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小学生男子だった僕、悪役令嬢の取り巻きに転生したのに、舞踏会で料理を食べてただけで王子様に選ばれました  作者: 奈香乃屋載叶(東都新宮)


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第77話 少年服でのお出かけ9

 会計を済ませて、喫茶店の扉を押す。

 王都の通りは、夕方に近づくにつれて人通りが少しずつ落ち着いてきた。

 買い物帰りの人、家路を急ぐ人。

 喧騒が、ゆっくりとほどけていく時間帯。


「ふぅ」


 無意識に息を吐いた、その瞬間。

 ぎゅっ。


「え?」


 ロランス、当たり前みたいにボクの手を取った。


「え、ロランス?」


「ん?」


 振り向いたロランスは、きょとんとしてる。

 『何かおかしい?』という顔。


「さっきの続き」


「続きって……」


「年上彼女と年下彼氏でしょ?」


(まだ続いてる!?)


 手は、しっかり繋がれたまま。

 指と指の間まで、きっちり。


(近い、近いって!)


 でも、王都の市街地。

 人の往来もあるし、さっきの喫茶店の流れも在る。


(今、離したら逆に不自然じゃない?)


 そう思った瞬間、離せなくなった。


「もう寄宿舎へ帰る形でいい?」


「それでいいよ」


 こんな時間だから、帰るしかないよね。

 という事で、ロランスと寄宿舎まで手を繋いで歩くことに。


「ねえ」


「なに?」


「これ、いつまで?」


 ロランスは少し考える素振りをしてから、にこっと笑う。


「離したい?」


「そういう意味じゃなくて」


「じゃあ、もう少し」


(選択肢がなかった!)


 歩き出す。歩調は自然。

 なのに、手だけが意識の外に出てこない。


(右手、仕事しすぎじゃない?)


 少し汗ばんできた。

 ミルクティーの温度のせいじゃない。

 通りすがりの人の視線が、さっきより柔らかい。


「若いっていいわね」


「初々しいわ」


 年配の女性達がボク達を見て微笑んでいた。


(まだ続いてる!!)


 ロランスは、肩をすくめて小声で。


「ほら、問題ない」


「問題しかないよ……」


 曲がり角に差し掛かる。


(ここだ。ここで離すのが自然だよね? 角、曲がるし。段差もあるし)


 そう思った瞬間。


「あ」


 ロランスが、少しだけ握る力を弱めた。


(今だ!)


 なのに。

 離れない。


(え、なんで!?)


 指が絡まったまま、タイミングを逃した。

 どうして


「ポラリスさん」


「な、なに……」


「今、離そうとしてたでしょ。顔に出てた」


(そんなに分かりやすいの!?)


 確かにボクって前々から顔に出やすいタイプだけど。

 ロランスにだったら、余計に分かっちゃうのかな。


「だって」


 そう言うと、にっこりとロランスは微笑んだ。


「大丈夫だよ」


(何が大丈夫なの!?)


「まだ寄宿舎までは距離があるから」


(しばらく繋いだままって事!?)


 結局ロランスと手を繋いだまま、歩いていた。

 もう寄宿舎まで向かっているだけなのに、デートの最中に感じてしまう。

 顔がほんのり紅くなる。

 ロランスと歩いているうちに、喫茶店から寄宿舎まで戻る道は、もう半分も無かった。


(そろそろ、だよね)


 マンガで見たデートって、”じゃあね”の少し前で、自然に離していた。

 だからそんな感じで離せばいいのかな。

 タイミングが分からなくなっているし。


「ね、ねえ」


「ん?」


 即返事。

 歩調も、手の力も変わらない。


(あっ、止まらない)


「そ、その……」


 言葉が上手く出てこない。


(どうして出ないの!? ”手”って言うだけだよ、”もうすぐ寄宿舎だから”っておまけして!)


 自分に言い聞かせようとしているけれど、喉が許可してくれない。

 代わりに出てきたのは。


「暗くなってきたね」


(違うって!!)


 自分で自分にツッコミを入れてしまった。


「そうだね」


 ロランスは穏やかに答えた。


「夕方の王都、好きなんだ」


(そうじゃなくて!)


 空とボクを見ながら話している。

 確かに夕焼けが綺麗だね、ってそうじゃないって。

 やがて門が見えてきた。寄宿舎の影。

 完全に”帰り道の終盤”。


(ここだよ、ここで離すんだ)


 何回もボクは心の中で同じ様な事を言っているんだろう。

 そのたびに失敗しているし。


(でも寄宿舎の中まで繋ぐことは出来ないから)


 なのに。


(……離れない)


 ロランスの手は、離す気配がない。

 むしろ、少しだけ指が動いた。


(なんで!?)


 握り直した。

 自然に。


(それ、継続の意思表示じゃない!?)


 心臓が一瞬跳ねる。


(やばい、ドキッとした。元男の子の理性、どこ行ったの!?)


 門の前まで来てしまった。


(もう、ここしかない)


「ロランス」


「なに?」


 今度は、少しだけ視線をこちらに向ける。

 微笑みながら。


「ここ、もう……」


 ”寄宿舎だから”。

 そこまで言いかけて。

 ロランスが、先に口を開いた。


「じゃあ」


 一歩、足を止めて。


「ここまで、だね」


 ゆっくりと、指がほどかれる。

 一気に、空気が軽くなった。

 でも同時に。


(え、ちょっと……)


「ここから先は、見られたら困るでしょ?」


 手の温もりが、すっと消えて。


(あれ?)


 喪失感が一気に出てくる。

 魔法が解けたみたい。


(さみしい……?)


 自分で気づいて、愕然とする。


(待って待って。今、何を感じたの!?)


 ロランスは、何もなかったみたいに微笑んだ。


「今日は楽しかった」


「……う、うん」


 返事が少し遅れた。


「ポラリスさん。また、出かけよ?」


「また。また手、繋ぐやつだ)


「考えとくよ」


 精一杯の抵抗だった。

 ロランスは、くすっと笑った。


「その返事、だいたい”行く”だよね」


(バレてる!?)


 背中を向けて、寄宿舎の方へ歩き出すロランス。

 ボクは、しばらくその場に立っていた。

 さっきまで、何かがあったはずの右手を見つめて。

 まだロランスが握っていた感覚が残っている、その右手を。


(手を離すの、こんなの難しいと思わなかった)


 そして、遅れてやってくる結論。


(今日のボク。完全に”彼氏役”に慣れ始めてた)


 ため息をひとつ。


(危ない)


 もしも”江坂芯星”のままだったら、”彼氏役”が役じゃなかったのかな。

 今はポラリス・バルカナバードだから、”彼氏役”なんだ。

 ボクの身体を見ながら、考えた。


(これは、本当に危ない)


 そう思いながらも、右手をそっと握りしめたまま。

 ボクは寄宿舎へと戻っていった。

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