第8話 模範組、氷の微笑
とはいっても、ここまで来たなら授業を受けることにした。
教師のハンナ・ツー・アメー先生が教室に入ってくる。
でも困惑している表情をしていた。理由は確実にボクのせいだろう。
目立たなかった生徒が、今日から王家の婚約候補になったかもしれない立場になったんだから。
「では、これから授業だけれど……ポラリス嬢、次の実技は”模範組”に入りなさい」
ざわっ。
それまで模範生として前列を占めていた令嬢達の視線が、一斉に突き刺さる。
ハンナ先生は、いつもよりも言葉を選んでいるようだった。王家に関わる話題は、教員にとっても地雷らしい。
ここでは、誰もが誰かの顔色をうかがって生きている。
模範組……成績優秀な生徒や公爵家の令嬢、それに王家や公爵と婚約している令嬢が入るポジション。
ボクは成績も中の下だったし、そこまでの名家じゃない。
それなのに、入ることになった。
模範組の机は、窓際の最も日当たりのいい列に並んでいる。
けれど、その空気は日差しよりもずっと冷たかった。
まるで光の届かない、氷の王国みたい。
(や、やめて……先生、空気を読んで……)
教師は形式的に扱っているだけだと思うけれど、結果としては火に油を注ぐ。
学院という閉じた世界で、”殿下に選ばれた”という事実は、最悪の特権だった。
一夜にして、ボクは最悪の立場になってしまったのだ。
「よ、よろしくお願いします……」
「あらあら、模範組として恥をかかないようにね」
「ついていかないと、落ちこぼれになるわよ」
早速模範組から圧力をかけられた。
肩身が狭いし、これから起こりそうな事が頭の中によぎっていく。
(昨日まで取り巻きだったのに、なんで急に……しかも、みんなの視線が刺さる。やばい、胃がキリキリする……お願いだから、誰も話しかけないで……)
ボクは机に突っ伏したくなる衝動をこらえながら、小学生男子としての本能”とにかくこの場をやり過ごす”に従っていた。
ゼナイド様の視線が鋭く突き刺さる。
アデリナ様は優雅に微笑んで「おめでとうございます」と言いながら、その瞳には計り知れない冷たさが宿っていた。
ゼナイド様の視線は刺すように冷たく、アデリナ様の笑みは氷よりも静かだった。
どちらも違う温度の”怒り”を宿している。
(これ、小学生男子の人生経験で耐えられる圧じゃないよ……! 家庭科の調理実習の発表の方がまだマシだってば……)
そんな中、ハンナ先生が何か言いかけて口をつぐんだ。
黒板の端に貼られた次週の予定表には、”合同実技試験”の文字。
(……終わった。これ、絶対何か起きるやつだ……)




