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小学生男子だった僕、悪役令嬢の取り巻きに転生したのに、舞踏会で料理を食べてただけで王子様に選ばれました  作者: 奈香乃屋載叶(東都新宮)


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第83話 また掛けられる声

「どうしようかな」


 今度はどの本を読もうかな。

 図書館の奥にも様々な本がある。

 でも、ボクにはまだ分からない本もあったりして、完全に理解出来るわけじゃないけれど。


(これにしようかな)


 今度は聖女に関する本を読んでみることにした。

 仕立ての本を置いた机の前に座って、読んでいく。

 この本は歴代の聖女の絵が描かれている。

 必ずしも本人と同じではないけれどね。


「綺麗だね」


 描かれている聖女はどれも美人。

 ボクはちょっと、惚れるかもしれない。


「あっ、男の子っぽい」


 髪型とかで女の子だって分かるけれど、短めだし顔つきが男の子に見える聖女の絵もあった。

 男の子っぽい格好をするのが好きだったのかな。

 だけどそんな聖女って、少なかったりする。

 他ははっきりとした

 彼女だって、偶然見つけたような感じだし。


「ボクと同じような感じの人なんて居ないよね」


 というか、ボクが聖女になりたいわけじゃないから。

 いくつかのページを見て、聖女の姿を見た後。

 本を閉じ、棚に返して、探しながら歩いていく。

 そんな時だった。


「ポラリスさん」


 名前を呼ばれた瞬間、胸の奥で張り詰めていたものが、すっと緩んだ。

 声の方向を見てみると、そこにいたのはロランスだった。


「あっ、ロランス。どうしたの?」


 今日は初めて出会った。

 寄宿舎じゃなくて、図書館だけれども。

 ロランスが着ているのは昨日と同じいつもの私服。落ち着いた色合い。


「ここにいる気がしたんだ」


「どうして?」


「顔」


「……顔?」


 ロランスは近くまで来ると、くすっと笑った。


「”考えすぎてる顔”だったから」


(そんなの、見てないはずなのに)


 理由になっていない。

 でも、さっきまでの頭の中。

 少年服。

 評価。

 フェリックスの言葉。

 全部が、ふっと遠くなる。


「何してたの?」


「本、読んでた」


「どんな」


「服の本、それに聖女の本」


 一瞬だけ、ロランスの眉が動いた。

 でも、何も言わない。


「そっか」


 ロランスはそれだけ。

 それだけなのに、不思議と安心した。


「ね」


「なに?」


「お昼、ちょっと過ぎているよ」


「あ、ほんとだ」


 窓の外を見てみると確かにお昼の時間を過ぎようとしていた。

 本を読んでいて時間が経っていたんだ。


「一緒に行こ」


 問いじゃない。

 当たり前みたいな声。

 ボクは、考えるより先に頷いていた。


「うん」


 並んで歩き出す。

 さっきまで一人だった廊下なのに、空気が少しだけ柔らかくなる。


(あれ)


 気づく。

 少年服の事も。

 帽子の事も。

 評価の事も。

 今は、考えなくていい。


「さっきさ」


「うん?」


「フェリックス様に会った」


 ロランスにあの事を話すことにした。


「知ってる」


「え?」


「すれ違った」


(見られてた!?)


 だからここにいるって分かったのかな。

 ロランスは、何でもない調子で続ける。


「で、ポラリスさんが”考え込む顔”してた」


「そんなに分かりやすい?」


「うん」


 即答。


「でもね」


 少しだけ、声が柔らかくなる。


「今は、ちゃんと戻ってる」


「戻ってる?」


「そう。いつものポラリスさん」


 胸の奥が、静かに落ち着いた。


「だから大丈夫」


「何が?」


「全部」


 それ以上は言わない。

 でも、言われなくても分かる。


(空気、変わった)


 ボクは、深く考えるのをやめて、そのままロランスの隣を歩いた。

 さっきまで胸の奥に引っかかっていた言葉達が、ひとつも浮かんでこなくなっていることに気づいた。

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