こういう時間が、今のボクには一番難しくて、一番大事なんだ)


「レーゲンスブルク嬢、この部分は説明できますか?」


 教授がアデリナ様を指した。

 震えることもなく、落ち着いた笑みを見せている。

 本当、ヒロインって感じ。


「はい」


 声も落ち着いていて、はっきりとした声を出している。

 休みになっていたから、リラックス出来たのかな。

 一昨日の朝に会っただけだから分からないけれど。


「この条文は、王国法の仲でも例外規定にあたりーー」


 アデリナ様の回答に教室中が静かに聞いていた。

 ボクだって感心する。


(ちゃんと、いつものアデリナ様だ)


 完璧さを出している。

 それがボクにとっても、嬉しかった。

 教授が頷いた。


「よろしい。では続けます」


 そのまま続いていく。


「アデリナ様、今日は声が安定しているね」


 小声でロランスが話した。


「そうだよね」


「うん、休み前よりもね」


 ロランスも分かったんだ。

 確かにボクも分かったからね。

 でも、それ以上会話は起きず、授業は進んでいく。

 時間流れながら感じていた。


(少年服の話も、殿下に関する事も、誰もしない)


 ロランスも、ゼナイド様も、アデリナ様も、ブランカ様もただ授業を受けている。

 周りの光景を見て、気になっていたこともなく。


「あ」


「この部分ね」


 ノートに書く内容が一行飛ばしていた。

 ロランスが指で示してくれた。


「助かった」


「どういたしまして」


 感謝を伝えると、ロランスは微笑みながら、ボクに一礼する。


(事件、ゼロ)


 何も起こらなかったのがこんなにいいなんてね。

 アデリナ様も平然としているのだから。


「では、今日はここまで」


 鐘が鳴って、この授業が終わった。

 静かだった教室がざわついた。


「ふぅ……」


 アデリナ様が静かに立った。

 何も言わずに、一礼だけをして。

 ついていくように、ブランカ様も席を立って教室を出ていった。


「ね」


 アデリナ様が出ていった後、ロランスが優しい声をかける。


「なに?」


「今日、いい日だよ」


「うん」


 それはそうだね。

 変なことは起きないよね。それが正しいんだけど。

 こういう日が続けばいい。

 さて、次の授業へ向かわないと。

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