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小学生男子だった僕、悪役令嬢の取り巻きに転生したのに、舞踏会で料理を食べてただけで王子様に選ばれました  作者: 奈香乃屋載叶(東都新宮)


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第84話 静かな食堂

 食堂へ近づくにつれて、パンの焼けた匂いがしてきた。

 お昼をちょっとだけ過ぎているし、授業がないからか人もまばらで、騒がしくない。


「今日は空いているね」


「休みだからね。こんな感じだよ」


 ロランスと並んでトレイを取る。

 スープとパン、それから鶏肉を使ったソテー。

 特別なものは何もない、いつもの昼食。


(なのに、さっきまでと全然違う)


 列に並んでいる間も、何を取るか迷う余裕がある。

 一人だったら、たぶん適当に済ませていた。


「ポラリスさんって、パンが好きだよね」


 ロランスがボクの手元を見て言った。


「分かるの?」


「だって、真っ先に食べているから。余裕があったら、もっと食べているし」


(覚えられてる)


 嫌な感じじゃない。

 むしろ、少しだけくすぐったい。

 空いている窓際の席に座る。

 自然と向かい合わせじゃなくて、斜めに並ぶ形になった。


「……あ」


 座ってから気づく。

 この配置、昨日の喫茶店と似ている。


(いや、意識しすぎ)


 パンをある程度食べたら、スープに浸す。

 一口食べると、ちゃんと温かい。


「美味しいね」


 ちょっとだけ微笑みながら。


「だね」


 それだけの会話。

 でも、沈黙が気まずくならない。

 フォークの音。

 食器が触れる音。

 遠くで誰かが話している声。


(あ、これだ)


 さっきまで頭の中を占領していた少年服とか、評価とか、噂とか。

 今は、全部後ろに下がっている。


「ね」


 ロランスが、何気なく言う。


「今日は、無理しない日しよ」


 はにかみながら、ボクに向かって。


「もうしてないと思うけれど」


 でも気づいたら、さっきよりも呼吸が深くなっていた。


「それでいいからね」


 断言でも、命令でもない。

 ただの提案。


「午後はどうする?」


「分かんない。図書館か、部屋でゴロゴロか」


 決めていなかった。

 むしろ最初から決めるつもりはなかったけれど。


「いいね。どっちも」


(選択肢が増えてる)


 昨日までなら、”何をすべきか”を先に考えていた。

 今は、”どっちでもいい”と思える。


「ロランスは?」


「あたしは、ポラリスさんについていく」


「え」


 図書館ならまだしも、部屋までついてくるっていう事じゃないよね?


「冗談」


 そう言いながら、ロランスは笑った。

 良かった。

 ロランスが来ても、拒まなかったけれど。


「でも、半分くらい本気」


(半分って)


 その言い方が、丁度良く感じられた。

 重くないし、突き放してもいない。

 昼食を終える頃、ボクは気づいた。


(ときめいてる、って感じじゃない)


 胸が高鳴るわけでも、顔が熱くなるわけでもない。

 ただ、ちゃんと息が出来ている。


(これ、安心なんだ)


 恋かどうかは、まだ分からない。

 もしも恋だとして、令嬢同士っていうことになるよね。

 殿下と結ばれるよりも危ない気がする。

 でも、ここにいるのは楽。

 ボクは鶏肉のソテーを食べながら、上品すぎないソースの味を感じていた。

 そして食べ終わると、食器を片付けて、立ち上がる。


「このあと、どうする?」


 ボクは逆にロランスへ訊いてみた。


「少し散歩してから、戻ろうか」


 微笑の表情でロランスは答える。


「うん」


 そう答える声が、自然だった。

 ボクも一緒に散歩しようかな。

 学院の校舎を出ていって、散歩をしていく。

 ボクはロランスと並んで歩いていた。


「今日は静かなポラリスさんだね」


「そうかな」


 ボクを見ながら微笑んでいる。


「こういう日も、悪くないでしょ」


「そうだね」


 短い返事だけれども、ロランスは頷き、にこにこしていた。

 歩きながら、ボクは思った。


(余韻って、こういうことか)


 何も起きていないのに、ちゃんと満たされている。

 午後は、まだ長い。

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