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小学生男子だった僕、悪役令嬢の取り巻きに転生したのに、舞踏会で料理を食べてただけで王子様に選ばれました  作者: 奈香乃屋載叶(東都新宮)


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第79話 訪ねてきたロランス

 とりあえずちょっと休んでから、この服を脱ごう。

 で、脱いでから食堂へ行こう。

 そう思って、目を閉じたまま時間が経つのを体感していた、その時。


 ーーコンコン。


 扉を叩く音は、控えめだった。


(え?)


 一瞬、聞き間違いかと思った。

 でも、間を置いて、もう一度。


 ーーコンコン。


 確かに、ノック。


(誰?)


 夕食が近いこの時間に訪ねてくる人なんて、限られている

 嫌な予感と、変な期待が同時に湧いた。

 とりあえず、訪ねてくる人には申し訳ないけれど、すぐに着替えてから開けよう。


「……はい?」


 ボクの声は少しだけ掠れていた。


「起きてる?」


 やっぱり。


(ロランスだ)


 慌てて身体を起こす。

 どうしよう、ロランスだったら着替えなくても大丈夫かな。


(ロランスだったら、着替えなくてもいいかな)


 そう思って、扉を開ける。

 やっぱり扉の前にいたのは、ロランスだった。


「ごめんね、急に」


 昼間より落ち着いた声。

 寄宿舎の少しだけ落ち着いたロランス。


「どうしたの?」


「寄宿舎に戻ってから、ずっと気になっていたから」


 はにかみながらボクに理由を伝えていた。


「ちょっとだけ、話してもいい?」


「うん」


 ロランスは部屋の中に入る。

 ボクは誰も見ていないのに安心して、扉をそっと閉める。

 彼女の視線が、少年服に一瞬だけ落ちる。


「そのままなんだ」


「疲れてて」


「そっか」


 ロランスはそれ以上、何も言わない。

 少し考えてから、口を開いていた。


「ね、ポラリスさん」


「なに?」


「今日さ」


 一拍。


「楽しかった?」


 不意打ちだった。


「……楽しかったよ」


 即答してしまった。

 否定する理由なんて、もうなかった。

 ロランスは、ほっとしたように微笑んだ。


「帰り道さ」


「うん」


「離すタイミング、困ってたでしょ」


(やっぱり気づいていたんだ)


「顔に全部出てた」


「そんなに?」


「うん。すごく」


 責める感じじゃない。

 むしろ、優しい確認。


「嫌だったなら、ちゃんと離すつもりだったよ」


「……嫌じゃなかった」


 また、即答。


(あ)


 言ってから気づく。

 今日、即答多すぎない?

 ロランスは、少しだけ目を細めた。


「そっか」


 でもそれだけ言って、話を続けなかった。

 沈黙が落ちる。

 でも、重くない。


「ね」


「なに?」


「少年服のポラリスさんね」


 一瞬、間。


「可愛いとか、そういうのじゃなくて」


「うん」


「安心する」


(え、安心するってどういう)


 頭の中で言葉が出てきたけれども、口には出なかった。

 それって、”危なっかしくない”って意味じゃなくて、”見ていなくても大丈夫”ってことなんじゃ。

 ボクなりに考えてみた。

 でもロランスが答えを出してくれた。


「無理してない感じがして」


 胸の奥が、静かに揺れた。


「だからさ」


 ロランスは、扉の方へ一歩下がりながら言う。


「また一緒に出かける時は」


「うん」


「その格好でもいいし、違うのでもいい」


 一瞬だけ、こちらを見る。


「ポラリスさんが、楽な方で」


 それだけ。

 ロランスははにかんだ。


「じゃ、食堂で待っているから。夕食、まだでしょ?」


「うん」


 ボクはそう頷いた。


「好きなタイミングでいいよ。ポラリスさんが着替える時間も必要だからね」


「だね。いつものに着替えるから」


 さすがにこのまま、食堂へいくわけにもいかない。

 いつもの私服なら問題がないけれど。


「じゃあね」


 そう言って、ロランスは部屋を後にした。

 扉が閉まる。

 一人になった部屋。

 さっきより、ずっと静かだった。

 またベッドに倒れ込む。


(ずるい)


 否定もしない。

 押しつけもしない。

 でも、ちゃんと見てる。


(それが一番、効くんだけど)


 少年服の袖を、きゅっと握る。


(これ、次も着るね)


 確信だけが、静かに残った。

 ただ、この服のまま食堂に行かないって決めたのは、少なくとも正解かもしれない。


「ロランスを待たせちゃ悪いよね」


 少ししてから、ボクは少年服を脱いでクローゼットにしまう。

 長袖のブラウスにスカート。

 いつも着ている私服だった。


(これは完全に”ポラリス・バルカナバード”だ)


 それ以外の何者でもない。

 令嬢の可愛らしい顔に、ワインレッドの髪。

 服は女の子が着るもの。

 戻ってきた、感じだね。


「今はこれで良いのかな」


 ボクは部屋を出ていって、食堂へ向かっていった。

 食堂では言っていた通り、ロランスが待ってくれていた。

 パンとポタージュを載せたお盆を持って、ロランスの隣に座る。


「ポラリスさん、着替えたんだ」


「うん」


「それも似合っているよ。いつものだけどね」


 ロランスは微笑みながら、ボクの姿を見ていた。

 ちょっと嬉しくなる。

 今は同じ学院の生徒同士が強い。


「じゃあ食べよっか」


「だね。いただきます」


 ボクは夕ご飯を食べていった。

 少年服で一緒にいるのもいいけれど、いつものようにこの服でも安心できるね。

 昼間より、少しだけ距離がある。

 でも、その距離が嫌じゃなかった。

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