第81話 私服姿のボクとフェリックス様
「今日はどうしようかな」
ボクは寄宿舎の中を歩いていた。
今日も学院は休みだけれども、また王都に出かけたら疲れちゃうかな。
明日からまた授業があるんだし。
だから、ブラブラとね。
「あっ、おはよう」
「ごきげんよう、ポラリス嬢」
ボクは取り巻きの一人とすれ違った。
普通に会釈してすれ違うだけで、変な展開にはならなかった。
(何も起きないね)
ボクを見る視線があるけれど、そこまでの噂話は起きていない。
噂、って言っても、笑い話寄りのやつだ。
心配や詮索より、「へえ」って感じの。
ただ”今日の服装はどんな感じなのかな”っていう程度。
私服姿で、ブラウスやスカートを着ているけれど。
「何をしようかな」
悩んでいたけれども、とりあえず部屋で考えることにした。
ベッドの上で横になって、時間が過ぎるのを感じるだけ。
ちょっとは考えていたけれど、布団がふわふわなのもあって、時間はそこまで長くなかった。
「とりあえず、図書館へ行こうかな」
まだ昼前くらいだから、ちょっと勉強しよう。
図書館は学院の校舎にあるけれど、ここは休みの日でも解放しているから。
一人で落ち着けるのもあるから。
ということで、図書館へ。寄宿舎よりも静かでローヒールを踏んだ瞬間、絨毯に音が沈んでいくようだった。
「王国史の本でも読もうかな」
ボクは棚から本を取り出す。
そして適当なページを開いて読んでいく。
これ、転生してきてすぐは全く読めなかったけれど、少しずつ読めるようになったんだよね。
最初は挿絵の部分だけ、分かったの。
それくらい。
「おっ、ポラリスちゃんここにいたんだな」
ボクを呼ぶ声がして、振り向いてみるとそこにはフェリックス様が立っていた。
彼も私服姿だった。フェリックス様の私服は、学院の制服を少し柔らかくしたみたいな服装で、昨日のボクの少年服より、ずっと”いつも通り”に見えた。
「フェリックス様」
いつものような感じ。
でも、図書館だから落ち着いた感じで。
ボクも小さめの声にしている。
「もし良かったら、外で話そうか。ここは図書館だから」
「うん」
ボクは王国史の本を棚に戻して、図書館を出ていく。
そして廊下に出ていって、話すことに。
「今日は少年服じゃないんだな」
「な、何の話?」
ボクは言われたことをとぼける。
フェリックス様が知っているはずのない事なんだけど。
「えー? 知らないって顔するの?」
にやっと笑っている。
「昨日、王都で”年下彼氏”をやってたって噂」
(えっ、知らないところで情報で回っているの!?)
ゼナイド様にも届いていたけれど、誰が噂しているんだろう。
「ち、違うから!」
「はいはい」
ボクの振り払おうとする否定に対して、ひらひらと手を振っていた。
「別に責めてないって。むしろ」
一瞬だけ、視線が真面目になった。
「似合っていたって話、聞いたぞ」
「…………」
言葉が出てこない。
「顔紅いぞ」
「あ、赤くないって!」
フェリックス様は肩をすくめた。
「ま、安心しろ。殿下関係の話じゃなきゃ、俺は黙っとく」
(そこ、分かっているのが逆に怖い)
「たださ」
少しだけ声を落として、
「自分が楽な格好をして、楽な距離で笑っているなら、それでいいだろ」
すぐに、元の軽さに戻った。
「ま、次は帽子も合わせろよ。完成度を上げるなら」
(やっぱり、そう思っちゃうんだ。ロランスも同じ事を言っていたし)
フェリックスは手を振って去っていった。
(……軽いのに、逃げ場がない)




